第22話 国王の願い
「ありがとう、マリアさん」
国王は再び穏やかな表情に戻った。
「二、三日以内に荷物をまとめて出ていきます」
マリアは自分の発している言葉がどこか他人事のように聞こえる。
――マリアさん? これで良いの? 私何も変えられてない。
国王は満足そうに微笑むと帰って行った。
* * *
その日の夜。マリアはエドワーズにこのことを話せずにいた。国王が帰った後、待機してくれているミミの弟の騎士に、明後日には帰るから馬車を頼むように伝えてほしいと頼んだ。彼は馬に乗り急いで伝えに行ってくれた。
「マリア? どうしたんだい?」
夕食を食べ終え2人で寄り添いくつろいでいると、ぼんやりしているマリアにエドワーズが声をかけた。
「……エドワーズ様」
「ん? 様?」
「あ」
ぼんやりしすぎて思わず様付けをしてしまう。
「いえ、何でもありません」
「そうかい? 何かあったら言うんだよ?」
エドワーズは優しくマリアの頭をなでる。
「はい」
「……疲れたんじゃないかな? 早く休もう」
「……ありがとうございます」
その日はエドワーズのお言葉に甘えさせてもらい、マリアはベッドへ入った。エドワーズに何も言えずに去らなければいけない苦しみを抱えながら1人静かに泣いていた。どこまでも止まることを知らない涙を流しながら。
* * *
2日後。マリアはいつも通りエドワーズを送り出し、置き手紙を残し、荷物をまとめた。近くに馬車が待っている。今日は風が強い。マリアは外へ出た途端に帽子を飛ばされてしまう。
「あ!」
帽子は強風に煽られ勢いよく空高く舞い上がって行った。
――しょうがない……。行かなきゃ。
待たせている馬車に乗り込むと馬車には、ミミがいた。
「ミミ……」
マリアはミミの顔を見た途端気が緩み、涙が溢れそうになる。それを察したミミは優しく微笑んだ。
「マリアお嬢様……」
マリアはミミの横に座ると俯いてしまう。
「泣いても良いですよ」
返事の代わりにマリアはミミにしがみつき、大粒の涙を流す。ミミは何も言わず、ただ背中を優しく撫でていた。
数時間後、馬車は屋敷へ到着した。マリアの実家。懐かしい我が家。マリアは応接室にいる両親へ顔を見せに行く。
「お父様、お母様……」
「ああ……マリア!」
母親は駆け寄りマリアを抱きしめた。父親は離れた場所にいる。
「顔を見せて、マリア?」
母親はマリアの顔を見つめようとするが、マリアは泣き腫らした顔を見られたくない。
「お母様、私……寝不足で……」
マリアは苦し紛れに言い訳をする。
「あら? どうして?」
「仲良くなったお友達と離れがたくて、夜通しお話をしていたのです」
「……まあ、そうよね。寂しいわよね。今度、その……パトリシアさんも家へ呼んだらどうかしら? 長い事お世話になってしまったもの」
「ええ」
「マリア、疲れただろう?」
父親はマリアに優しく微笑みかける。
「いいえ、大丈夫です」
「無理しないのよ、顔色が良くないわ」
「今日はゆっくり休みなさい」
「はい、ありがとうございます、お父様、お母様」
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