落ちぶれた魔女、世界を変える

どすこいおむすび君

第1話

――――――彼女は僕がいじめられて泣いているといつも飛んで来て、いじめっ子を追っ払ってくれた。

いじめられるのは僕は弱いからだ。線の細い儚げな容姿は女の子みたいだと良く馬鹿にされた。獅子が名前に入っている癖に本人はまるで子鹿のよう、というギャップがまた揶揄いがいがあった、というのもあるだろう。

弱いものは淘汰される。当然の摂理ではある。けれども彼女はその摂理にご不満な様子だった。


「未来の可能性ってやつがあるじゃない?それを”カンアン”するべきよ。シド君は絶対強くなると思うし、私」


勘案。

彼女の父は大陸中にその名轟く大魔術師だ。彼が復活させた魔術結社の団長でもある。

そして偉大な父親から生まれた彼女は周囲の大きすぎる期待にも潰れず、むしろ大いに応えるべく努力を欠かさない。

そのために時折こうして子供には似合わない難しい言葉を使うのだった。


「でも、僕は自分のこと、強くなれるって思えないんだ……」


今思えば相当卑屈な言葉だったと思う。

彼女の優しさに甘えてしまっていたのだろう。

けれども彼女は嫌な顔一つせず、顎に指をあてて暫く思案した後に言った。


「……シド君が自分を信じられないなら、私が信じる。

いえ、信じたことが本当になるように、行動を起こさざるを得ないようにしてあげる。

だから一つ、約束をしましょう」


太陽のような笑顔を浮かべて、彼女は僕に手を差し伸べた。


「私は父の跡を継いでこの魔術結社の団長になる。だから、その時は団長代理になってよ。シド君」


今も色褪せない、大切な光景。

僕、いや――――――俺は、その時決めたのだ。

強くなろう。彼女を支えるために。そして、この笑顔をずっと守ろうと。




――――――あれから10年。


「おいアカツキィ!床の汚れ取れてねーんだよ!もっと力入れて磨けや!

なんだこれは鏡か?ってぐらいピカピカにしろや!」


怒号が飛ぶ。


「は、はぃいいぃ……只今ぁあ…」


その声にビクッと肩を跳ね上げ、震える声で返事をする少女。

薄汚れたダボダボのジャージを着て、モップを握りしめている。

背中を丸めており、高くない身長も相まってモップで体を支えているようにも見える。

その姿はジャケットやシャツなどの身綺麗な恰好をするのが一般的な魔術師たちの中では更にくすんで見えた。

彼女の名前はアカツキ・ログレス。

19世紀に栄華を誇った魔術結社「黄金の夜明け団」を現代に再興し、その団長の座に就任した周囲の信頼も厚き「現代最高の魔術師」、十六夜・ログレスの一人娘にして、かつては次期団長として期待されたエース・オブ・エース。


そんな彼女は―――――――――落ちぶれていた。

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