第2話

2024年 07:20 神奈川県横浜市

警察署に出勤した女性が1人、同じく出勤していた他の警察官がその女性に向かって


『おはようございます!』


とすれ違いざまに元気な挨拶をしていた。

それに対し、


『あぁ、おはよう。』


と軽い口調で挨拶を返していった。

この女性の名前は竜崎玲(りゅうざきれい)、ここの警察署長であり対異能対策課の代表取締役を担当している監視者である。


玲は自分の職場である署長室に入り、自分のデスクのところまで歩き、鞄の中から必要な書類を取り出し、デスクの上に無造作に放り投げる。

そしてデスクパソコンを起動し本日の予定を確認した後、


『さて、そろそろ行かないとな。』


と外の景色を見てそう呟き、署長室を出ようと荷物を整理して扉に向かおうとした時、署長室の扉がひとりでに開き、1人の女性が現れた。


『あっ。署長。おはようございます。』


元気で可愛らしい挨拶をした彼女は星野瞳(ほしのひとみ)、玲が一番信頼している秘書である。


『あれ?この後どこかにお出かけですか?』


続いて玲に質問をする瞳に対し、


『あぁ、またいつもの場所に行く。朝礼前には戻ってくるから朝の紅茶は要らないよ。』


玲は出かける場所と戻ってくる時間を瞳に伝えた。


『あの場所に向かう日は今日でしたか。せっかく

玲さんが気にいると思って買った紅茶と菓子を持ってきてしまいました。』


そういって瞳はがっかりした表情で分かりやすく肩を落とした。

彼女の左手には小さな紙袋があり、中はよく見えなかったが小さな袋とクッキーの写真が印刷された箱が入っていた。


『そうか。それはすまない。午後の会議が一通り終わったら頂こう。』


瞳の悲しげな表情を見た玲は彼女の気遣いを無駄にしない為にそう話した。


『ありがとうございます!では私は今日の業務の準備をしないといけないので失礼します。玲さんもそろそろ出ないと行けない時間じゃないですか?』


瞳がそう言いながら壁にかけられた時計をチラッと見た。


時計の長針は25分を指していた。予定の場所には車で約10分かかる。早く出かけないと朝礼の時間に間に合わなくなってしまう。


『そうだな。ありがとう。では私は行ってくるよ。会議に使用する資料に不備が無いか確認をお願いしてもいいか?』


玲は瞳に仕事の依頼をしそのまま署長室を飛び出して行った。

玲は警察署の入口ではなく屋上に向かった。

そして、


『ここなら誰にも見られる事なく飛んでいけるな。』


そういって玲は背中に力を軽く入れると大きな翼が飛び出し、そのまま玲は空に飛び出した。



同日 07:30 リライ事務所

1人の女性が事務所内のソファに横になりテレビを眺めている。

テレビの電源をつけた際に偶然映ったニュース番組を意味もなくただ眺めていたのである。


『おはようございま…。またソファでゴロゴロして。リーダーがそんなのでどうするんですか?』


事務所の入り口が開き、挨拶を中断して呆れている青年が1人、彼は15歳になってこの事務所で雑用を任されていた。


『だって今何もやる事がないんだも〜ん。今の時間特に面白いテレビ番組とか放送されてないし〜。』


そういって相変わらずソファで寝転がっている女性の名前はレイズ、こう見えて一応リライ事務所のリーダーであり、他の従業員からはリーダーと呼ばれている。

そして、1ヶ月前に玲さんにここの従業員として過ごすように言い渡されてしまったのである。


『全く。玲さんの命令でここの従業員になったのに。なんだってこんな雑用をしないといけないんだ。』


壱無はそう言いながらも事務所に来て早々に床掃除を始めた。


『なんだかんだ文句言って結局はやってくれるんだから〜。玲も壱無もツンデレなんだから〜。』


ソファに横になりながら壱無の事をからかっているレイズだが、シビレを切らした壱無にテレビの電源を切られてしまった。


