5話「出薄ヨネオ校長との面談!」

 昼飯を済ませてからの午後がやはり重々しい空気が充満じゅうまんする。


 午前のさっきまでとは雰囲気が違う重厚な廊下。やはり怪しく笑むおじさんが迎えてくれた。

 厳重な多重扉を潜った先、やはり現実離れした施設の広場。怪訝けげんに目をしかめた。

 あの近未来的な壁はハリボテなのか? 太陽系の模型も発泡スチロールなのか?


 列を外れて、壁にそっと手で触れようとする。



「……城路ジョウジ君、触れないでください! 最高機密なんですから!」

 おじさんはメガネを煌めかせていた。

 その視線から、どことなく見下したような冷たい感じがした。


「すみません、でした……」

 沈んだ気分で頭を下げた。

「信じられない気持ちは分かりますよ。ですが現実なのです。そもそもこの施設自体も今の時代では到底届かぬ文明力ですからね」

「でも何故なぜ――!?」


詮索せんさくは無用ですよ!」

 冷たく目を細め、ぴしゃりと切る。ナッセは憮然ぶぜんとする。



 するとヤマミこと生徒会長さんがカツカツと前に出る。


検索けんさくは無用と言うけれど、不審に思われるのが問題でしょう? しかるべき根拠を説明して生徒たちの不信を拭うのが教師としての義務ではないの?」


 毅然きぜんと厳しい生徒会長さん。いいぞ! もっと言ってやれ!

 するとおじさんはギロッと睨みを利かせ「いくら夕夏ユウカ家の言う事であろうが、その義務はない!」と突っぱねる。

 生徒会長さんはギッと歯軋はぎしり。スミレが「落ち着いて~」と宥める。


 ヤマミがすごすごと引き返す時、こちらを見て恥ずかしそうに顔を背けた。

 そんな赤らめた顔にドキッとときめいてしまう。


 拒否されたが結果的に助け舟出してもらえた感じで、ホッと安堵できた。



「結局、生徒会長でもダメかぞ……」

「分かる分かる! あたしだってきつねにつままれた気分よ。説明して欲しいわよねー」

 ウンウンとリョーコはうなずいた。

 くやしいが、そんな気分だ。



「今日は一人一人面談しますので、呼ばれた人はあちらの個室へ行ってください」


 何人かが順序よく面談を済ませていく最中、  

城路ジョウジナッセ君。こちらへ」

 施設にもいくつかドアがあって、おじさんにその中の一つのドアへとうながされた。



「やぁ。こんにちは。学院生活の二日目はどうかね?」


 ……出薄デウス校長さんが穏やかな笑顔で待ち受けていたぞ。校長ってそう言う仕事するもんなのかぞ?

 少々面食らったが「どうぞ」とうながされて椅子いすに座る。


「今回は君の『創作士クリエイター』としての能力を確認させてもらいましょう」


 そう言うと、半透明のキーボードを叩く。慣れた様子でいくつか宙に半透明のモニターが浮かび上がる。

「おや?」

 出薄デウス校長は興味深そうに見開く。


「……このステータスは魔道士マジシャンに近いですな?」

「あ、ああ。いや、……はい!」

「素晴らしい事に魔力も高くて、何よりMPマジックプールが信じられないほど広大じゃな。九九九までしか測定できないから、最大値の上限が分からないのう。うんうん、すごいですな」

「は、はい」


 出薄デウス校長はキーボードを叩いて、ステータス欄の九九九を百辺りに数値が切り替わった。この数値は、並みの魔道士マジシャンの平均MPマジックプール最大値だ。



「では何故剣士セイバーになったのかな?」


 しばしうつむく。


「……師匠と修行してる時に、成長の伸びが魔道士マジシャンだと判明しました。

 なのに、魔法よりも剣術に才能があると分かってしまいました。これって普通ならゴミ才能扱いなりますよね……」

「これ、自分の生まれ持った才能をゴミと言っちゃいけませんよ」


「す、すみません……。でも師匠と同じ事言うんですね……」


 そう、同じだ。


 他の人が聞いたなら、きっと素の身体能力が弱すぎて剣術の才が活かされないからゴミ性能とバカにしてたかもしれない。

 かと言って攻撃魔法も下手だから更にゴミ性能に拍車はくしゃをかけている。


 だが師匠は、はげますように微笑み、

「あなたのそれは光るモノがある。あきらめずみがいてみがききれば、必ずダイヤモンドのように美しく輝けるようになるわ」

 そう自信満々とそう言ってくれた。


 それだけで自分は何となく自信が湧いてくるようにさえ思えた。


「自分だけの唯一無二ゆいいつむにの個性ですから、必ず自分に合った方法があります。ですから今こうして入学したのでしょう?」

「は……はい! おっしゃる通りです!」


 自信を持ってこたえるようになったオレに、出薄デウス校長は微笑んだ。



「見た所、君は魔法力を身体強化に注ぎ、それを剣技の才に活かしている。

 普通の魔道士マジシャンなら、常時消耗し続ければあっという間に枯渇こかつして、後が続かない。でも君の広大なMPマジックプールがそうした欠点を払拭している。いい才能じゃよ」

