五年ぶりに再会したツンデレ幼馴染がおかしくなっていた

高海クロ

前編

 君たちには幼馴染はいるだろうか。

 俺にはいる。いや、というべきか。

 産まれた時からずっと一緒で、何をするにも俺のそばを離れず、それでいて口では「きらい」だの「あっち行って」など憎まれ口ばかり。そのくせいざあっちに行けば涙目で俺の服の裾を掴んでくるような、天邪鬼な女の子。


 小学校四年生の冬、親の都合で転校することになり、彼女ともそれっきり離れ離れになってしまった。

 以降、彼女がどうしているのかは知る由もなく。しかし彼女の記憶は俺の中で風化することなく、常に片隅を占領していた。


 そしてこの度、中学校卒業にあたって小学四年生まだ住んでいた──彼女がいた街に戻ることになり、高校も新居から高い無難な公立高に入学が決定。晴れて高校生になるというわけだ。


 その時俺の中に「もしかしたら彼女に再会できるかも」なんて淡い期待があったことは言うまでもなく当然のことであり。

 その再会の時は入学式当日という、意外にも早いタイミングで訪れるのだった。




 *****



「みて、あの子すごい可愛い〜」

「新入生でダントツだよなー!」

「やっば、あの子と一年同じクラスとか神引き過ぎる」

「マジで眼福すぎて感服だわ……これだけで飯三杯はいける……満腹」


 つつがなく終了した入学式の後、あらかじめ発表されていた各々の教室に集合し、ホームルームが始まるまでの束の間の時間。

 これから一年間学友となる俺含め三十五人が、主に同じ中学出身の者同士でグループを作り雑談に花を咲かせていた。

 既にパリピ系の目立つグループや隅っこの方でオタク談義をしているグループエトセトラ……と、ナワバリ分けはされつつあるようだ。

 俺のような無所属は……窓際の席に女子が一人、誰ともつるまずに座っているだけ。


 しかし面白いのは、どのグループも話題に挙げているのは共通の──今も一人退屈そうに頬杖をつき、窓から外を眺める少女のことだった。

 赤みかかった黒髪は頭の左右で縛られており、艶やかに腰のあたりまで伸ばされている。目鼻立ちは人気のアイドルもかくやというほどに整っており、はっきり言って美少女だ。


 しかし不思議なことに、俺は彼女のことをよく知っている様な気がした。

 なんだか、幼い頃に出会ったことがあるような──。


「はい、皆さん席についてー」


 記憶の断片から彼女に関する情報をソートしていると、教室の扉が開かれ、チャコールグレーのスーツをビシッと着こなした男性教諭が入ってきた。このクラスの担任であろう。

 簡単な挨拶ののち、「では出席番号順に自己紹介をしてください」と言って、名前順番に黒板の前に立つよう促した。


 自慢じゃないが俺の名前は出席番号順にめっぽう強く、小一から一番を譲ったことはない。無論、この高校でもそれは健在だ。

 すなわち、俺がこの自己紹介のさきがけを勤めることになる。


 高校一年生の最初の自己紹介。ここでの印象が今後の三年間を決定付けるということを以前の転校で学んでいた俺は、奇をてらわず、かと言って印象が薄くなりすぎない様、無難な立ち回りを見せた。


 が、しかし。

 交通事故と同じで、こちらがいかに気をつけていようが、向こう側から突っ込んできてしまえば回避は難しいもので。

 ──要するに、俺の華麗で無難な自己紹介は、外的要因によって"難"極まりないものになってしまったのだ。


「あ、あああ、アンタはー!!!!!!」


「「「「!!!!???」」」」


 突如、教室中に響き渡る大声に、俺含め全員の視線が向けられる。

 その視線の先には、先ほどみんなが噂していた新入生ナンバーワン美少女が一人。その可愛らしい顔を茹で蛸よろしく真っ赤に染め上げ、ご自慢のツインテールをプルプル震わせて立っていた。

 彼女の右手は何かを指さす様にまっすぐ突きつけられており、その先を辿ってみると──俺?


「な、なな、なんでアンタがここに!?」

「なんでって言われても、試験に合格したからだけど……なに?」


 すごく要領を得ない質問に、至極当然な疑問で応戦する俺に対し、彼女はその大きな目をさらに見開いて譫言うわごとのように何か呟いている。

 その全てが俺の耳に届いたわけではないが、一部は聞き取ることができた。


 ……あのとき……転校……?


 ──まさか。


「もしかして、奏多かなた?」

「──っ!!!」


 断片的に聞こえた情報を基に辿り着いた一つの仮定を口に出すと、どうやらビンゴだったらしく、彼女は口をぱくぱくさせながら、力強く何度も頷いてみせた。


 確かにあの子にまた会えたらななんて妄想をしてはいた。でもそれはあくまで妄想で、現実のものになるなんて思ってもいなかった。

 あの子は今でも可愛いままで、でもパッと見ただけでは気付けないほどいい意味で変わってしまっていて。

 そしてまさか──。


「か、勘違いしないで! アタシの顔が赤いのはちょっと暑いからとかじゃなくて、ずっとずっと好きだったアンタに会えて嬉しいだけなんだから!」


「──はい?」


 こうもよくわからない方向にまで変わってしまっていただなんて、想像すらしていなかった。


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