第75話 パーティー好きな45歳

「そんな格好、何が良いのかしらね」


「母さん、もう少し静かに話して。俺もそれ言ってたけど、物凄い勢いで睨まれたんだよ。それに後でちょっと後悔。本当に嬉しそうにしてるんだ。だから本人達が気に入っているうちはさ」


「あらあら、そうなの。分かった。でもこれからあの人が帰ってくるとね。はぁ、ただでさえ面倒なのに。もっと面倒な事になるわよねぇ」


「そこは、まぁ。でもラビ達はさ、喜んでいるから」


「分かっているわ。注意するのはあの人だけにしておくわよ」


 今ラビ達は、あの面白い格好をしたまま、父さんの帰りを待っている。そう、ラビ達が格好を尊敬している父さんの帰りを。


 そして俺はといえば、ラビ達の格好を見て、そんな格好とか、どこが良いんだ? とか。そういう事を、本人達の前で言う事をやめる事にした。

 

 晴翔と別れてから、家までの道をゆっくり散歩しながら帰った俺達。その時にあんまりはしゃぐもんだから、どこが良いんだよって、いつもの調子で言ったんだよ。そうしたら物凄い勢いで睨まれ怒られて。


 いつも言ってるのに、何でそんなに反応するのかと思ったら、通りすがりの人達に可愛いって、カッコいいて言われて、本当に嬉しかったんだと思う。自分達で選んだものが、みんなに褒められたんだからな。

 それなのに俺がいつまでも否定的な事を言っていたから、それでたぶん怒ったんだ。


 そして家までもう少しの所で会ったご近所さん達にも、可愛いカッコいいと言われたラビ達は、今日1番の笑顔をみせて。


 その笑顔を見て俺はもう、本人達の前では否定的な事を言うのはやめようって思ったんだ。ちょっと後悔だよ。あんなに喜んでたんだから、もっと前から言うのをやめておけば良かったって。そう、可愛いに変わりはないんだし。そこに面白いが付くけどさ。


 だから母さんにも協力してもらう事にしたんだ。ただ、父さんの方は。何かあれば、父さんの方にだけ言っておくって言っていたど。

 それもラビ達がいない所で言ってもらわなくちゃ。ラビ達にとっては、1番カッコいい格好をしているのが父さんだからな。怒られている姿はちょっと。


「母さん、父さんに注意する時も、ラビ達がいない所で頼むよ」


「ええ、分かっているわよ。ただねぇ、何か面倒なことがあった時は、なんとじゃそれでも止めるのよ? みんなが可愛すぎるラビ達を見て、仕事が捗らなくなって困るとか、グッズが汚れたら大変でしょう? とか。何でも良いから、ね」


「やっぱりそうなるかな?」


「なるわね、絶対」


 だようなぁ、と思いながら、ラビ達と父さんを待つ。


 そうして21時ちょっと前に、父さんがダンジョンから帰ってきた。今日は個人的にダンジョンに素材をとりに行くって言っていたけど、品質の良いものがたくさん採取できたようで、物凄く機嫌良く帰ってきた。


「よう! 帰ったぞ!! 今日は最高の1日だった!! これなら当分の間、素材には困らないだろう。それに換金する方も……」


 話している途中で止まる父さん。ラビ達の姿に気づいて止まったんだよ。そしてニコニコしていたのが、さらにニコニコになり、ラビ達の元へ駆け寄った。


「何だお前達、そんなに素敵な格好をして!! うん、良いじゃないか!! 可愛いしカッコいいぞ!!」


 俺が注意しなくても、自然とその言葉が出た父さん。さすがパーティーグッズ大好き父さんだ。


 そしてすぐにその辺に荷物をほっぽりだし、ラビ達と話しをしようとしたんだけど、母さんにお風呂に入ってからにしてと怒られ。逆らわずにお風呂へ向かった父さん。5分くらいでお風呂から出てきた。スキルを使いさっさと出てきたらしい。お風呂でスキルって。

 なんかその辺もラビ達は似たんじゃないか? 買い物でスキルを使えって言ってきたからな。


 そうしてお風呂から出た後は、ご飯も食べずにラビ達と話しを始めたよ。


「そうかそうか!! お前達もこの素晴らしさに気付いたのか!! 父さんは嬉しいぞ!!」


『きゅいぃぃぃ』


『ぷぷぷ~』


『うん!! タクパパのパパとみんなおそろい!!』


『にょ、ぬにょおぉぉぉ、にょおぉぉぉ!!』


 えへへ、タクパパのパパと一緒嬉しい。髭と眉毛、同じだった!! お揃い!! 俺はこっちが気に入っている、最高だ!! 


 ラビ達が自分の姿を父さんに褒められた後、ブーちゃんのお揃いもいつかやってみたいって言ったんだ。そうしたら父さんが写真を出してきて。まさかの父さん、ふざけて髭と眉毛をバラバラな場所に付けていたなんて。


 それ見てラビ達は大喜び。父さんが変身グッズを使っているのは知っていたけど、まさか自分達みたいに、バラバラに付けているのは知らなかったからな。というか俺だって知らなかった。父さん何してるんだよ。


「まさかお前達がここまで、これを気に入ってくれるなんて、父さんとっても嬉しいぞ!! そうだな、こんなに嬉しいことはそうないから、お前達に何かしてやりたいな」


 父さんが言っている事をそのまま伝えると、みんなまたまた大喜び。だけど俺と、側で話しを聞いていた母さんは、嫌な予感がしていた。そして俺はオヤジさんが言った言葉を思い出す。


“ダンジョンにもその姿で行く、とか言い出すんじゃないか?”


 と言う言葉を。そしてその嫌な予感は的中した。


「よし、全員その格好でダンジョンに行こう!! 俺もしっかり準備するからな!!」


「……」


『きゅい?』


『ぷぷ?』


『にょ?』


『タクパパ、どうしたの? タクパパのパパ、なんていったの?』


 急に何も言わなくなった俺に、問いかけてくるラビ達。パーティーの格好でダンジョンに入る? これが俺と母さんが心配していた事だった。この格好をしてダンジョン行って、よく怒られるのに?


 これが俺の父親、パーティー好きな45歳、井上明人だ。

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