ごまんとある物語の中で最も普遍的でハッピーエンドに至りたい物語

空想類

第1話 ある村の光景


---ラオコーン歴 1148年---


勇者サムシャ一行がポポロマーンと呼ばれる魔王を倒してから48年が経った頃からこの話は始まる。


そこはどこにでもある小さな村。村の周りは森に囲まれており、端ずれの方には少しの牧場と田んぼ、そして湖がある土地に暮らしている集落。その村の人口は50人にも満たず、先日は長老と呼ばれていたカサムと言う指導者さえも亡くなってしまい、次の指導者を決めるのも大変なありふれた村。そんな村の中でも少し高い丘の位置にある建物で村にいる大人たちが話し合いをしていた。


「カサムが亡くなってから10日も経ったか。葬儀をするためここまでは指導者が決められなかったが、そろそろ決めんといかんな。」

と元村長のカサムの次に年齢の高いロージが発言をする。そんな発言に年配の女性から


「そうは言ってもね。元々、カサムさんがポポロマーン大戦の際に焼け野原になった別々の村の住民を集めて作ってくれたのがここじゃない?正直、カサムさんが遺言と残してくれた次の村長候補であるあなたがやってくれた方がみんな納得すると思うんだけど。」


と返ってきた。

その発言に建物にいたロージ以外の全員がそうだよなと賛同していた。ただ、その発言に対しロージはまたかという顔をして何度言ったか分からない事情を説明した。


「何度も言ったが私ももう老い先が短い。このまま、ここで村長として改めて務めたとしてもそう長くは保たんよ。それなら今のうちに若いものから決めた方がええんじゃないか?今のうちに経験を積ませればこの村を長生きさせられる素晴らしい指導者になるはずだ。それをカサムにも遺言が書かれる前に言ったが、あいつは『そんなん知らん、お前が責任を持って指導者となりなんとかしろ』ときたものだ。あいつは本当いくつになっても・・・」


「あーまた、ロージの愚痴が始まった。この状態になると年のせいか本当に周りの声届かなくなるんだよな。どうしようか、みんな?」


と今までの中では一番若い声からの発言があった。

その声は先ほど、発言した年配の女性のその後ろにいたアサムという若者からであった。


「で、実際、みんなはロージの言う方針はどう思うよ?俺も入れても村の若者?って言うのが5人。そもそもあまりにも少ないし、経験も知識もないから適任ではないとみんなも思ってるんだよね?だからロージに任せようとしてだと思うんだけど。俺からしても今いる若い世代に任せるのは違うと思うんだよね。なら、俺の親の世代からが妥当じゃない?ロージは納得しないだろうけど、ここまで揉めてるなら妥協案としてはしょうがないでしょ?そう思うでしょ、親父殿?」


と話を振られたアサムの父であるラッサムはなんとも情けない顔をしながら


「そ、そうだね。アサムが言う通りだとは思うよ。す、少なくとも君らの若い世代に比べれば僕たちの世代は人数が多いわけだしね。人数が多いからいいわけではないけど、その分選択肢はえ、得られるからね。」


と答えた。その返答に対して周りから「そしたら、ロージヘの説得役はラッサムからしてくれよ?」「そうだな、実の親父だしな。」「ラッサム、任せたぞ」と言う投げやりな発言が多く挙がった。それらの発言に先ほどよりも情けない顔をしながら「やっぱ、そうなるよね。」と肩を落とした。みんなロージへの説得がめんどくさくて元々考えていたことを言えなかったのだ。更にその子供へ説得してくれとは進んで言いにくいと言うのもあり、アサムからその提案をしてくれたのは渡りに船だったと言うことだ。

そんな父親に多少の申し訳なさも感じながら当たり前の質問として、


「しかし、親父殿。なんでお爺様は若者に指導者となるのを薦めるのですかね?俺みたいな若輩者でもそれはおかしいと思いますよ?」


と問いかけた。『そ、それはね・・・。』と答えようとしたラッサムの声に被せるように


「そりゃ、ロージさんからしたら孫のお前に期待してんのさ、アサム。」


と貫禄のある声でハーリーという体型ががっしりとした女性が答えた。そして、続けて


「教官としてお前を育てた私が言うんだから間違いない。お前はこの村に限らず都市に行っても充分通用する武勇と適応力を持っているのさ。それを村のために今のうちから役立てろとロージさんは言っていたろ?そりゃ、お前だけじゃなく他のガリバンやナイシャ、フーミャも当てはまるがね。こんな田舎の村で腐らせるには勿体無い才能たちだとロージさんとは話していたよ。だからこそ、若者たちに村長を任せろとこんだけ言って子供みたいにごねてんのさ。ありゃ、でかい子供だね、ワハハ。」


と豪快に笑いながら言った。そんな発言に今まで会話に入ってこなかったナイシャが短く「私を巻き込むな」と怒気をはらませて言った。フーミャはそれに対して「まあまあ、評価してもらってるし落ち着きなって」と火消しに動いている。


「ハーリー教官、評価は大変ありがたいんですが正直実感ないんですよね。剣術はハリガンが強いし、攻撃魔術はナイシャ、補助魔法はフーミャが俺よりも上手い。それに年下のヤナイなんて暗殺、索敵が俺より上手いじゃないですか。どれも俺は2番目なんでなんとも言えないです。親父殿の世代とは比較も出来ないですしね。」


「本当にお前は自信の無さだけは親父譲りなのをどうにかしな。」


とアサムの不安を父親の遺伝子にせいにして終わらせようとする。そこに加勢するようにアサムの目の前に来た人物、ハリガンが


「そうだぜ、アサム!お前は少なくとも剣術で俺には勝てないがそれ以外は勝ってるじゃねえかよ。俺も村の大人たちと訓練しててなんだかんだアサムが1番苦手だぜ。自信持てよ!」


と眼前に来て言い放った。

『ちょっと近いな、ハリガン。』といいながら後退りするアサム。なぜかハリガンはいつも近い。遠ざかろうとしても話す時となると近くなる。しかも俺の時だけ。それを見てナイシャとフーミャはニヤニヤしているのもいつもの光景だ。ハーリーは言いたいことは言ったという顔でハリガンに後は任すとラッサムとロージの会話に混ざりに行った。

アサムはハリガンから距離をとりながら、村もなんだかんだカサムと言う指導者がいなくなっても変わらず過ごせそうだと安堵したのだった。

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