第31話 本心

「え?」


「全然彼氏といても楽しそうに見えませんよ」


 真は真剣な眼差しで真凜を見つめる。


「うん……正直分からなくて」


「分からない……ですか?」


「うん。友達みたいには思ってるんだけど……たぶん私は……」


 そこで言葉を止めると真凜は真の瞳を見つめた。


「私は……そういう好きじゃないかもしれない」


「先輩、それなら別れた方が良いですよ」


「……だよね。菜帆にも言われた」

 

「余計なことですけど、先輩にはいつも笑っていてほしいんです」


「柏木くん……」


「だから。自分の気持ちに素直でいてください」


 真は真凜に切なげな瞳を向けた。


「うん、そうだよね」



* * *



 別の日の部活終了後。後輩のさやかが近づいて来た。


「先輩〜」


 笑顔で話しかけてくるさやかは、大きな丸い瞳が特徴の可愛らしい女子で、期待の新人と言われる程の演技力を持っている。


「さやかちゃん」


「今日の私の演技、どうでした?」


「うん、凄く迫力があってさすがさやかちゃんだなぁ〜って思ったよ」


「本当ですか? 嬉しいです」


 さやかはそう言いながら更に真凜に近づいて来る。至近距離まで近づくと、小声で囁いて来た。


「……先輩。彼氏がいるくせに柏木くんに近づかないでもらえます? 私、告白しますから」


 一瞬背筋がゾクリとした真凛は固まってしまう。


「え? 告白?」


「はい」


「ダメ!」


 真凜は反射的に答えてしまう。


「何でですか? 彼氏いるじゃないですか?」


「そうだけど……」


「先輩には何も言う権利ないですよ」


 さやかは笑顔を向けながら、真凜から離れる。


「それじゃあ、先輩! お先でーす!」


「お疲れ様」


――さやかちゃん、柏木くんのこと好きだったの? どうしよう、私。やっと分かった。柏木くんのこと、好きなんだ。


 翌日。真凜は駿に話があるからと呼び出した。告白された時と同じ昼休み。


「どうしたんだよ? 急に話って」


 屋上のフェンスをつかみ真凜は黙り込んでいる。


「うん」


「真凜?」


「あのね」


 そう言うと体をフェンスから駿の方へ向けて、駿の顔をしっかり見た。


「うん」


「私と別れてください!」


 真凜は駿へ思いっきり頭を下げる。


「……真凜。頭上げて」


「できないよ!」


「良いから」


 真凜は恐る恐る顔を上げて駿を見上げた。


「そうじゃないかと思ってた」


 そう言った駿の顔は悲しげで、真凛の胸を苦しくさせた。


「え?」


「だけどさ、もしかしたら違うかもしれないって、気持があるかもしれないって、信じたかったんだ」


「うん」


「好きな人でも出来た?」


「え?」


 一瞬で真凛の顔は湯気が出そうな程に赤くなる。


「……そっか。あーあ。羨ましいなぁ!」


 駿は空へ向かって叫んで真凛の顔を再び見つめる。


「その相手が羨ましいよ。そんなふうに俺に赤くなることなんて、なかったから」


「駿くん……ごめんね」


「たださ。少し待ってほしい」


「え?」


「今年最後の甲子園が終わるまでは」


「どうして?」


「うん、応援してほしいんだ。俺のこと」


「そんなの、応援するよ」


「形だけでも彼氏として」


「あ……うん、分かった」


「ありがとう、わがまま聞いてくれて」


「ううん、私の方こそ」



* * *



 放課後、部活が終わり1人帰っていると突然目の前に、この間の男子が現れた。


「待ってたんだ。君のこと」

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