【もしも】死んだはずの村娘たちが僕に恋をしたら……?
よっちゃん
第1話「もしも死んだはずの村娘たちが僕に恋をしたら……?」
もしも、死んだはずの人が微笑みながら「あなたが好きです」と告げてきたら――そんな状況、あなたならどうするだろうか?
俺の名前はリク。かつての日本での記憶は朧げで、転生した先のこの異世界で、俺はただ自分の力で生き延びることだけを考えていた。強力なスキルを授かったわけでもなく、勇者として召喚されたわけでもない。ただの流浪の旅人。それでも少しずつこの世界に馴染み、仲間を求めて放浪していた。
そして辿り着いたのが、小さな田舎の村、「エルフローズ村」だった。
「ようこそ、旅人さん!」
村の入口で出迎えてくれたのは、一人の少女――エリスだった。金色の髪にそよ風のような笑顔をたたえた彼女は、純朴で親しみやすい雰囲気を漂わせていた。
「疲れてるみたいね。村でゆっくり休んでいって!」
彼女の案内で村に入ると、そこにはまるで絵画のように美しい風景が広がっていた。木々に囲まれた素朴な家々。澄んだ川と小さな橋。陽光が穏やかに照らし出す穏やかな田舎の風景。
村人たちはみな親切で、食べ物を分けてくれたり、宿を無償で提供してくれたりした。俺は久々に「家」のような感覚を味わった。
しかし、その夜。
村が静まり返ったころ、俺は奇妙な音に目を覚ました。
――カチ、カチ、カチ。
枕元に置いていた古びたポケットウォッチが動き始めていた。ずっと止まったままだったはずの針が、闇の中で不気味に揺れている。
「……なんだ、これ?」
俺がポケットウォッチを手に取ろうとした瞬間、窓の外に何かの影が動いた。
「……誰かいるのか?」
外を見下ろすと、そこには暗闇の中にぼんやりと浮かぶ人影があった。それは村娘のエリスだった。
「リクさん、起きてたんだね。」
薄暗い月明かりの中で、エリスが笑っている。その笑顔は、昼間と変わらない穏やかなもののはずだった。けれど、何かがおかしい。胸の奥がざわつく。
「……どうしてこんな時間に外に?」
「ううん、ちょっと、あなたに会いたくて。」
エリスがそっと手を伸ばし、俺のポケットウォッチを触ろうとする。
「これ、面白い音がするね。」
その瞬間、時計が一層大きな音を立てた。
――カチ、カチ、カチ。
何かが「ズレている」。彼女の微笑みの奥にある何か、村そのものに流れる静寂の裏側にある異常。それを直感で感じ取った俺は、背筋が凍りつくのを覚えた。
それでも、翌朝になれば、そんな恐怖がまるで夢だったかのように思えてしまう。朝の光の中で笑顔を見せる村娘たちは、あまりに魅力的で、何もかもが普通に見えるからだ。
「リクさん、今日も一緒に散歩しない?」
エリスが手を引く。その後ろには、物静かなフィオナと、どこか挑発的な微笑みを浮かべるセリアの姿。三人の村娘に囲まれる日々が、俺の新しい日常になろうとしていた。
しかし、ポケットウォッチは今日も鳴り続ける。――カチ、カチ、カチと。俺に何かを警告するかのように。
もしも、この村が普通の村ではなかったら……?
もしも、彼女たちの愛の裏に恐ろしい真実が隠されていたら……?
そんな考えが頭をよぎるたびに、俺はただ笑っている彼女たちの姿に目を奪われていた。
「もしも、この愛がすべて幻だったら――俺はどうすればいい?」
不気味な村での新たな日常が、いま始まる。
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