第一章 メリーディエース伯爵家
第1話 伯爵家三男
「コラン、どこだ?」
俺を探す声がした。
長兄のメインデルトだ。図書室の扉から廊下に顔を出す。
「デル兄様、何か用?」
俺より六つ年上の一番上の兄だ。父譲りのダークブロンドの髪を持ち、母譲りの緑の目をしている。父は俺が見ても男前で、その父によく似ている。剣術が得意で鍛えていて、俺が体が弱いから一緒に鍛錬できないのを残念がっていた。もう十一歳で来年十二歳になったら貴族学院とかいうところに行って勉強するらしい。
「また図書室か。よく飽きないな。私がお前の年の頃は外を走り回っていたぞ」
俺は読んでいた英雄譚の本を置いた。
「面白いもの」
「わからん。そこだけは本気でわからん。もう夕方で冷えてきたからと母上が心配していた。おまえはすぐ熱を出すんだからな。母上をあんまり困らせるな」
そう言いながら、長兄は俺の額に手を触れる。
「はあい」
「熱はないな。ほら行くぞ」
長兄に手を引かれて部屋のほうに歩いていくと次兄のペーテルが走ってくるのが見えた。三つ年上で、母譲りのブルネットに少し青みがかった緑の目だ。長兄とは反対で顔は母に似ているので、優しそうな雰囲気だ。ともすると女の子に間違われるくらいだ。すらっと手足が長い。
俺はといえば髪は青みがかった黒、目は父譲りの藍色。顔は多分、父と母のいいとこどりなんだろうと思う。顔を確認するのは顔を洗う桶を覗き込んだ時と磨かれた廊下に映る自分の姿くらいだ。五歳にしては少し小さい方だと思うけれど、父は長身で、母もすらりと背が高い方だから、きっと父のようになると思う。なって欲しい。
「いたのか?」
「やっぱり図書室だよ」
「まったくもう、コランは。ちゃんと昼寝もしてないんだろ」
「してるよ。ピート兄様」
「ほんとかあ?」
「コラン、まあ、二人が探してくれたのね。ありがとう」
二人の兄の頬が赤くなる。兄たちは母が大好きだ。
「さ、冷えてきたから上着を着ましょう。あったかくするのですよ」
「はあい」
「アンナ、お願い」
「はい、奥様。さ、坊ちゃま、部屋に行きましょう」
俺の乳母のアンナは母の侍女だ。そのまま母に仕えていて、俺の面倒を見ている。
長兄から手を離してアンナと手を繋ぐ。俺の部屋までアンナと一緒に向かった。
「あら、お顔が赤いですね」
アンナがそっと額に手を触れる。
「……少しお熱があるようですね」
アンナの手が気持ちよくて、眠気を感じてうつらうつらしてしまう。お昼寝の時間も本を読んでいたせいかもしれない。
「お着替えをして、少し眠りましょう」
そして俺はその夜、熱を出したのだった。
熱さましの薬を飲んでも下がらない熱に母は不安を覚えたのか、伯爵領でも高名な治癒師と薬師を呼んだらしい。
そして俺の熱の原因は魔力過多症という、魔力が多い子どものなる厄介な病ということがわかったのだった。
魔力過多症の一番の治療法は魔力を使うこと。
それが子供には難しい。一番魔力を消費する魔法は祝福の儀を終えた子供でないと教えることはできず、まだ五歳の俺にはとれる手段ではない。
成長してしまえば魔力に体も慣れ、体調を崩すことは少なくなるが、それまでに亡くなる危険性もあるのがこの魔力過多症だった。
「どうすればいいの。コランが死んでしまうわ……」
母の嘆く姿を見て、父が重い腰をあげたようだった。
父は子供には無関心のようだが、母には甘い。
そして、俺に魔法の教師がつけられた。長兄に教えている魔法指導の家庭教師だが、空いている時間に俺に魔力制御を教えることになったそうだ。
「魔法、教わるの!?」
「そうですよ。体調がこのまま良くなれば三日後に教えに来てくれるそうですよ」
図書室に有った本の中で、一番心を惹かれたのが、魔法を使う魔法師が活躍するお話だった。いわゆる英雄譚だ。
つまり、俺の憧れは魔法だった。
魔力過多ということはいっぱい魔法が使えるかもと、わくわくして家庭教師に教わる日を指折り数えた。
俺は三男だがそれなりの教育を受けている。
三歳から文字の学習が始まって今では大抵の本が読めるようになった。
作法や計算、長兄が行くようになる学院の勉強についていけるように徐々に勉強の幅を広げている。
家庭教師は兄たちについている家庭教師が合間を見て、俺の体調が良い時に無理のない範囲で教えてくれている。
体が弱いということで、武芸系統はまだだが、もう少し丈夫になったら剣術を習うとのことだ。
剣術は貴族の男性の必須技能で修めていないと貴族ではないと言われるほどだ。
民を護るのが貴族の役目だと、そう最初に習った。
だから贅沢に暮らせるし、上等の服や屋敷があるのだと一番年かさの家庭教師が教えてくれた。
勉強は楽しい。知らない知識を知ることは世界が広がっていくような気分にさせられる。俺は物覚えはいいほうで、文字も計算もあっという間に覚えて先生方を驚かせた。ただ、体力がないから長時間は教えてもらえないし、基本兄たちの勉強が優先だから暇ができる。
知識欲が旺盛な俺は図書室に入り浸り、兄たちに探されて部屋に連れ戻されるとそういうわけだ。
そして今日、午前中は歴史の勉強、午後は昼寝をしたら魔法を教えてもらえるということで、俺は朝から興奮状態だった。
「あらあら、そんなに魔法を習うのが楽しみなの?」
朝食の席で母がくすくす笑う。
「はい!」
俺は元気よく返事をした。その勢いに兄二人もくすっと笑う。父だけは、関心がないのか、黙々と食事をしていた。
「疲れたら先生にちゃんと言って、休憩をもらうのよ。無理をしたらお熱が出て、魔法を教えてもらえなくなるから気をつけるのよ?」
「はい!」
俺はマナーに気をつけながら朝食を済ませると歴史の勉強のため、自室へと戻った。
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