【パイロット版】『最強無力無名最凶』~魔法が使えない無能な少年は『正座』し続けた結果『狂人』となり、近接戦闘術『合気』で魔術裏社会を牛耳る『フィクサー』となる~

誰よりも海水を飲む人

第1話 前編 地獄で笑う仮面


 この作品は【パイロット版】です。映画の予告みたいな感じで書いております。

 実験的な短編作品なので連載するかは未定とさせて頂いております。予めご了承ください。

 

 それではごゆっくりどうぞ(≧▽≦)


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 冒険をする奴は大馬鹿者だ。



 魔法大国<宝瓶宮国アクエリアス>の森林地帯の中に突如として姿を現れたような巨大な四角形――黄金色の建造物。鬱蒼と木々が生い茂る中、その真鍮製の外壁は一つの宝石箱のように輝いていた。


 遥か昔、世界に災厄をもたらした魔神を封印したと謂われる迷宮柱ダンジョン <契約の櫃アーク>。

 

 そこには『非魔法師』、冒険者たちの夢があった。

 

 一度内部へと足を踏み入れれば……もう地上の光が届かない。

 隔絶された迷宮内。大蛇の腹のようにうねる洞窟がいくつも分岐し、下へ下へと冒険者達を誘う――壁や天井には青白い光を放つ苔が点々と張り付く幻想風景――その奥には、星々のように輝く神秘的な地下神殿が、各階層ごとに存在している。

 まるで迷宮柱ダンジョンが意志を持つかのように、迷宮の試練が挑戦者達を待ち受けているのだった。

 

 新たな階層の『攻略者』となれば、国から名誉と地位が贈られる。


 冒険者の頂点である<S級>。

 英傑の証『称号ネームド』。

 

 その名声だけで、一生を遊んで暮らせるほどの巨額の富を手に入れることができる。

 一晩中、好きなだけ美女を買い、毎晩酒を浴びるように飲む――贅沢三昧の生活が送れる。


 それこそ生まれや才能に関係なく、誰もが歴史に名を刻む英雄となることができるのだ。


 だが、しかし……。

 

 そこは魑魅魍魎の巣窟。

 故に迷宮柱ダンジョンに挑む者は、常に死という代償を背負うことになる。

 

 『欲望に目が眩んだ奴から先に死ぬからな』

 

 これは誰の忠告だった、か……。

 そんな、冒険者にとって当たり前の事が、走馬燈のようにフラッシュバックしていた。


 

 不規則的なリズムで頬に当たる水滴。

 

 (どこだ、ここは……?)


 果てしなく広がる暗闇。混濁する意識の中で、俺は荒い呼吸を繰り返す。


 「――ザッ――ザザァァ……」

 

 耳を覆う雑音が絶え間なく響き、腐敗した匂いに思わず、咽る。


 最悪の気分だった。


 少しでも気を抜くと、呑み込まれそうになる酩酊感と――。


 「――ザザッ――ザザァァアアア……」


 またしても羽音が飛び回るような騒音。


 (おかしい……身体が……動かない……)

 

 ゆっくりと迫る恐怖は、まさに悪夢そのものであった。


(何も見えない……)

 

 全身が拘束されているかのような無力感に襲われ、俺はそれに抗う。痺れた右手を必死に動かし――ようやく触れる無機質で硬い感触――。


 そこで気づく。

 

 自分が今、硬い岩壁にことに――。

 

 (いったいどうなっている!!?)

 

 「――ザザッ――ザザァァ――ザザァ――ザザァァアアア……」

 

 耳鳴りは酷くなる一方。

 

 使い古した冒険者服のシャツから、何かが嫌なものが流れ出す感覚。

 

 その明らかな異常事態に、胸の鼓動が早くなっていく。


 (誰か……)

 

 助けを求めようと声を上げる……が……。

 

 その声はほとんど音にならなかった。


 それもそのはず……。


 ――次の瞬間、が俺を襲う。

 

 白くなった瞼の裏で、幕が上がるかのようにゆっくりと開かれる視界。

 

 瞬時にして目に飛び込んでくる周囲の状況。


 広闊な円形の空間。


 その洞窟内に蠢く人々。

 

 それは右往左往しながら――の姿だった。


 ――暗転。


 その狭間で

 

 「――ザザァ――ザザァァ――ァア”ア”アア……」

 