『あぁ、なんでそんな酷いことするの〜。』


全く悪びれる態度を取らずそう言ったレイズに対し、


『リーダーには今日やる事があるんですから、だらだらとテレビを見てくつろいでる暇なんか無いんですよ。』


そう言って持っているリモコンをテーブルの上に置き、


『今日は玲さんが俺の経過観察しに来るんですから、少しは事務所らしく綺麗にしたらどうです?』


そう言いながらも床掃除を終えて事務所内のデスクを一つずつ丁寧に掃除している壱夢。


『おっはようございまーす!』


突然1人の少女が事務所の扉を勢いよく開けて入ってきた。


『おはようございます。』


そして少女に続き丁寧な口調で挨拶をしながら女性が少女に続いて入ってきた。


『……おはよう。』


少し遅れて男性が1人、スマホを弄りながら入ってきた。


『おはようございます。烈花さん、氷華さん、仁真さん。』


壱夢は出勤してきた三人に丁寧な挨拶を返した。


『おっ壱夢。朝から掃除とは熱心だね〜。お姉さん感激だよ〜。』


そういって壱夢の背中をバンバンと音を立てながら叩く少女の名前は飛羽奈井烈花(ひばないれっか)、頭のてっぺんが壱夢の顎にギリ届かないような小さな少女はこの事務所の戦闘員であり、一応21歳なのだが、何も知らない人から見たら小学生高学年か中学生にしか見えない。


『壱夢さん、毎朝私達の机と事務所内の掃除、ありがとうございます。』


変わらず丁寧な口調でお礼を言う女性の名前は響氷華(ひびきひょうか)、この事務所の中で唯一礼儀正しく常識人だが、その表情は挨拶の時から変わらず感情がないように見えるが、事務所の全員曰く『響の感情はなんとなく分かる』とのことらしい。事務所に来て日が浅い壱夢には今だによく分かっていない。


『………。』


事務所に向かって挨拶をした後に、そのまま事務所のデスクに座ってスマホを操作している彼の名前は間宮仁真(まみやじんま)、いつもスマホを操作している姿しか見たことがなく、所謂スマホ依存症なのではないかと不安になるが、烈花か氷華にそのことを指摘すると素直にスマホをやめているのでギリ依存症ではないようだ。


この3人はいつも一緒に行動しており、リーダーに聞いてみたところ、3人は同じ高校の幼馴染なんだそうだ。


烈花と氷華もリーダーに軽く挨拶を済ませた後、それぞれ自分たちのデスクに座り、各々必要な物を鞄から取り出していた。


『そういえば、今日は玲さんが来る日何だっけか?壱夢の経過観察しに。』


烈花は鞄から荷物をあらかた出し終えた後にそう聞いてきた。


『はい。俺の身体の変化や能力の発現が無いか確認しに来る日ですね今日は。』


烈花の質問に対し、壱夢はそう答えた。


『でも今の今まで自分で確認できた能力が無いんだろ?お前がここに来てから一週間ごとに観察しに来るわけだけど、何も変化が無いから能力なんか持ってないんじゃないのか?』


続けて烈花の質問に対し、


『玲も私も、能力者特有の瞳の異常変化を確認できたから、能力が無いことはないよ。ただ、ここまで経過して能力の発現が見られないのは見たこと無い。』


能力者は皆、自分の能力が瞳に表現されている。例えば烈花の場合、瞳孔の形は燃え上がっている炎のような形をしているように、その人の能力が瞳に反映されている。


壱夢も瞳の異常変化を確認できていたが、能力の発現が確認できていない為、本人ですらどういった能力なのか理解できていないのだ。


『ん〜。瞳孔の形は能力者のそれなんだけどなぁ。…ん?』


顎に手を当てて壱夢の顔を観察していたレイズがある事に気が付いた。


『壱夢…。お前の瞳孔が少し変わってないか?』


レイズの質問に皆がきょとんとした顔で『え?』という声を漏らした。





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