3話「学院裏の施設!?」

 午前は普通に漫画制作の授業を四時限まで行い、それぞれ昼間の自由時間で昼飯を済ませた後、午後は別の教室で特殊な講習を受けるらしい。


 ……ここからが本題らしいなぞ。



 見慣れぬ廊下を、入学生だけで歩いていく。正直言って不安が募っていく。


 午前は好きな授業で楽しかったけど、午後は違う空気になっていて重々しい。

 これから創作士クリエイターとして何か重要なものをやる事になるのだろうか?


 自己紹介でのクラスのアピールで、どう見てもプロ漫画家になる為じゃないし、何か大きな敵を打ち倒す為にあるように思えてならない。


 もしかしたら、どっかの魔王を倒しに行く的な?

 モンスターだって普通にいっぱい出てくるし、人類にとって脅威的な事には変わりない。

 それに異世界が存在しているうわさも聞く。


 だとしたら、寧ろ感謝しているぞ。夢のない人生を歩むのなんかゴメンだぞ…………。


 なんだかワクワクしてきて、次第に気を引き締めていく。

 その勇敢に輝く目の先には、憧れた異世界が想像される。



「ようこそ。未来の“創作士クリエイター”さん達、午前はお疲れだったね。私は藻乃柿モノガキブンショウです」


 痩せた細身のおじさん。色白で頬骨が浮き出ている顔立ち。虚ろな目。メガネを掛けていて白衣を着た博士風だ。



「あのセンセ、なんか気味悪くない?」

 ボソボソ耳打ちしてくるリョーコに、「おい!」とたしなめるように肘で突く。


「ちょっと! 午前は退屈だったし! 午後もこんなんだったら承知しょうちしないしっ!!」

 マイシは苛立いらだってるのか、ダンと足踏み。


「ふふふ……。君のような元気のいい子は好きだよ」

 薄ら笑みを浮かべるおじさんに、マイシも流石に引き気味だ。

「き、キモいし!」


「さて、こんな所じゃなんなので、皆さん私に付いて来てください……」

 年季のある落ち着いた笑みを見せ、先の部屋へと生徒を引き連れて先導していく。



 重々しい金属の大きな扉の前まで来ると、おじさんは近くの装置にカードを走らせた。


 するとガッションと扉はパズルが解かれるように幾重もの支柱を外して開かれていく。しかし奥も扉だった。何重もの扉があってかなり厳重そうだ。


「ね、ねぇ……。何があるのかな?」

 リョーコも不安そうだ。


「オレが知ってると思うかぞ?」

「でも、なんかヤバい雰囲気じゃない?」

「い、言うなよ……。こっちまで不安になるぞ。せっかく張り切ってる所なのに」


 それから怖いからって、オレの背後から両肩を握り締めないでくれ。戦士ファイターの握力痛いぞ。マジで!

 スタイル良くて可愛い顔しているのに、割と怪力なんだよなぁ……。


 せめて腕を組んだり手を繋いだり……って、これじゃ恋人同士みたいじゃないか!



 最後の扉が開くと、青白い光が溢れ出た。その先の光景に生徒達は唖然あぜんとした。


 この小さな学院の中とは思えない、広大な広場。

 まるで映画の世界に飛び込んだような、近未来っぽい大広場。その中心に太陽系の模型が大仰に飾られていた。太陽となる模型を中心に幾重の輪が並び、その輪一つ一つに惑星を模した球体が付いていた。


 周囲も複雑な機器が光を放ち、宙を浮く半透明のモニターが連ねられ、何かキーボード叩くなど操作してる人は、浮遊の椅子で行ったり来たり飛び交っていた。



「え、映画の撮影~!?」


 呆然とリョーコは間の抜けた台詞を口走る。


 いや、そう見えても仕方ない程、現実離れしてるけどぞ。つか漫画家目指してる生徒達で、映画の撮影とか普通おかしいだろ。



「さて本題だ。これこそ、君達に与える課題。表向きは単なる専門学校だがね、本来は国が機密にしている『空想ファンタジー』の解決を図るためのものなんだ」


「は? ……機密? 空想ファンタジーってなんだし!?」

 マイシは怪訝けげんな顔を見せた。


「……落ち着いて聞いてください。この世界は『空想ファンタジー』によって侵食されています。原因は不明で、未だ調査中です」

「想像で具現化された亜世界……ですね。それを可能にした事で、この世界は書き換えられようとしている」

 コハクの言葉に、おじさんはうんうんと頷く。

 ざわり、と生徒達は緊張に包まれる。訳がわからないけどヤバそうなのが分かる。


「平たく言うと、得体の知れない『空想ファンタジー』が具現化され、この世界を裏側から侵食し始めたんだ。

 この現象は、実は昭和時代から始まっていたらしい。

 気の遠くなるほど侵食が緩やかだったから、平成になるまで誰も気付かなかったようだね。

 それに対抗する為に我々の『創作』が必要になってきます」



「…………ええ」

 コハクが差し出す手から溢れる温気うんきの光。


 それはたちまち血のような真紅の槍の形を取る。コハク自身の身長より長く、そして葉のように広がる刃にまっすぐ伸びる突起の刃。常に温気をまとい、軋むような音を立てて虫のように微かにうごめく。


 ギギギギ…………!


