第31話 人であり続けるには

「ダンジョンっていうのは循環で出来ている」


 どこからともなくホワイトボードを出してきて、四角い枠にダンジョン、と書いた。


 「ダンジョンからは魔力を元に魔物が生まれ、そして死ぬことでダンジョンに還元される。これだけでは、±0ないしマイナスになってしまう。現状維持はマイナスだ。何もしないでもなくなってしまう魔力と言う物は存在する。例えば……」

『ちょっと待ってください』


 説明を始めようとした華維さんに、わたくしはうめき声のような声にならない声で伝えます。


『なんで突然ダンジョンの話を始めたんですか?』

「え? 桜から聞いたんじゃねえの? ダンジョンのレベル上げるって」

『そうらしいですけども、なんでダンジョンのレベルを上げたらわたくしに良い事があるのかはっきり聞いてませんし、華維さんから』

「とは言っても、もうダンジョンレベル上げるために清掃とか始めちゃったぞ」

『でも、ちゃんと説明聞いてないですし……その理由を、わたくしは、華維さんの口から聞きたいんです』

「そっか」


 その言葉を聞くと、華維さんはなにやら、満足気に笑った。


『なんですか』

「なんでもない」


 そう言って、ホワイトボードをぐるりと回して、裏面に書き始める。


「さてと、まずは童子の望みが何かって話だ」


 ちゃんって。ちゃんって言われました。

 ……まあ、今ここで話をややこしくしたくないので後で聞きますが。


 なんだろう。わたくしの、やりたいこと。

 まずは、この魔物の体が満足に動かせないし。

 このままじゃ、人前に出られないし。


 でも。


『今すぐに、元に、戻れないんですか』

「それをかなえるには、それこそ疑似全能を使うしかないだろうが。それは


 やりたくない、ですか。


「これに関しては俺のわがままだけどな。あの力を使うとシステムにまた文句言われるし、魔法少女の姿やだし」


 ……あれ、結構可愛くて似合ってるのに。


「別に全能を使わなくても何とかなる程度の話なら、それでなんとかした方がいい。無理やり運命を歪めたら、どこかで清算する必要がある」

『システムが、ですか』

「一般的な、運命論だよ。もしここで、先回しにするとしたら後から同じような問題をまた起こすか、魔物の力の方を摘んでしまってこれ以上の伸びしろを無くし、一般人に戻る打ち切りにするかのどっちかだ」


 一般人。

 戻れるならば……いや、わたくしは、普通に、戻りたいのか?


「そして、前者はともかく後者は絶対にやらない。小鳥遊童子は、ノーリターンポイントを越えてしまった」

『え?』

「それは、小鳥遊童子は紗城華維のミニオンになるという選択肢を選んだ瞬間だ」


 ……ああ。

 そっか。

 そうでしたね。


「テイマーとして、強くならないという選択肢を取らせることはしない。強くなり続けるしかない。テイマーとミニオンは、そばに居続けるものなのだから」

 

 華維さんは、断言する。


「だから、肯定しろ。その魔物の力を。それを受け入れ、自分の物として、強くなるための力にしろ。……俺から示せる道はこれだ」


 強くなれと、華維さんはいう。

 わたくしの中にある魔物の力と言う運命を受け入れ、先に進めと言う。


 『……で、ダンジョンのレベルを上げる事が私にとってなんのいい事があるんでしょうか』

「あっ、その話忘れてたな……ごめんごめん」

 

 そういって、本当に忘れてたかのように頭をかく。

 ごめんって言われても……全く。


「ダンジョンのレベルを上げると、そのダンジョンマスターの方にも力が行く、そうすれば色んな事が出来るようになるわけだ」

『わたくしダンジョンマスターになったんです? いつのまに』

「まあ、そりゃ童子ちゃんが魔物化した時に生み出したものなんだから……」

『そもそもなんで魔物化したらダンジョンが出来たんです?』

「ある程度以上の位階の魔物が生まれると自然にダンジョンが出来るらしいがケースバイケースでもあって……」


 もごもごと、なんだか上手く説明しにくそうです。正直、よく分からないのでしょう。華維さんはそういう所があります。


「まあぶっちゃけこの辺は話してもしょうがないだろう。魔物になった。ダンジョンが出来た。その結果だけがある。細かい事はそれを仕組んだ奴が教えてくれるだろう」


 まだ、何かあるって事?


