第24話 国王

「待たせたな」


 しばらくして国王は部屋へ入って来た。ソファに座っていたエドワーズは立ち上がる。


「いや、座っていてくれ」


「分かりました」


 国王は静かにソファに腰をかけると、ジャクソンが紅茶を運んで来た。


「どうぞ」


「ありがとう」


 ジャクソンの入れた紅茶を口にすると、国王は話し始めた。


「すまないことをしたと思っている」


 国王の口から出たのは謝罪だった。


「……それならどうして……どうして僕たちを引き裂いたんですか?!」


 エドワーズは怒りと悲しみを父親へぶつけた。


「エドワーズの為だ」


「僕の?」


「そうだ。エドワーズは次期国王だろう?」


 国王の眼がキラリと光り、エドワーズは一瞬言葉に詰まる。


「……ええ。分かっております。私は、次期国王です」


「あのままの生活をしていては良くないと判断したのだ。この国の未来の為だ」


「……マリアさんが王妃になることだって、おかしくないではありませんか?」


「駄目だ、レーム家の娘ではないか」


「そんなものくだらない、ただの親同士の都合じゃないですか! なんで……僕達が巻き込まれないといけないんだ!」


「エドワーズ……」

 国王は父親としての戸惑うような顔をわずかに見せた。


「すまないと思うなら、許してほしかった……僕達の未来を認めてほしかった。マリアを王妃に迎えたかった!」


 怒りと悲しみで体が震え、エドワーズは吐き捨てるように国王に言った。

 

「……時がたてば気持ちも薄れるだろう。エドワーズ、マリアさんのことを忘れるのは辛いだろうが、エドワーズに婚約者を用意した」


 エドワーズは耳を疑った。


「……何ですって?」


「婚約者だ」


 ただでさえマリアと別れ傷心中な所に、婚約者と言われたエドワーズは、心のなかで何かがプツリと切れたのを感じた。


「次期国王としてですね?」


「そうだ」


――もう、どうでも良い……。


 投げやりな気持ちになったエドワーズは国王に返事をした。


「分かりました。失礼します」


 エドワーズはゆっくり立ち上がると、虚ろな瞳のままお辞儀をし、部屋から出て行った。



* * *



 エドワーズはこの日、国王の用意した婚約者に会うことになっていた。


 応接室に呼ばれ待っていると令嬢が入って来た。


「失礼致します」


 入って来たのは世話好きそうな母親に、気の強さを思わせる美しい令嬢だった。


「どうぞ」


 国王は穏やかな雰囲気で親子と会話を交わして行く。エドワーズは上の空だ。


「エドワーズ様?」


 いつの間にか令嬢はエドワーズの向かいに座り、エドワーズにしきりに話しかけて来ていた。


「……はい」


「私達同い年なんですって?」


「……そうですか」


 全く興味のないエドワーズは気のない返事しか出来ない。その様子を見て国王はフォローを入れる。


「何分、恥ずかしがり屋なもので、すまないね」


「いいえ、構いませんわ」


 令嬢の瞳が獲物を見るような目つきに見えたエドワーズは、逃げ出したくなる。


――いいえ、僕は構います! 嫌です!


 思わず心の中で呟いてしまう。

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