第41話 ポーション作りははジュース作りじゃないんだよ配信3

「待て待て、これはポーション用なんだから。みんなには別に買ってやっただろう」


“集まってきたw”

“さっきとえらい違いだなw

“www”

“果物は人気w”

“無理やり飲ませたのに保護者は拒否w”

“あれって少し前に見つかって新種か”


「そうです。今から10年程前に見つかった果物で、名前はドライト。形はドラゴンフルーツに似ていますが、味はほぼモモ味です」


 俺はラビ達を押さえながら説明を続行する。


 10年前に、B級ダンジョンの中でも、高ランクの魔獣が多く集まっているダンジョンで見つかったドライト。それまでは1度も、ドライトがなっている木を誰も見たことがなかったのに。その木はいつの間にか、誰も気づかれないうちに生えていて。


 ドライトの木は、それはそれは淡く綺麗に輝くコバルトブルーの木で。その木から最初に採取された木の実は2つだけだった。しかしその後、何とか挿し木をすることに成功。

 それからも色々と失敗を重ねたが、今では地球側でも、ちゃんと実を付けられる木を育てることに成功した。


 そして木を育てているうちに、実の方も研究が進んでいて。不思議な事が分かったんだ。どんな料理に実を加えても、ドライトの方が勝ってしまい、桃風味の食べ物に変わってしまうんだ。


 そこで使われたのが、あの問題のポーションだ。どんな料理にも勝つならば、あの臭すぎて不味すぎるポーションにも勝つのではないか? と。

 研修者達は他の研究を後回しにして、ポーションの開発に力を入れた。当時そんなニュースが流れていたけれど、誰も文句を言っている人はいなかったような気がする。それだけあの問題のポーションが酷い物だったって言う事だろう。


 何しろ今まで何を混ぜようと、ポーションの不味さと匂いが勝ってしまっていたからな。ドライトと同じ感じだな。


 そうして研究の結果、ポーションは格段に進化を遂げた。そうポーションの匂いと味に、ドライトが勝ったんだ。それからは必ずどのポーションにも、ドライトのエキスが入っている。


「ドライトの実は少しお高めですが、今では普通にスーパーで売れれるようになるほど、生産が安定しています。そして人に大人気のドライトですが、ラビ達を見てもらって分かる通り、魔獣達にも大人気な果物です。ほら、良い加減離れろよ!」


 俺の腕と頭に絡みついて、ドライトを見ていたラビ達を離す。


“食べたいんだよなw”

“そういえばさっき別に買ったって言ってなかったか?”

“これはポーション用だから我慢してくれw”


「それでは今から、ドライトをスムージーにしていきたいと思います。と、ここでポイントです。ドライトを入れる時は、必ず果汁を絞り、こしてサラサラの状態になった果汁を、入れるようにしてください。少しでも実が入っていると、何故かペースト状のように、とろとろのままになってしまうので」


“こさないといけないのか”

“それは初めて聞いたかも”

“俺、ドライト入れる時は、もう絞ってあるやつ買ってきてたから、そんな工程がいるなんて知らなかったよ”

“私は知ってた、でもこれやるの難しいんだよね”


「そうなんです。何回もこさないといけないし、下手するととろとろのままな時もあるので。不安な方はすでに絞ってある物を売っているので、そちらを利用してください。では、やっていきますね。まず全部簡単にペースト状にしてしまいましょう」


 俺は全てのドライトの皮をむき、ミキサーに入れていく。そうして全てのドライトをミキサーにかけると、中ジョッキ3つ分のドライトのペーストが出来上がった。これを今から絞りこしていく。


 2つの中ジョッキは少し横にどけ、絞る用の布を用意して、思い切り果汁を絞っていく。これがけっこう力がいる作業で、俺は話しながら、コメントを見ながら、そして絞りながらが重なって、自分の作業に集中していた。


 だから俺の横で、また配信の目的がズレる事が起こっていたなんて、全然気づかなかったんだ。


“w”

“www”

“w”

“気づいてないw”

“頑張れw”

“あともう少しだぞw”

“一応伝えておくかw”

“配信内容変わるかもしれないしなw”

“お~い、よこよこw

“もうすぐ決着がつきそうだぞ”

“あっ、1つ消えた!”

“ブーちゃんか!?”

“他も到着したぞ!!”


 晴翔に呼ばれ、コメントを見て慌てて横を見る。そこには1つの中ジョッキに集まって、その中に入っていたドライトのペーストを口の周りにつけているラビとププちゃんとクーちゃん。


 そしてこういう時ばかりしっかりと座れをして、1つの中ジョッキを抱え、おやじの飲みのように、ペーストを飲んでいるブーちゃんの姿が。


“みんな同着だったか”

“ブーちゃんが1人勝ちって感じかな?”

“いや、体のサイズを考慮すれば”

“やっぱり全員同着か”

“みんなおめでとう!”

“最後まで気づかれなかったぞ!”

“そうして保護者はミキサーにかける物が増えたw”

“うんうん、安定の配信だな”

“今日はドライト飲み競争だったか”


 何かと思って晴翔と視聴者さんに聞くと。晴翔も最後の方で気づいたらしいんだけど。最初に動いたのはクーちゃんだったらしい。少しだけジョッキに近づいて、俺が振り返りそうになり、サッと元の位置に戻ったと。


 それを見ていたラビとププちゃん。すぐにラビがジョッキに近づき、俺が横を向きそうになると、サッと元の場所に戻り。次にププちゃんが同じように動いて。そうしてそれを順番に繰り返し、少しずつジョッキとの距離を短くしていったと。


 それに気づいた視聴者さん。コメントを少し遡ってみると、時々笑っているコメントと、頑張れと言うコメントが届いていて。見ていたはずなのに、どうもタイミング的に力を入れている時で、ちゃんと見れていなかったようだ。


 そしてついに晴翔がラビ達の様子に気づいた時、いつの間にか競争に参加していたブーちゃんが、1つジョッキをゲット。その後にラビ達がジョッキに到着し、中身を飲んで、口の周りがペーストだらけになったらしい。


「ラビ達のは別に用意したって言っただろう!!」


 俺に怒られ、サーっと逃げていくラビ達。その後少しの間、配信が中断されたのは言うまでもない。

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