「あってもなくても、俺たちはそれを利用するだけだ。ダンジョンレベルを上げれば、いろんなことが出来る。今はこの埃被った一室しかないが、階層を増やしたり、魔物の種類を増やしたり……」

『そして、人間に戻る……いや、その姿に擬態する事も?』

「いや、強いダンジョンボスってのは第二形態があるだろ」

『第二形態』

 

 ホワイトボードに、でっかく第二形態と書く。……でっかくなっちゃダメなんだよ。人に戻りたいんですから。


「それを設定する時に人間の姿にすりゃいいじゃんって事よ」

『……そんなの本当にあるんですか?』

「無くても似たようなもんはあんだろ、桜はレベルアップしたら自然に人間体を取れるようになったしな」


 まあ、華維さんの言う事ならできるんでしょうけど。

 いったい、どれだけの時間がかかるんでしょうか。


『それで、ダンジョンレベルを上げるためにはどのように?』

「さてと、冒頭の話に戻ろう」


 ホワイトボードをひっくり返す。


「レベルを上げるためには、ダンジョンに魔力を上げる必要がある。ただ、指をくわえて待っているだけでは魔力はたまらない。魔物が生まれ、死ぬだけではダンジョンの総魔力は減っていくばかりだ。方法は二つ」


 指を、2本出す。

 そうして、ホワイトボードに図示していく。


「一つは、ダンジョン内部で賄う。たとえば、土から魔力を組み上げる。だが、これでは限界がある。その土壌からの魔力が尽きたらダンジョンは枯れていくばかりだ。……あとは、ダンジョンマスターからもらうという手もあるが、これも同じだな。無限の魔力があるなら別として」


 そういや、多鍵さんとやらがダンジョンのエネルギータンクになってた話し合ったなあ……


「もう一つは……外部から持ってくる。……冒険者を襲って、その死体から汲みだすという手もある」

『それは……!!!』


 人を、殺せと?

 だが、華維さんは首をフル。


「だが、これは無理がある。なぜなら、ダンジョンの魔力を賄うために必要な人間は多い。……人が死に続けるダンジョンなんて、そのうち誰もこなくなるかあっという間に強い人がやってきて滅ぼされるかのどっちかだ」

『じゃあ、どうするんですか』

「じゃあどうするか――答えは一つ。人間社会で生きる原理、。ダンジョン内にあるものを外部と交換して、もっと価値のある物と交換し、魔力を補う。ダンジョン経営をする」

『経営……』

「人に戻りたいのならば、人と関り続けるべきだ。俺の考える人の定義は、一つ、種族が人である事、一つ、人とコミュニケーションが交わせること、一つ、人間の姿をしている事。このだ。人と共に生き続ける限り、俺たちは人でいられる」

 

 人に戻りたいのなら、人であり続けろと、彼は言う。

 

 「まあ、とはいえその姿のままだと困るから、最終的に人間っぽい姿になれればそれで困らんだろって話だ。シン日本って結構人以外の種族も社会の中で暮らしてるし。ぶっちゃけ社会の中で問題にならなきゃ中身がどうなっても構わんのだよ」

『そうなんですか』

「……まあ、そのうち歪みが出てきて、追い出されるようなことが起きるかもしれんけどな。……俺みたいに」

『それは……』


 華維さんが、異世界から追放されたのは、人ではなくなったからなのか。

 人であるにも関わらず――

 

「まあ、今日明日の話じゃねえ。シン日本も他所からの人間を受け入れる土壌はあるし……10年20年……長くとも100年は持つだろう」

『それだけ』

「それは違うぞ、人でなくなった童子ちゃんは100年以上生きるんだからな」

『え?』

 

 そういう華維さんの顔は、急に氷ついて見えた。



 ***



『そういえば華維さん』

「どした?」


『そ、そういえばわたくしのこと、急に、童子ちゃんって、言い始めたのは、その……』

「うーん、なんか、親近感がわいてきたというか、なんていうか分からん」

『分からんのですか』

「そういや、何でだろうな」


 でも、わたくしは、嬉しいからいいのですが。

 100年か。

 それを、華維さんと一緒に居られるなら、わたくしは……

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