「はい。そう言われたらうれしいです。ありがとうございます」


 なんて優しい校長だ。安心感があるっていうかな? つい親身に話してしまう。



「ところで……師匠というのは誰ですか?」と耳打ちしてくる。


「く、クッキーさんです……」

「おお!! あのクッキーさんですか!?」


 大仰おおぎょうおどろ出薄デウス校長。


「は、はい。彼女から剣術の指南しなんもしてもらいました。一応、魔法の指南しなんも受けてたんですが……、サッパリでした。

 あとMPマジックプールの最大値も、厳しい修行を受けた結果だと思います」


 ポンと肩に手を置いて、嬉しそうに微笑んでくる。


「君は大変素晴らしい師匠を持った。クッキーさんは私の師匠でもあるんですよ。いやはや数奇すうきな巡り合わせですじゃ」

 かんらかんら、上機嫌じょうきげんだ。



 ふと疑問に持った。

 出薄デウス校長さんは少なく見積もっても五十はとうに超えている初老。

 でもクッキーは若々しくて、どう見ても二十代の風貌ふうぼうだった。いつから生きているのか気になるぞ。


「やはりクッキーさんは若々しいのかな?」

「は、はい! ヘンテコな髪型してるけど、まだ若いらしいです」


「そうだ、頭上がデフォルメ的なウニ頭だったのう。ははは」

「ええ。自分で『ウニ魔女』って言ってましたよ。変わった人ですけど、かなり強いし厳しい時もありました。基本優しいですけど」


「ほほ、そうじゃ! そうじゃよ!」


 なんか意気投合いきとうごうしてしまった。不思議と打ち込めるコミュニケーション。これがいつもだったらいいのになぁ。



「こほん! 閑話休題かんわきゅうだい……。話がれてしまいましたな。では申し訳ないけど、腕前を見せてもらっていいですかな?」

「はい! いいですけど……、どこで?」


 出薄デウス校長は「ふふ」と微笑み、更に奥のドアのノブへと手を向けた。



「こちら『仮想空間バーチャル・ルーム』へ!」


 入ってみると、更に広い空間があって円陣を組むように等間隔とうかんかくに召喚陣みたいな魔法陣が描かれていて、あわい光を放っていた。

 その中心はサーバーを思わせるような円柱の装置があった。


 まるで近未来のオンラインゲームっぽい雰囲気ふんいきだ。



「ここでは、特定の亜空間に自分の分身アバターを形成させて意識を移転いてんする装置。それで実戦の練習などする所じゃよ。

 ちなみに生身と同じ感覚なので痛いし、怪我でもすれば動けなくなったりもある。例え、死んでも分身アバターじゃから、ここに戻って来れる。これにより擬似ぎじ的に死闘を味わう事もできるのじゃよ」


 出薄デウス校長は長々と説明していった。



「そ、そんな装置まで……」


 ガチで死んでも現実に影響ないんだろうか?


 もう目の前が夢のようだ。どっかに監督がいて撮影でもしているんだろうか?


 リアリティーを追求する為にコッソリ撮影してるとかじゃないだろうな?


 ……それとも最新鋭の新作ゲームの試運転しうんてんで、こんな現実離れに見えているだけなのか?



 魔法陣の上に立つと、断続的だんぞくてきに床から自分の身の周囲を通り抜けるように円環えんかんが上へと流れっすらと消えていく。

 自分の身体をスキャンしている……のか?


「あい済まぬが、ちょいハードでやらせてもらっていいかな?」

「あ、はい!」


 出薄デウス校長は半透明のキーボードのキーをポチッと押す。


 すると目の前が真っ白におおわれ、気付くと方眼線ほうがんせんで囲まれた広いだけの四角い空間。


 だが壁は全面窓のように透明で、景色は波打つように天の川のような粒々つぶつぶきらめきが横切っていく、海の中のようにあおい風景が見えていた。


 亜空間に転移てんいされたのだろうか。


 初めてだが、今の自分が分身アバターだとかいまだに信じられない。自分がそのまま送られたような感覚だ……。



「これからミノタウロスの大型モンスターを形成するので、準備できたら声を掛けてくれんかね」

 どこにも校長の姿は見当たらないのだが、声だけはひびいてくる。


「は、はい! こちらはもうオッケーです!」


 そう言い、両手の甲に『刻印エンチャント』がカッと青白く灯る。

 続いて杖を握り締めて星屑ほしくず収束しゅうそくさせて光の刃を形成した。


 分身アバターになっても自分の能力はいつもの通り……。



 眼前の床からキューブの群れが這い出し絡みつき、徐々に巨体の人型を成していく。

 牛の頭部、筋肉質の上半身に牛の下半身。ゆうに四メートルを超す巨躯きょく。そしてにぎり締める長い柄の斧。

 ゲームでよく見る馴染みのミノタウロスだ。


「で、デカっ……!」

 だが思ったよりデカくて臨場感りんじょうかん半端はんぱない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る