ぼったくりの賢者
佐倉真稀
序章
プロローグ
「なっ……この金額はばかげている!」
「いやなら結構、お帰りはあちらですよ」
「わ、私を誰だと思っている! 中央貴族であるこの私は伯爵だぞ! 平民が!」
でっぷりと太った、趣味の悪い華美な服装をした、中年の男が騒ぐ。
「平民ですが、貴族学院と魔法学院は卒院しているんですよ。わかります? 元伯爵令息ですけれど。はーい。とっとと帰ってください」
追い払うように手を振り、扉を示す。
「コランダム、いくらなんでも失礼ではないかの」
奥の扉から出てきた白髪の好々爺は俺、コランダムの師匠、ペニトアイト・ヴァンデラー伯爵、俺の所属する錬金術ギルドの総ギルド長だ。
「あ、師匠。うるさくしてしまいましたか?」
「ヴァンデラー卿! 私は客なんですよ? いくらなんでも……」
「いや~お金払ったなら客ですけど、冷やかしは客じゃないですよね?」
「な……まったく無礼な!」
「無礼で結構。青銅貨一枚もまけませんよ。いやならダンジョン産のマジックバッグを競り落とせばいい。出来るでしょう? 伯爵なんですから。貴方に買ってもらわなくても順番待ちしているお客様はたくさんいるんです。スピネル! 伯爵がお帰りだ!」
「かしこまりました。さあ、伯爵、こちらへ」
「ちょっと待て! 話はまだ……」
スピネルは応接室から伯爵を文字通りつまみ出した。スピネルは師匠の屋敷の家令で、錬金術ギルドでも、師匠の護衛を兼ねて雑事を請け負ってくれている。
凄腕の短剣術使いだ。気配を消すと俺でも見失うことがある。暗殺者向きだな。
「馬車には伯爵の紋が入っておりませんでした。お忍びなのか……」
スピネルが戻ってきて報告をする。
「あいつ金ないはずだよ。借金で首が回らないって調べには出てる。立派な馬車があったはずだけど、売り払ったんだろうな。どうせ、転売目的だろうさ」
「よく知っておるの」
「商談に入る前から戦いは始まってるんですよ。師匠。相手の資産調査くらいしないと、踏み倒されるかもしれないじゃないですか。貴族なんて、見栄っ張りが多いんだから」
「コランダム……お主、どうしてそう、守銭奴になったのかの?」
「師匠が採算度外視で依頼を受けるからです! 伯爵家代々の資産には手を付けていませんけれど、そもそもカツカツじゃないですか! 領地だって税をたくさん納めてくれる領地ではないんですから。金を持っている相手には吹っ掛ける! 貧乏人は相手にしない! 鉄則です」
「コランダムのおかげで錬金術ギルドは潤ったし、地位も向上してありがたいんじゃが……」
「なんです?」
「ぼったくりの賢者とか、守銭奴錬金術師とか二つ名がついてしまっているがよいのかの?」
師匠の憐みの視線が痛い。
「ではそろそろ旅に出ましょう。ほとぼりが冷めるまでもどりません。マジックバッグ、三つほど作っておきましたからしばらく食いつなげるでしょう」
俺は決済を待つ書類をスピネルに渡して、インベントリからくたびれた背負い袋と灰色のマントを出してそれを羽織る。
インベントリには旅に必要なものがごっそり入っているので改めて準備する必要はない。インベントリは俺のスキルの一つで、マジックバッグのようなものだ。マジックバッグだと盗難の危険があるが、インベントリは俺の意識の中にあるようなものなので、それがない。手ぶらだと逆に不審に思われるから誤魔化すのに背負い袋を持つ。
背負い袋を肩にかけてマントのフードを目深にかぶって前髪を乱す。なんでも俺は眉目秀麗らしい。顔を出して歩くと目立つのだ。
「どこに行くのかね?」
「薬師のレカルから依頼が来て、南の国境近くの森に行く予定です」
「南……大丈夫かのう?」
「近くを通らなければ大丈夫ですよ。スピネル、マジックバッグは預ける。くれぐれも、基準価格以下で売るな。オークションにかけてもいい。わかったな?」
インベントリから出したマジックバッグをスピネルに渡す。
「かしこまりました」
恭しくスピネルは受け取り、金庫に仕舞った。
「コランダム……」
「そんな目で見ても青銅貨一枚まけませんよ!」
俺は師匠に念を押した。人格は尊敬しているが金銭感覚だけは信用していない。
「では行ってきます!」
師匠とスピネルに手を振って俺は王都の錬金術ギルドのギルドマスターの部屋を出て、レカルの故郷、エルフの里に向かった。
これは、南の伯爵家の三男坊だった俺が師匠と出会い、高名な錬金術師として成りあがるまでの物語だ。
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