第1話 いざ、東京へ!Ⅱ

「ここからは二手に別れるぞ。俺とモモさんは兄さんのところへ向かう。お前たちは、何かネタになりそうなものを探して来い。リーダーはお玉だ。頼めるな?」

 東京の地。新宿区へと降り立った零次たちは、この地域では定番の溜まり場、アルタ前で今後を打ち合わせていた。

「へっ、あたし?」

 ぽへーっと話を聞いていた玉藻が、ハッとして視線を向けてきた。

「当然だろう。そっちのグループで最年長なのはお前だ。しっかりまとめてくれよ」

「うぉおお~! あたしがリーダー! お姉さん!!」

「む?」

 様子が変だ。責任者に任命された途端、傍から見てもわかるほどに精気が宿った。

「じゃあ皆、あたしに着いてきて! まずは北に向かってレッツラゴーだよ!」

 むんすっ、と荒い鼻息を鳴らした玉藻は、指差した方角へと歩き出す。

「あー……お姉さま? そっちは南なのだ。北はあっち!」

 マキナは方角が違うことに気がついて、玉藻の服の袖をクイクイと引っ張る。

「え? あっははは、ごめんね。そうそうこっちじゃこっち。さっすがマキちゃん」

 と、フォローしたのもつかの間――

「わっ!? あばばば!?」

 今度は何もないはずの路面に躓いて、玉藻の体が大きくつんのめった。

「玉藻!」

「タマネェ!?」

「――ふぁ、ぶしぃっ!?」

 予想可能、回避不可能。ドジっ子属性を余すことなく発揮した玉藻は地面へと激突していた。

「だらしない断末魔だな……オイ」

「玉藻さん、大丈夫ですか」

 メイドたちは急いで彼女の元へと駆け寄った。

 だが、零次は別段焦っていなかった。

 玉藻は、地面と衝突する瞬間、顔面を手で覆っていた。更にその豊満な胸がクッションとなり衝撃を吸収していたのだ。

 こんなアクシデントは、別に今日に限った話ではない。彼女はドジではあるが、馬鹿ではない。これまでのドジの経験から確かな処世術は学んでいるのである。

「うぇっへへへ……いやぁ、失敗失敗。ガードできて良かったぁ~」

 事実、派手にずっこけたわりには玉藻は元気だった。

 手をひらひらと振っている様子から察するに、手の甲に関してはケアの必要がありそうだ。

「モモさん。ハンカチを」

「は――どうぞ」

 零次は姫依からハンカチを貰うと包帯を巻くようにして玉藻の手を優しく包んだ。

「余計な心配をさせるな。ドジ娘」

「……うん。ごめんね、零ちゃん」

 ちょっと良い雰囲気だ。

 恋愛ゲームならこのイベントで好感度が一ポイントは上がったことだろう。

 手を差し出し、されるがままに介抱されている玉藻の頬は微かに紅く染まっていた。

「さぁ、というわけで頼んだぞ、後輩組。頼りないお姉さんだが介抱してやってくれ。集合時間は追って連絡する」

「「「はーい!」」」

 ふぇ? と呆ける玉藻の声を掻き消すようにして、後輩の三人が元気よく返事をした。

「行くよ、お姉さま。時間は有限。立ち止まってちゃあ勿体無いのだ!」

「北に行くんだよね? オネエチャ、早速ネットで検索だよ。何かネタになるもの、探しといてぇ~!」

「おけぃ。東京グルメで調べる」

「こらこら、ネタ探しが先なのだ。このままだと本当にクビになっちゃうよ?」

「美味しいものをモグモグしてぇ、栄養を補給してから探すんだよっ! お金はじいじからた~くさん貰ってるから、使わないと損だよぉ~!」

「わっ、ちょっ、みんな引っ張らないで! ついてく、着いてくから! あわわわ……零ちゃん、モモさ~ん、また後でね~~っ!」

 玉藻はなす術もなく、ちびっ子たちに連行されていく。

 子供たちに振り回されるお姉さんの図。彼女の姿はその情景にカチリと重なった。

「達者でなー!」

「お気をつけて」

 零次と姫依は揃って手を振りメイドたちを見送った。

「さてと。俺たちも行くぞ」

「承知しました」

 ここからは暫し真面目モードに入る。

 踵を返した零次の表情からは、先ほどまでの穏やかな笑顔は消え失せていた。

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