第9話 リザルト:超レベルアップ
「なんかめっちゃレベル上がっちゃいましたけど、良いんですかこれ!」
>ステラちゃんすげえ!
>一気にS級冒険者の仲間入りだ!
「そりゃあ……ステラちゃんを強くするって言ってレベル上げさせたからな……」
「いや、私も強くなりたいって言ってたから願ったりかなったりなんですけど……もしかしなくても、これ、マズいというか……」
「え? マズいの?」
>これは新聞ニュース一面もあり得るかもしれませんよ!
「そんなに?」
>そんなに
俺が首をかしげている間、ステラちゃんは正気に戻ったのかかちんこちんに固まっていた。
その静寂を壊したのは、先ほど助けた少女であった。
「あの……すいませんっ、ちょっといいですか」
「おっと、さっきユニークに襲われてた子か。大丈夫か? けがはないか?」
「は、はい……助けてくれてありがとうございます!」
深々と頭を下げられる。
「ほら、ステラちゃんも」
「は、はいっ! えっとですね……ちょっとお決まり事の文句を。危険だと思ったらすぐ逃げる事。ああいうモンスターが出てくるご時世だから、気を付けなよ?」
>おー救出配信いつもの決まり文句
>こういうときでも注意を忘れない配信者の鏡
「ギルドからこう言うように言われてますからねっ」
「あの……今回はなんというか、逃げようって言ったらパーティの皆に見捨てられたというか……」
「あーよくある奴……」
>パーティの仲間はちゃんと信頼できる人を選びましょうって奴だな
「はい、気を付けます……あたしもステラちゃんみたいに強くなりたいです~ユニークも倒して、レベルすごい上がったんですよね!」
「ちょっとその現実からは逃げたかった……」
「それで、レベル上がって70ですよね、一気にS級冒険者じゃないですか!」
「ああ、現実を見たくなかった……」
「S級? それはいかほどなの?」
>トップ冒険者のレベル帯がだいたい70くらいでその辺からS級冒険者になれる
「おお、それは良かったな」
「いや、S級になりますとね、危険なダンジョンに潜る事を命令されたり宣伝搭になったり……」
「配信者ってそういう事もやってるじゃない」
「なんというか、ギルド直下で凄い責任のある立場になっちゃうんですよ〜! なんかもう、ずいぶんと先の話なんで心の準備が出来てなかったというか!」
責任ある立場か……それは確かに嫌だな。
「……頑張れ!」
「いやあの、なんていうか、まだ、S級になるとか聞いてないんですけど~!」
ステラちゃんの声がダンジョンにひびいた。
***
次の日。世間は大騒ぎだった。
まず、ステラちゃんがユニークモンスターを倒した動画がネットでバズっている。
そしてその立役者である謎の護衛Kさんは何者なんじゃという話になっている。俺の人気も鰻登りだ。
……困るのだが。
テレビでは、ステラちゃんがユニークモンスターを倒したという事がポジティブに報道されている。
あの有名配信者の、A級冒険者でもユニークモンスターを倒せる。
だから皆さん安心してください、と言ってばかりに。
怖い強いユニークモンスターの懸念は、世間にもある。それを和らげる宣伝材料とされたのだ。
その報道に、俺の姿はない。
ネットを見ればすぐに俺という存在がいる事は分かるはずだが、表向きにはあまり目立たない存在となっているという事だ。
「俺としてはありがたいが……なんか違和感がねえ」
おそらく、俺が転生者・召喚者だからか、余り目立たないようにしてくれている……という事なのだろうか。
この通り、ユニークモンスターが倒されたという事がニュースになるくらい、珍しい。
では、今まで出て来たユニークモンスターはどうしているのか。
……俺の予測では、隠れて転生者達が倒しているのではないか、と思う。
レベル120~150帯。そしてS級冒険者が70~80。
シン日本の戦力だけでは、倒せなくはないが、難しい。
では誰が倒しているか。
俺の予測では――このユニークモンスターは、異世界から来た転生者が倒すにはちょうどいい。という事だ。
一人の英雄が一生を終えるまでに、大体100になる。何度か転生を繰り返せば、150までは可能。