 徐々に明瞭になっていく……耳鳴りが……。


 「……ァア”ア”アア――ァァア”ア”アアア”ァア”ア”アアア”ア”ア”ア”ア”ア”……」

 

 突如、

 

 そう――先程から、ずっと聞こえていた音の正体は……。

 

 ……だった。

 

 ――再び、鋭い光が瞬く。

 

 人の三倍はあろうかという


 

 

 ――暗転。

 

 (そう、だった……)

 

 何度も光と闇が切り替わる中。

 

 (ようやく……すべてを思い出した……)


 二本の角を生やした異形の頭。

 

 (俺は……こいつらに襲われて……)


 一瞬、その


 散発的に周囲を照らす<魔方陣円>の光が漂う。

 冒険者たちは必死の表情を浮かべ――<魔術杖ケーリュケイオン>を乱雑に振り回し――腹の底から絞り出すような声で詠唱――絶えず火炎や岩石の魔術を発動し続けていた。


 しかし、その砲撃が飛び交う嵐の中を。


 もろとしない様子で突き進む、


 刹那――・|《・》

 

 それは『遭遇したらすぐに撤退しろ』と教わる――冒険者と『魔法師』の

 

 魔物 <牛鬼オーグル>。

 

 脳を焼くような断続的な瞬光。そこから映し出される惨劇は、なおも続いていた。

 

 (最悪だ……)


 ――耳を劈く獰猛な雄叫びが洞窟中を揺らし。


 (なのに……)


 あちらこちらで、果実を潰すような嫌な音が響く。

 

 (そいつがも……)


 事の発端は、迷宮柱ダンジョンの最悪の罠と謂われた<死の転移陣デススポット>。

 その<魔方陣円>に迂闊に近づいてしまった結果、俺達はこの殺戮の宴に招かれてしまった。


 漂う死臭がこの空間を支配し、大量の血がゆっくりと俺の足元へ流れ込む。

 

 ふと視界先に入り込む、地面に転がる

 

 (くそっ! だから……駄目だって言ったのに……)

 

 それは後衛の要であり、三つの冒険者チームの全体の統率者。

 『』の無残な骸だった。

 

 (何が、<A級>の冒険者だ……俺は馬鹿か……)

 

 その惨状に、俺は力のない笑いを漏らす。

 既に前衛の盾役である俺の冒険者チームは殲滅され、陣形は完全に崩壊。本来、撤退を指示する出すべき奴も、この有様と――。

 

 俺達はこの袋小路の洞窟内で脱出不可能となっていた。

 

 (長く冒険者をやれば、いつかはこうなることを覚悟していた……が……)

 

 途方もなく厚く重い灰色の壁が、円形状に囲った猛獣たちの檻と化す。

 

 (ここまでとは……)

 

 狩りを楽しむかのように人間を弄ぶ、地獄絵図。

 

 そこに一切の慈悲はない。

 

 血飛沫が舞い上がり、骨の砕く鈍い音が広大な洞窟内に反響する。

 巨大な斧の刃の側面で何度も叩き、食材の肉を柔らかくする、調理ような虐殺。

 

 そう、ここには夢や希望なんてものは存在しないのだ。

 あるとすれば、人知を超えた抗いようのない暴力と殺戮だけだ……。


(痛みを感じる暇もなく死んだ奴は……まだ、運が良い……)

 

 目をそむけたくなる現実に。

 

 もはや俺は……。

 

 安らかな死をただ願い、神に祈りを捧げていた。


 ――その時だった。


 突如、洞窟の上空に現れた青白い光。

 それは辺りを淡く照らす<魔方陣円>の輝きだった。

 

 そこから小さな影が落ち、次の瞬間――靡く黒衣が見事な着地を見せる。

 

 一筋のスポットライトが照らす小柄なシルエット。

 空気中に舞い散った砂埃が青白い光を浴びて乱反射し、硝子細工のように輝く。

 

 全ての光を吸い込むような漆黒の髪にこれまた、黒で統一された外套。

 そして、深紅の瞳が二つ浮かび上がり、漂う。

 

 俺はその姿に眉を顰める。

 

 なぜなら、そのは……。


 死者の魂を冒涜し、――『』。

 

 そんな、ふざけた『』を被っていたからである。

 




 

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 お読み頂き誠にありがとうございます。

 

 こちらは三部作の前編となっており、中編、後編と続きます。

 

 繰り返しになりますが

 パイロット版です。続編物にするのかどうかは現在、検討段階です。


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