第32話 オジットギルド高山武の場合(1)
「おはようございます、ギルドマスター」
「よう、武。奴らはどうした?」
「もうダンジョンへ向かいました」
「で、お前は妹の付き添いと言いながら、ここでゆっくりか」
「予定が変更になっただけですよ? 妹の付き添いに行こうとしましたが、母が最初から一緒に行けることになったので、私はダンジョンに行く用意をと。たまたまそこに、ギルドマスターがお戻りになっただけですが」
「はっ、お前が用意した、偽物の家族だがな」
「ですが修也達にとっては、本物の家族ですからね。まぁ、私の偽物の家族のことは良いんですよ。それで、例の物は手に入りましたか」
「いいや、あの情報は役に立たなかった。例の物どころか、高ランクの素材さえ手に入らなかった」
「素材もですか!?」
「ああ」
「それで、奴らはどうしたんです?」
「はっ、自分達で勝手に帰っただろう? まぁ、俺の帰りが楽だった代わりに、奴らのは方は大変だっただろうが。途中で何かを叫ぶ声が聞こえたような気もするが、気のせいだろうしな」
「確かにそれは気のせいでしょう。が、一応聞きますが、証拠は残していないでしょうね。もし何かあった場合、片付けるのは私なんですよ」
「大丈夫だろ? 奴らだって、自分達の身元を隠して中に入ってる連中なんだ。もし何か見つかっても、奴らは犯罪者として処理されるだけだ」
「ですからその過程で、私達の事が知られる可能性があるんですよ。はぁ、後で確認しなければ。余計な仕事を増やさないでくださいよ。ただでさえあなたから、面倒なことを押し付けられているんですから」
「仕方ないだろう。お前が1番、奴らの中に潜り込ませるのに、ちょうど良かったんだから」
「それにしたって、あそこまで馬鹿な連中は久しぶりに会いましたよ。他はそれ相応の馬鹿ですが、あれは自分達を天才だと思っている、どうしようもない馬鹿です。まったく、あれ程の実力で、良くあそこまで自分達を評価できるものです!」
「あー、ずいぶんイラついているな」
「イラつきもしますよ。奴らが死にそうになるたびに、私が何度手を貸したことか。確かに協会で調べた能力値は高いかもしれません。しかしそれだけで、訓練もたいしていないのでしょう。それでも能力値が高いせいで、変に魔獣に勝ててしまう」
「お、おう」
「ですが、本当に力のある魔獣に遭遇した時は毎回死にかけ、私が毎回バレないよう助ける。命令がなければ今頃もう、奴らは魔獣達の腹の中のはず。大体……」
「あ~、分かった分かった。お前がイラついていることは分かった。誰か他を探すから、もう少しだけ待っててくれ」
「はぁ、なるべく早くしてください。本当に馬鹿に付き合うのは疲れるんです」
「だー、分かったって。で、奴らは相変わらずか?」
「そうですね。相変わら色々とやってますよ。自分達はあなたに認められた存在だと周りに言いふらし、それが周りに敵を作る行動だとも考えず。そんな天才の自分達は、あなたや私達を欺き、ギルドのメンバーを引き抜いて、近いうちにギルドを立ち上げる、とね」
「フッ、自分達が利用しようと入ってきたギルドが、実は自分達が利用されているとも知らないで、か」
「自分達がどうなる運命かも知らないで」
「まぁ、もう少し、こっちの準備ができるまで、ノルマと称してしっかり力を付けてもらおうじゃないか。そう思えば、少しは使える馬鹿だろう?」
「馬鹿は馬鹿です。そしてあなたもその中に入っています。そうですね、あなたの言い方だと、あなたはまだ使える馬鹿でしょうか」
「一応俺は、お前の上司で、ギルドマスターなんだが?」
「いつも余計なことや面倒ごとを押し付けて、私に迷惑をかけるギルドマスターです」
「……お前、アイツらの事もそうだが、その前のことをまだ根に持ってやがるな? あれは謝っただろう!」
「謝った? 謝るの意味を理解して言っていますか? 謝るとは……」
「だぁ!! 面倒くさい仕事から戻ってきたばかりで、これ以上お前の説教は聞けるか!!」
「私は毎日、面倒な仕事をしていますが?」
「……」
「……」
それから時間になるまで私はじっくりと、ギルドマスターと話しをした。自分だけ仕事から帰ってきたからゆっくりしようと? そんな事は許しません。私は現在進行中で、面倒ごとを引き受けているのだから。
はぁ、本当に早く代わりの者を用意してほしい。でなければどんどん他の仕事が溜まってしまう。ギルドマスターの後始末もある可能性があるんだ。
ここまでは上手くやってきた。これからも私達の求める未来のために、協会にバレぬよう、上手く立ち回らなければ。それには私達に繋がるような証拠を、少しも残してはいけないし、行動を疑われてもいけない。そしてあまりやりたくはないが、馬鹿でも使える者は使わなければ。
修也達がどれほど力をつける事ができるか。後で準備が整った後、我々のためにその力を使うのだから。どうにかもう少し、真面目に動いてはくれないだろうか。
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