ちょうど、ユニークモンスターと同じ。そういうふうに調整されている。……なんていうのは穿ちすぎだろうか。
少なくとも、ユニークモンスターがどう処理されているか世間に漏れない理由の一つにはなるだろう、とは思った。
と、すると。ステラちゃんが倒せる程度の敵だったあの触手は――
いや、普通に何千匹にも分裂するボスモンスターを倒す事は、通常の手段では困難ではあったのだが。
だが、倒せる手段はあった。何匹ものモンスターをさばける強い人がいれば、核自体を倒すことは不可能ではなかった。
ステラちゃんは、転生者が倒すべき敵を倒す事に成功してしまったのだ。その結果の超レベルアップと言うわけだが……果たして、どんな影響を生むやら。
……こんなこと考えても、だからどうなのだという話なのだが。
***
後日、小鳥遊さんの家までくるように言われた。
「ホームパーティをするので来てくださいな♪」
との事だったが、おそらくそれだけでは済まないだろう。
「うう……私怒られるんでしょうか」
「面倒ごとが増えたことを咎めはしても、レベルが上がったことを怒りはしないんじゃない?」
「やっぱり、レベルが上がったのはズルみたいなものですし……」
問題となるのは、ここまで一気にレベルが上がる冒険者と言う物に、前例がない事だ。
A級冒険者から、一個飛ばしでS級に。
それが、許されるのか? というのがギルド内でももめごとになっているらしい。
どうなることやら……
さて、小鳥遊さんの家に着く。オシャレな庭付きの一軒家のようだ。庭には家庭菜園がある。
家の中に入り、リビングに招かれ、そこにあったのは……
「なんだこりゃ」
「わぁ、すっごい……!」
大量の料理であった。
それも、全てイカの料理。イカスミパスタに、薄くスライスしたイカに真ん中にはどでかいいかめしが……
「いかめしじゃありませんわ、リピエノといいまして中にパン粉やガーリック、ハーブやチーズ、トマトを入れたものでして……」
「わかったわかった……なかなかに凝った料理なんだな」
一朝一夕で創るような、ただの料理ではなさそうだ。経験を感じさせる。
なるほど、料理配信者というのは伊達じゃないようだ。
「このイカってもしかして……」
「ええ、先日紗城さんとステラさんが倒した、あのユニークモンスターですわ。ギルドが回収したので、分けてもらいました♪」
「えっそんなの食べていいんですか!?」
サウザントジクメナー。イカみたいな、触手を持ったユニークモンスター。
ジクメナー。ナメクジー。
「あれナメクジじゃなかった?」
「えっこれナメクジなんです!?」
「捌いてみたらそんな感じしませんでしたわ。普通にイカでしたし。それに材料が何であれ、料理LV3のわたくしにかかればこの通りですわ!」
料理LV3とまでなれば、食えないものでも無理やり美食に変える事すら出来る、チート級の領域じゃないか。
一流の料理人が一生かかって到達するような、そんなレベルだ。……小鳥遊さんも、並大抵の人間ではなかったか。
「スキルの裏付けがあれば大丈夫そうだな……別に、魔物料理なんて異世界では珍しいもんではないし。食べたら魔物化するとかそういう訳でもないんだろ?」
「魔物化……? いえ、ステータスを調べてみても普通の魔物食材で問題ないみたいですし……」
その時、ぐーとステラちゃんのお腹から音がなる。
「……もう食べていいんですか?」
「ええもちろん! これは、ステラさんのS級冒険者予備役昇格祝いの料理ですからね!」
突如として、小鳥遊さんからギルドの決定が宣告された。
「S級……予備役!?」
ステラちゃんは、大きな声で驚いた。
予備役。なんだそれ。
―――――――――――――――
果たして超レベルアップしたステラちゃんの運命とは!
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特に星を付けると回り回って、ステラちゃんのパワーになるかもしれません。
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