重ね着したら裸だった件

「ふーん。これが最強アクセか」


 俺は手の中の首飾りに目を落とす。

 見た目は何の変哲もないもないチェーンネックレスだ。

 赤い宝玉がひとつ、俺を誘惑するように輝いている。


「物は試しって言うからな!」


 色的には攻撃力強化系かなー? なんて考えながら金具を留める。

 その瞬間、俺の身体に想像だにしなかった変化が現れた。


 全身に力が満ちていく感覚。

 絶対的な強者になったような高揚感。

 そして、唐突な寒気。


「うそだろ!!」


 俺は一糸まとわぬ姿になっていた。

 さっきまで身に着けていたはずの服も、ズボンも、マントもない。

 生まれたままの姿で、首元に赤い宝玉のきらめくネックレスだけ。

 これじゃあ変態以外の何者でもないじゃないか!


 慌ててネックレスを外そうと首の後ろへ手を回すが……――。


「あれ? ない??」


 さっきこの手で留めたはずの金具が見当たらない。

 右へ回しても、左へ回してもないものはない。


 あの高揚感はどこへやら、全身の血の気が音を立てて引いていった。

 この姿では町に帰ることはもちろん、他の旅人に助けを求めることだってできないじゃないか。

 ほんの少しの好奇心が身を滅ぼすとは聞いていたが、まさか自分の身にも降りかかるとは。


 俺の絶望感に共鳴するように、辺りが薄暗くなり始めた。

 おいおい、このまま雨まで降り出すつもりかよ……。


 絶望のあまり、脱力して天を仰ぐ。

 その時、目の前を閃光が走った。


 突然の衝撃に俺は吹き飛ばされ、受け身を取る余裕もないまま地面に叩きつけられる。

 すぐ目の前に雷が落ちたのだと理解したのは、ビリビリとした痛みが遠ざかってからだった。


「ほんっっっとにツイてないな……」


 ため息を吐きながら身を起こす。

 その時目に入った光景に、俺は言葉を失った。


「あ……、ある!!」


 消えてしまったはずの服が、いつの間にか戻っている。

 雷はあの忌々しいネックレスの鎖だけを切断し、ネックレスは最強の防御力をもってして俺を無傷で守ってくれたようだ。




 俺は歓喜に小躍りしながら町へ戻り、友人に事の顛末を話して聞かせた。

 すると、友人は眉をひそめる。


「お前、なにもったいないことしてるんだよ」

「もったいないって……俺はめちゃくちゃ大変な思いをしたんだぞ!!」

「知らないのか? あのネックレス、布装備を貫通して見せてくれるんだ。いわゆる透視ってヤツ?」

「へ……?」


 つまり俺から見たら裸だったけど、実際には服は消えてなかったってことか?

 

「まあ、あのネックレスを手に入れたのがお前でよかったよ。覗き目的で大金を積んででも手に入れようとする悪人もいる代物だからな」

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