第9話 迷惑をかけた夫の妻として、息子の母親として
「父さん! これ見てくれ!」
「あいつ……本当に出ていくつもりなのか!?」
「父さん、どうだ?」
「だめだ、つながらない。着信拒否されている」
……どうやら今回の家出、彼女は本気らしい。
夫と息子に心底失望された日の翌朝。持てるだけの荷物を抱えた
目的はもちろん、夫と息子がしでかしたことに対する精一杯の謝罪だ。
「……デ? ダカラ何ダ?」
「夫と息子が大変ご迷惑をおかけしたことのお詫びのしるしです」
「ソンナモノイラン。今更謝ッテナンニナル? オレハ中学生時代ノ3年間、オ前ノ夫ト息子ノ手デ苦シミ続ケタンダゾ!
オマエノ息子ト夫ノ手デ、ムシケラ未満ノ生活ヲ送ラサレテキタンダゾ!? ソノ傷ガ、コンナ菓子折リ1ツト謝罪のコトバデ消エルト思ッテイルノカ!?」
だが
「オマエハ
謝罪の言葉は彼に対して全くの無力で、何の足しにもならなかった。
「そうね、そうよね。私が謝ったくらいでは到底許されないことを2人はやったからね。しかも本人はいまだに悪いことをしたと本気で思ってなさそうだったし。
……
あの2人は
「実家ニ戻ル……? ナルホド。ダカラソンナ姿ナノカ」
実家に戻る、という言葉を聞いてその姿に彼は納得した。
「マァイイ。アイツラノ家庭ガ崩壊スルノハ、アイツラニトッテ当然ノ罰ダ。アンタハイジメヲ悪イ事ダト思ウダケ、マダマトモダナ。アノ2人トハチガウナ」
「本当は本人たちに謝らせるのがスジってものでしょうけど、あの2人はこれっぽちも反省していないから結局私が代わりに謝ることにしたけど……許してはくれそうにないわね」
「マァナ。アノ2人ハ許サンガ、アンタノ事ハ許シテモイイ。罪悪感ヲ抱エテイルダケ、マダマトモナホウダ」
「そう。許してくれるのね……ありがとう。もう2度とここには戻ってこないつもりだから」
そう言って彼女はタクシーに乗り、駅へと向かった。
「やまびこ216号仙台行き、間もなく発車となります。閉まるドアにご注意ください」
(そういえば新幹線なんて30年くらい乗ってなかったわね)
彼女は30年ほど前、大学で今の夫と出会い、卒業と同時に結婚。茨城に引っ越して今まで生活してきた。新幹線はその際乗った時以来だ。久しぶりに会う弟はどんな顔をして迎えるだろうか。
少なくとも今までの生活、夫と息子がいる生活には耐えられない。あそこよりはましだろう。
在来線に比べればずっと揺れも騒音も少ない車体に揺られながら実家のある仙台を目指すのだった。
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