第3話 少女の勇気ある戦い

 私はステラ。大星たいせいステラ。

 シン日本生まれ、シン日本育ちの、1人のしがないダンジョン配信者です。

 そしてダンジョンの敵を倒す強い姿を人に見せ、それで日々を生きる目立ちたがり。


 そして、目の前の強敵に手も足も出ない――弱きもの。


『グオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』


 私は、目の前にいる敵をじっと見据えます。

 それは、私の何十倍もあろうかという巨体。


 それは、大量の動物、魔物の体の一部分を合わせて作られた巨大なキメラの怪物。       

 頭に足が付き、足に腕が付き、体中に目玉と口が取り付けられ、かろうじてそれが生き物だと分かる事が奇跡だ。

 明らかに普通ではない、違法な、下法を作って作られたと思われる、異常で悪趣味怪物。


 「なんなんですかあれは……!」


 ステータスを見ると、それはとてつもない、信じがたいような、見たことない数値がそこにはありました。


 名前:■■■(ユニーク)

 レベル:150

 体力 860750

 攻撃 846770

 防御 565520

 魔力 565520


 >レベル差がありすぎる……

 >あんなステータスの敵、見たことないよ!

 >あんなん配信しちゃっていいの!


 空に浮いているカメラ機器は、私が配信を行うための機材。

 視聴者からのコメントが空中に映し出されています。

 すなわち、見ている人がいる。……ここで情けない姿を見せるわけにはいかない。


「……あれがユニークモンスター……!」


 ここ最近現れるという、異常なレベルを持ったモンスター。それがユニークモンスター。

 私のステータスを、ちらりと確認します。


 名前:大星 ステラ

 性別:女

 レベル:51

 体力 12748

 攻撃 12410

 防御 22815

 魔力 34248


 スキル:【☆友情バトン】【☆エネミーブレイク】【☆エネミーガード】


 数値の差が、あまりにもありすぎる。レベル差は3倍でも、ステータスは10倍どころの騒ぎではない。

 到底、戦える戦力差ではないのは知っている。無理なのは知っている。

 ――でも、戦わなくてはいけなかった。


 「うおおおおおお【エネミーブレイク】!!!!」


 私のスキル、【エネミーブレイク】は、敵意を持つ相手への大きく攻撃力を上げるスキルです。


 ですが、それは。ガァン!と鈍い音を立てて弾かれます。


 ――■■■に134ダメージ!


「……効かない」


 全くダメージが入らない訳ではない。それにもかかわらず、いくら攻撃しても決して倒すことが出来ないという現実が、目の前に叩きつけられる。


 >そんな……

 >逃げなきゃ!

 >ステラちゃんがやられるところ見たくないよ!


 悔しい。見ている方に、こんな不安な思いをさせるなんて。

 でも、コメント通りに逃げるわけにはいかない。逃げられない理由がある。

 

 そいつは、体中の目で私をじっと睨みつけると、ぴかりと光を放ちました。


「来るっ!」


 >まずいやられちゃう!

 >これヤバくね……?

 >グロ映像になっちゃう!

 >ステラちゃん!


「【エネミーガード】!!!!」


 私のスキル、【エネミーガード】は、敵意を持つ相手からの攻撃を大きく軽減するスキルです。

 これの二つのスキルより今までダンジョンでは敵なしと言われたわけですが……


 ――■■■の■■■ビーム!


「うううううう……ぐぁっ!……防ぎきれない!!!」

『グオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』


 ですが、その時。


>>>ステラちゃんに届け! 僕のスキル!


 ――ステラの、友情バトン!

 ――視聴者からスキル:タフネスを受け取った!


 タフネス:致死ダメージを受けても1残して耐えることが出来る。 


「!! これなら、まだ、戦える!」


 友情バトン。他人のスキルを受け取り、自分のものとして使う事が出来るスキルです。

 まさに、皆の応援を力に変える、配信者の私のためのようなスキル。


 ――ステラに、401736ダメージ!

 ――ステラは、タフネスで1耐えた!


「がぁっ!!!」


 私の体が吹き飛ばされ、壁にたたきつけられます。


 >耐えた!

 >でも次攻撃を受けたらやられちゃう……!

 

 ここはダンジョンの中なので、死んでもリスポーンすることが出来ます。

 ……ですが、帰ってくるまでにこの怪物はダンジョンの外に出てしまう。

「ダンジョンバースト」が発生してしまうでしょう。

 その時、どれだけ沢山の一般人に被害が出る事か。

 それだけは防がなくてならない。いや、防げなかったとしても。

  

 >ステラちゃん! すぐ助けが来るから!

 

 一分一秒でも、長く時間を稼がなければいけない。

 それが、皆が、来てくれるための時間になる。


 全身が痛いです。

 もう動く力もないです。

 ――それでも、私は立ち上がります。

 

 わたしを見てくれる人のために、折れるわけにはいかなかった。

 皆のために戦うのが、配信者である私の生きるすべなのだから。


 背中についた巨大な腕の塊が、私を襲ってくる。

 

「皆、私に力おおおおおおおおおおおお!!!!」


 >頑張れ! 頑張って!

