No title

@kfkf1212

第1話

『こんな所で子供が1人で何をしているんだ?』

私の目の前に現れたその人はこちらを睨みながらそう尋ねた。


『………。』


女性が1人、うずくまっている少年に声をかけた。

声を掛けられた少年は、顔を膝にうずめており分かりにくいが10歳くらいに見える。

少年は返事に答えずに沈黙を選択した。


『聞こえてないのかそれとも話したくないのか知らないが、子供が1人で路地裏でいるのを見てしまっては見過ごせないな。』


女性は少年に聞こえるくらいの大きさの声でそう呟いた。


『………。』


少年は先ほどと同じく膝に顔をうずめて無言を貫いた。


『いつまでそのまま無言でいる気なんだ?少しは返事をしたらどうなんだ?学校でそう習わなかったのか?』


女性は少年が返事を返さないので少し怒った口調でそう話した。


『…別に。ここにいたいからいるだけ。』


少年は重い口を開き目の前にいる人にぶっきらぼうに答えた。


『家に帰りたくないのか?それとも帰る家がないのか?』


女性はやっと返された返事に安堵しつつ、変わらずこちらを睨んだ表情で立っていた。


『…帰る家が無くなって自分の居場所が無い。』


相変わらずぶっきらぼうに答えた少年だがわずかに声が震えているのを女性は聞き取っていた。


『誰か引き取ってくれる人は居なかったのか?友人や親族とか?』


そう聞いてきた女性に対し、


『友人も親戚も頼れる人は誰もいない。俺が近寄るみんなが俺のことを化け物と言って離れて行ってしまうんだ。』


少年はぶっきらぼうに答えてた先ほどとは違い、怒りを抑えれていないのか声を荒げながらそう答えた。


『どうせあんたも俺の顔を見れば化け物と行ってすぐ逃げていくんだろ?今まであった人達はみんなそうだったから。』


少年は膝に顔をうずめたまま声を荒げてそう言い放った。


『………そうか。』


女性はそう呟いた後、少年の腕を掴みあげ顔を覗き込もうとした。

少年は突然の行動に驚き対抗しようとしたが、子供の力が大人に通用する事など到底出来るわけもなく顔を見られてしまった。


『………!』


少年の顔を見た女性は驚いた。

いや、正確に言えば顔ではなく少年の瞳を見て驚いたのだ。

少年の目は普通の瞳ではなく、獲物を狩る獰猛な捕食者のような瞳をしていたからである。


『ほら、あんたも驚いた。だから顔を見られないようにしていたのに。』


少年は予想していた反応に呆れた表情でそう呟いき、掴まれていた腕を乱暴に振り解いた。


『…流石にこの瞳を持つ人は少ないが、この程度では私は驚かない。』


女性はそう返答し、続けて


『私の古くからいる知り合いがお前と同じようなおかしな瞳を持っていてな。しばらくあってなかったからこういった瞳を見るのは久しぶりでね。つい驚いてしまったよ。』


女性はそういってこちらに向かって笑みを浮かべた。


『どうだい?私の所にしばらく住んでみないかい?嫌だったら、ここで1人縮こまって座っていればいいさ。そうすれば、死神がお前を迎えにきて静かにここで死ぬことができる。』


女性は煽り口調を混じりつつそう少年に問いかけた。


『こういうのは誘拐って言うんじゃないのかよ?いいのかこんなことをしても。』


少年は女性の煽り口調を無視して聞き返した。


『たとえこのことがバレたとしても保護したといえば周りの人はそう信じて誰も疑いやしないさ。それと、私はこれでも一応警察署長だから私の話すことはみんな気にしないのさ。』


とても警察とは思えない発言をしてる女性を見てまたもや呆れた表情をした少年だが、このまま路地裏にいたとしてもどのみち死ぬ運命を辿ることを理解していた。


『…いいよ。』


少年は小さくそう呟いた。


『ん〜?なんて言ったのかな?よく聞こえなかったなぁ?』


聞こえていなかったのかそれとも聞こえていないフリをしているのか、女性が笑みを浮かべた表情で返答を待っている。最初に自分がやったことをやり返されたような気分になり、少年は不機嫌そうに


『住まわせてください!お願いします!』


少年は今までの態度とは打って変わって礼儀正しく頭を深く下げてそう言い放った。


『分かった。じゃあ私の後を着いてきなさい。一般的な知識と礼儀を私が教えてあげるわ。』


そう言って女性は後ろを向いて路地裏の出口に向かって歩き始めた。

少年も置いていかれないように女性の後を追った。


『そうだ。名前を聞いていなかった。君、名前はなんて言うの?』


女性は少年の方を振り向き、そう尋ねた。


『…壱無。時透壱無(ときとういむ)といいます。』


そう言った少年の瞳は微かだが小さく揺れていた。

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