 それはどこの時代にもどこの世界にも見られない異形の槍……。



「う、うわ……」

「なにあれ……?」

 どよどよ、引いてる生徒多数。イケメンなのに槍が怖い。


「イケメンなのにキモ……」

 リョーコですら青ざめて引くほどだ。


「悪趣味だし……」

 マイシもゲンナリしてる。



「そうです。この通り漫画のように『能力』を開発していくのが『創作』です」

 周囲が引く最中、構わずコハクは告げた。


 やけにくわしいな……。どこまで知ってるか気になるなぞ。



「その通りです。だからこそ創作士クリエイターである君達を集めたのです」


 師匠から『創作』が二つの意味で使われる事を聞いている。

 人にはそれぞれ想像する力があり、それを絵に描いたりするのが本来の創作の意味。でもコハクの見せた創作は違う。


 人それぞれに合った傾向の、能力の発現。


 それを自分の思い通りに練り込んだり磨いたりする事を『創作』と括っている事を指す。オレ達が発現させてるのは後者。

 創作というくくりで、アニマンガー学院でカモフラージュしやすいからこうなってるんだろう。



「な、なぁ……世界が侵食されてるってたけど、全部書き換えられたらどうなるんだ?」

「まず物理法則の常識がくつがえされます。

 どんな法則になるのかも分からないし、もしかしたら人類滅亡級の災害になり得る可能性も否定できない。最悪宇宙そのものが消えます」


 どよどよ、と生徒は動揺どうよう狼狽うろたえていく。



 なんか思ったより深刻すぎない?


 今まで普通に暮らしてたのに、実は宇宙消滅の危機にまで迫ってきてたとか、重すぎないかぞ!?


 もしかしたらエンカウント現象も、『空想ファンタジー』が原因かぞ?



「ってか冗談じゃないしっ! ただ暴れられると聞いて入学しただけだしっ!!」

 ダンダンと地団駄じだんだ踏むマイシ。


 まぁ、こっちも唐突とうとつな真実を知らされて驚いているんだがぞ。


 多分、秘密裏に裏の世界から侵食を阻んで無かったことにしたいんだろう。


 ヤバいの表沙汰おもてざたになったら世の中混乱するわな。

 こっそり創作士クリエイター集めて処理させる為に、何も知らせず召集してたわけだし。



「……あの、済みませんがこう言う事なら自衛隊及び国連に連絡を!」

 タネ坊が会釈えしゃくし進言するも、おじさんは首を振る。


「あ~。これも国連は承知済みね。

 まず『空想ファンタジー』の侵食に、普通の兵器とか通じませんからね。

 だから同じ『空想ファンタジー』の産物である創作士クリエイターの能力でしか侵食を撃退する方法がないんですよ」

「た、試したのですか?」

「試さないで、こんな事しない訳ないでしょう?」


 タネ坊は顔面蒼白がんめんそうはくで言葉を失う。



「それから滅亡兵器の使用も秘密裏に行われましたが、効果は全然でしたね。あっち法則捻じ曲がってるからでしょうか?」


「マジかよ……」

「この世は終わりか……」

「あああ、なんでこんな事に!」

 及び腰になっていく生徒達。頭を抱えたり、愕然がくぜんと膝をつく人もいる。


 まずこれで軍事兵器や軍隊は頼れない。

 そうなるとオレ達、創作士クリエイターだけで『空想ファンタジー』の撃退を!?


 ちょっ、ハードル高くねぇ?


 唐突に世界が既にヤバイとか、オレ達まだ初心者なんですが!?


 せめて最初は盗賊のボス倒して、それから中ボスを倒して、最後にラスボスの魔王を倒してから……、とか段階踏んで欲しいぞ。



「侵食の具合がヤバいので、ちょい緊急事態です。なので厄介ごと押し付けて済みませんねぇ……」

 フフフ、と怪しげに笑うおじさん怖い。



 ますます師匠のような偉大な創作士クリエイターになれるか、不安になってきたぞ……。

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