 >ステラちゃん負けるな! 負けないで!

 >頼む……!


 ダンジョン配信者である私を、見ている人がいます。視聴者のためにも、ここでくじけるためには行かない。



 でもこの強力なスキルをもってしても、こいつには、敵わない。

 ここから何とかするには、視聴者から耐えるスキルを受け取りまくって、一瞬一秒でも長く耐えるほかない。

 それしか、できないのか?

 こういう時何とかするのが私の役目じゃなかったのか?

 私は、無力だ。


 「それでも……! 私は! ここを守り抜くんだあああああ!」


 また、攻撃が来る。


 今度は、耐えられな――





「よく、頑張った」


 かつ、かつ、と足音が響く。


 攻撃は、来なかった。


 音のする方を振り向くと、そこにいたのは、鎧をまとった一人の人間の姿。


「――助、け?」

「そうだ。俺が来たからにはもう大丈夫だ」


 ユニークモンスターの方を見やる。

 そいつは動かない。

 いや――違う? 震えている? 恐怖している?


 ――Kは威圧感を発している!!

 ――■■■は動けない!


「ふーん、レベル150オーバーか……しかし悪趣味な見た目してやがる。だが、少し我慢してな」


 かちゃり、とその人は剣を構えます。


「人を守るのは、頑張ってる人に力を貸すのは――俺たちベテランの役目だ」

「あなたは――」

「安心しろ、俺のレベルは255ある」

「にひゃっ――!?」


 その言葉の正しさを問う暇もなく。

 彼は剣を取り出し、高く飛び上がると。

 振った。




 ――Kの、【16回撃】【×3】【上乗せ】【全体化】【必中】【防御無効】【バリア貫通】【耐性貫通】【特殊耐性無効】【etc.】一刀撃!!!


 ――51236529840ダメージ!!!!!

 

 ――■■■を倒した!


 

 「――、――!」


 粉みじんに敵が崩れていきます。

 あんなに硬かったHPも、あんなに恐ろしかった姿も。

 全て、ボロボロに消え去っていきます。


「おっと、一発で済んで良かった」


 私は口をあんぐりと開け、呆然としていました。


「さーてと終わったぞと」


 ゆっくりと、鎧の姿をしたなにかは私の目の前に着地する。


「――っは!?」

「っと、君は大丈夫だったか?」

「あなたは一体――何者ですか!? そもそも人間ですか!?」


 そう問われると、彼は頭につけていた兜を脱ぎます。



 

 鎧から出て来たのは――ピンク色の髪をした、かわいらしい顔。


「――えっ」

 

 ピンク色でありながらさらりとした髪がなびく。

 それでいて凛々しくかっこよく美しい姿がそこにはありました。

 

「――女の人だったんですか!?」

「んにゃ、男だよ俺は」

「あっはい、すいません」

 

 違った。

 

「この顔じゃあ女に間違えられるし目立つしねえ……普段は隠してんだがな。でも、助けた相手だろ? 鎧姿だと魔物か何かに間違えられるんじゃあ困るしな」


 その眼の下にはくまが出来、どこか目の光は虚ろ。

 なにか、辛い事でもあったかのように。


 しかし、でもしかし。かわいらしくてもその姿は――どこかとてもそれはとても美しい、おとぎ話から出て来たかのような神々しさすら感じていました。


「ああそうだ。これだけは聞いておきたかった。君、名前は?」

「えっと、大星ステラと言います……」

「どっかで聞いたことあるような。でもいい名前だ」


 兜をしまい、頭を振ると、髪がふわりとなびきます。

 

 「それで、あなたは――?」

 「俺は、異世界このせかいから追放されてきた男――おめおめと、このシン・日本に逃げ出してきた負け犬さ」


 そう、自嘲した後。

 

 「あ、でも他の人には秘密にしてくれよな? ここにはギルドとかから隠れて来たもんでね」


 彼は――私に向かって、にっこりと笑います。

 でも小さな顔でにっこりと笑うもんだから、一層女の子みたいにかわいらしく見える。 

 やはりその姿は、男とは思えませんでした。

 

「そ、それで恐縮なのですが……」


 そこらへんにふわふわ浮いているカメラ機器を指さし、恐る恐る言う。


「今の配信してたんですが、不都合はなかったでしょうか……」

「……え゛」


 彼は、 おっかなびっくり仰天して声が上ずりました。

 配信画面を見ると、コメント欄が、読み切れないほどとんでもない速度でスクロールしていきます。


「配信? 皆今の見てた感じ?」

「はい?」

「……それ、消せない?」

「……リアルタイムで配信してるので……あすいません今すぐ止めます」

「そうかー……マジかー……目立っちゃったかー」


 切り抜き動画が大バズリした事を知ったのは、この後すぐでした。









―――――――――――――――――――――

3話まで読んでくださり、ありがとうございます!

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