第33話 真凜の家へ

「そっか。真凜のことを助けてくれたんだ。ありがとう」


「いいえ、当然のことをしただけです」



 リビングに入った3人は飲み物を飲みながら話をしていた。真凛がストーカーに会ってしまった所を真が助けたと匠は聞いていた。


「本当、柏木くんが来てくれなかったらどうなってたかと思うと、怖いよ」


「先輩のことは僕が守りますから」


「……ありがとう」


「え? 待って? 俺邪魔?」


 匠は気を利かせようとしてくる。


「え? 邪魔じゃないよ!」


「そうですよ! 邪魔じゃないです!」


 2人揃ってハモってしまう。


「あ、柏木くん」


「なんですか?」


「マリアとエドワーズの劇のことで話したいから、部屋へ行かない?」


「部屋へ?」


「うん、台本部屋だしお兄ちゃんいると集中出来ないから」


「はい、行きます」


「え? 真凜2人で部屋に行くの?」


「え? うん」


 驚く兄をよそに真凜はためらいもなく返事をした。



* * *



 真凛の部屋へ入ると真はどこに座れば良いのかソワソワしていた。実は女の子の部屋に入るのは初めてだ。


「ごめんね、狭いから座る所少なくて。そこの椅子にでも座ってもらえる?」


 真凜は勉強机の椅子を差した。


「あ、はい! 分かりました」


 真が座るのを確認すると、真凜はベッドに腰を下ろした。


「あ。これ……」


「え? 何?」


「……僕も、持ってます」


 真の視線の先には、真も購入した本、“運命の人”があった。


「え? 本当?」


「はい、この間、ネットで見つけて購入しました」


「私も本屋さんで見つけて、思わず買っちゃった」


「考えること、似てますね。僕達」


 真は真凜に穏やかな笑みを見せ、真凜も真に優しい微笑みを浮かべた。


「そうだね。不思議……。この運命の人って、私達の前世。マリアとエドワーズみたいじゃない?」


「僕も同じことを思いました」


「マリアとエドワーズ、あれからどうなってるんだろうね?」


「そうですね……エドワーズは婚約させられて、マリアは元気でしたか?」


「うん……元気とは言えなかったけど、中に私がいたから少しずつ前向きになって来てたよ。もう一度、2人で話がしたいって思ってる」


「そうですね……エドワーズは監視されてますから、厳しいですね」


「監視?」


「はい。逃げ出してマリアの元へ行かないようにと、国王が」


「国王様が……」


「次はいつ向こうへ行けるのか分からないですけどね」


「そうだね……次はいつなんだろうね?」


 少し沈黙した後、真凜は話を変えた。


「……劇のことなんだけど」


「はい」


「エドワーズとマリアの逢引きのシーンで、2人は夜中に逢うでしょ?」


「はい」


「ここなんだけど」


 真凜は台本を見せながら話を進める。


「ここは夜中だしあまり声を張り上げないほうが良いのかな? と思ってるんだけど、どう思う?」


「そうですね。夜中ですし、人目もありますからね。先生の意見もありますけど、それで試してみますか?」


「うん、そうだね。次の練習の時にでも」


「はい」


 2人で話し込んでいるうちにすっかり日も暮れて来てしまい、夕飯もと真凜の母親に勧められたが、真は帰って行った。

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