第2話 魔法の授業
白髪の皺の目立つ初老と見える優しげな先生は最初に貴族の心構えを授業を始める前に教えてくれた先生だ。
昔は貴族学院で教えていて学院を退いてから貴族の依頼であちこちで家庭教師をするようになったと聞いた。
「さて、今日はおさらいをしますぞ」
「はあい」
俺は前回教えてもらったことを書き留めた木の板に視線を落とした。
「メリーディエース伯爵家は南の辺境伯の寄り子……つまり辺境伯に庇護してもらうことで、領地に問題が起こった時に辺境伯が助けてくれます。そして、南の貴族家は辺境伯のもと、協力関係にあります。兄弟のようなものです」
「はあい」
「辺境伯家は隣国と我が王国を隔てる大河を盾として、常に隣国へと魔物への脅威に立ち向かっています」
「辺境伯家は凄いんだ」
「そう、凄いのですよ」
先生はにっこりと笑う。
「貴族家はいざという時に民衆を護らないといけないのです。そのため、騎士や兵士を雇い、軍を持ちます。これは領地貴族がしなくてはいけない義務です。その軍を指揮するのは領主の役目です。そのため、剣を習うことは貴族としての義務です」
「はい! 最初に教えてもらいました!」
「そうです。コランダム様ももう少し体力がついてくれば習うことになります」
「お熱が出なくなればってこと?」
「そうですね。それに関しては午後から魔法を習うと伺っております」
「魔法、楽しみ!」
「それはようございました。そのためにも、おさらいを頑張りましょうね」
「はあい」
「メリーディエース伯爵家の領地はオリーブという木の実と、ブドウから採れるワインが名産です。オリーブとワインはどのようなものでしょうか」
「オリーブは油のもとになる実……です。実を食べることも出来るけど、塩漬けして毒を抜かないといけない。ワインはブドウから採れた果汁をお酒にしたもの」
「そうですね。よく覚えましたね。そのオリーブとブドウを育てて油とワインを作っているのが領民です」
「貴族が護らないといけない人たちだね!」
「そうです。その領民が作った油やワインを売った売上や小麦から税を取り、領政を行い、領主や領政にかかわるものが暮らしていけるのです」
「だから領民を護るんだ」
「そうですよ。それでは、王国の歴史に移りましょう」
「はあい」
「王国は最初は雑多な小集落が乱立した村が点在する土地に過ぎませんでした。そして段々と頭角を表し勢力を広げるものが出てきます」
「それって争い?」
「そうですね。小規模な戦争です」
「戦争」
「はい。国になる前段階ですね。そんな中オーア王国初代国王はフェニックスの加護を受け建国を果たしました」
「フェニックスって霊鳥?」
「はい。大いなる力を持ち王国全土を守護する存在です。そのため我が王国の貴族には火属性が多く発現します」
「僕も火属性かな?」
「可能性は高いですね。さて、初代国王アリフ陛下ですが南の出身だったと逸話が残っております。ですから、南の貴族家はアリフ王の系譜の可能性があると言われています」
「それは初めて聞いたかも!」
「この逸話はあまり知られていませんから。さて、王国の建国は500年ほど前と言われていますが今の王国暦は228年です。この差は?」
「ええと、一度、王家が断絶しているから……です」
「そうです。王位争いで、内戦になり、甚大な被害が出て、今の王家、当時は公爵だった初代が新しく王位を継承し、王国暦を改めました」
そう先生が結ぶと、鐘の音が鳴った。
「お昼のようですね。今日はここまでです」
「ありがとうございました」
「それではまた」
先生は優しく微笑むと本を持って、部屋を出ていった。
入れ替わるようにノックがしてメイドの声がした。
お昼の時間だ。
食事の時間は一人だった。二人の兄も勉強や鍛錬に時間がかかっているようで、遅れるとのことだった。父と母も、どうやら執務が忙しいらしい。
食事を済ませて自室に戻ると、昼寝の時間だ。
魔法の授業を楽しみに俺は眠った。
「坊ちゃま起きてください。もうそろそろ、魔法の授業ですよ」
「はあい」
瞼を擦りつつ、目を覚ます。
乳母のアンナだった。濡らして硬く絞ったタオルで、顔を拭いてくれた。
冷たさが眠気を払っていく。
「さ、お着替えして、訓練場に行きますよ」
「訓練場」
「魔法を使っても大丈夫な場所ですよ」
「初めて行く場所だ」
「そうですよ。アンナがご案内しますからね」
「ありがとう」
「まあ、ありがとうございます」
俺がお礼を言うといつもアンナは嬉しそうに笑う。その顔が俺は好きでしょっちゅうお礼を言っていた気がする。
着替えた俺はアンナに連れられて訓練場に向かった。
そこは俺の部屋のある屋敷と、騎士や使用人が暮らす離れとの間を通って裏庭の先にあった。
裏庭や正面のガーデンには庭師が丹精を込めた美しい花々が咲き乱れていたが、訓練場は何もなく、円形の的がいくつか並んでいるだけだった。隅には倉庫があり、その横には簡易な木製のベンチがあった。雨除けの屋根が申し訳程度についていた。
しばらく待つと、ローブ姿の三十代くらいの男性がやってきた。長身で、青みがかったプラチナブロンドの長めの髪を後ろで束ね、すっと通った鼻すじ、シャープな顎。整った顔で少し冷たく感じられる容姿だが、青灰色の瞳の切れ長の目を細めて微笑むと柔らかな印象になった。
「初めまして、魔法を教えるデクスター・カーダシアンだ。君がコランダム君かな?」
「初めましてカーダシアン先生。コランダム・メリーディエースです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。よく体調を崩すと聞いているが、今日は体調はどうかな?」
「大丈夫!」
「そうか。元気がいいね。では授業を始める。まずは基礎知識からだ。座学の間は座っていい」
そう言うとベンチのところまで移動して俺はベンチに座る。少し離れてアンナが立つ。
俺の目の前に少し離れて先生だ。
「君は熱を出して寝込むことが多いと聞いた。子供の体には不釣り合いな多さの魔力量が悪さをすることがある。それが魔力過多症だ」
「魔力が多いの?」
「そう診断されたと聞いている。多いなら減らせばいいと、そういうことだな」
「減らすための生活魔法?」
「そうだ。それと魔力制御を覚えるためだ。魔力とはどんなものか、使うとどうなるのか、そういったものを覚えるためだよ」
「はあい」
「返事は、【はい】だ。いいね?」
「はい!」
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