ダイク 警視庁捜査第九課 ~目黒亮介の眼福な日常~
大島ぼす
第1話 発端
その日、都内のある公園にて複数名の死体が発見された。直ちに現場には警視庁捜査一課が派遣され、その凄惨な現場に熟練の刑事達も顔を顰めた。
「……酷いですね。こりゃ。ここまで酷いと怨恨とは考えられませんね。愉快犯や猟奇殺人でしょうか?」
「ああ。多分そうだろうが、捜査に先入観は禁物だ。……と言ってもこれが物取りな訳は無いし、怨恨だとしたら俺は人間が怖くなるよ。どんな恨みつらみがあればこんな事が出来るんだ? そもそも殺害方法というか凶器は何だろうな……。見当もつかん」
捜査一課課長、小池は死体を見て唸った。死体にはいずれも……首から上が存在しなかった。正確には頭だったものはその場に存在した。ただし、粉々だ。死体の頭は全て爆散したかのように周囲に飛び散っていた。その癖、目玉だけは傷一つ付かず、虚空を見上げているようだった。辺りにはむせ返る様な血の臭いが漂っている。
首は無かったが、彼らの服装から男、それも若い男性だとすぐに判明した。皆、有り体に言えば半グレのような格好をしていた。腕にタトゥーを入れている者もいる。すぐに持ち物から運転免許証が発見され、正確な身元も把握できた。
小池は過去に猟銃を咥えて自殺した男の現場を見たことがあるが、それに酷似していた。だがここは公園だ。銃声が聞こえた等の通報は入っていないし、猟銃を顔面や口内に突きつけられて大人しくしている者などいない。遺体を調べた結果ロープなどで縛られていた形跡もない。睡眠薬で意識を奪っていれば可能かも知れないが、こんな屋外で犯行に及ぶのは異常だ。
「課長、何か変な連中が来ましたよ。手帳を持っているので関係者みたいですが」
「何? 応援が来るなど聞いていないぞ」
小池の思考は部下の片桐の声によって中断を余儀なくされた。小池が目を向けると、そこには全身黒ずくめのスーツを着た若い男女のペアがいた。女の方は慣れた様子で、小池と目が合うと微笑みながら会釈してきた。男の方は動きがぎこちない。どうも新人のような素振りだ。
女は小池に近づき黙って片手で名刺を差し出した。彼女はヘッドフォンを付けており、その態度もあいまって、昔気質の小池は大声を出し掛けたが、名刺に書かれている所属を見ると押し黙った。
「……ダイクかあんたら……」
「ええそうです。こちらの現場は我々が引き受けます。遺体を片付け次第、撤収していただいて結構です。昼過ぎにまた来ますので、立ち入り禁止の措置だけはそのままにしておいてください。ではこれで」
女はそれだけ言うと、さっさと引き揚げてしまった。男は相変わらずオドオドしながら、女の尻にくっ付いている。
「片桐、聞いた通りだ。聞き込みは必要ないぞ。遺留品と遺体の回収だけ行っておけ。調書に必要な最低限のものだけ確保すればいい」
「課長! どういうことですか! あいつら何なんですか!」
事の成り行きがさっぱりわからない片桐が大声で叫んだ。突然やってきた連中に一方的に指示され、彼のプライドは大いに傷付いたのだ。天下の捜査一課が訳の分からぬ連中に指示されるなど、彼には許しがたい屈辱だった。小池は深いため息をつくと、片桐の肩を掴んで諭した。
「……よく覚えておけ。あいつらは、ダイクだ。連中が出てきたからにはこの事件は永久に解決せん。迷宮入りだ」
「だ、だいく? 家を建てる大工とか、年末に歌う第九じゃないですよね?」
「勿論違う。この名刺を見てみろ」
「……何ですかこりゃ? 警視庁捜査第九課? なんのいたずらですかこれは。刑事部に第九課なんて存在しません。公安や警備部でもそうでしょう」
片桐がもっともな指摘をするが、小池はタバコを吸い始め遠い目をしていた。
「課長……現場でタバコは――」
「固い事言うな。さっきも言ったがもうこの事件は終わりだ。現場を保存する必要もない。……片桐、お前のいう事は正しい。捜査第九課など存在せん。……表向きにはな。奴らは俺達では解決できない事件を担当する、裏の人間だ。……これ以上は俺からは言えん。お前も口外するなよ。SNSなどもってのほかだ。……もし部外者に情報を漏らせば……」
「も、漏らせば?」
小池の言葉に片桐は思わず、息を飲んだ。
「……必ず死ぬ。それも酷く苦しんでな。けっして楽には死ねんそうだ」
「く、くるしんで死ぬ?」
「そうだ。だからもう忘れろ。俺達が解決するべき事件は他にいくらでもある」
小池はタバコを吸い終わると、吸い殻を携帯灰皿に押し込みその場を後にした。その後、現場は片づけられ、立ち入り禁止のテープだけが残された。
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