第4話


 第1部隊との合同作戦。それに伴って一番の問題は俺たちの実力だ。

 

 俺たちが殺せるのは大型まで。全員で1体を殺るのが精一杯だ。対して第1部隊は、1人で大型種を殺す。魔物は相性があるらしいが、基本は二人一組で勝てるらしい。

 俺達が魔物に遭遇したら間違いなく全滅する。大型を1人で殺すのも無理だ。それくらい俺達は実力不足。


 合同ではなるべく実力が同じ方が良い。当たり前だ。どちらかが弱いと、強い方が合わせないといけない。その分効率が落ちてしまうからな。


 ならどうするか…… 残りの期間で出来るだけ強くなるしかない。


── 『2時の方向からガータ系7、アルクーダ系2です!』

 

「了解よ。スターファイア起動」


「サラ、放射するなよ」


 今は森林ステージだからな。火事はごめんだ。


「分かってる。先に行ってるわね」


 サラは腰に折りたたんでつけていたしていた双頭槍「スターファイア」を起動し、スラスターを使いながら先へ行った。


 スターファイアは基本ただのよく斬れる双頭槍、ツインランサーだ。だがサラの魔法により炎を出すことが出来、火炎放射や炎によるガス切断を利用した貫通と切断が可能になる。まぁ使う機会はほぼ無いが、火炎放射は小型相手への範囲攻撃、ガス切断は硬い相手に貫通するのに使っている。

 後は赤熱化が可能で、サラが魔力を使う事で最大3000℃まで発熱。相手を燃やしながら斬る事が可能になる。そんなことをすれば武器として使い物にならんだろうと思うが、なんか新しく開発された合金と魔法による効果だかなんだかで問題無いらしい。魔力消費がデカすぎるから、そっちの方が問題だ。


「アラン、僕達も急ごう」


「あぁ」


── 『サラさんが接敵。戦闘開始しました』


「了解。シリルは周辺の警戒及び援護射撃を」


「了解だよ。ニーナ、反応があったらよろしくね」


── 『はい、お任せ下さい』


 そのまま走っていると、戦闘をしているサラが見えた。


「震電起動…… 抜刀」


 サラにヘイトの向け背中を見せている熊の侵食体アルクーダに突っ込み、震電に電流を流し左肩から袈裟斬りにすると同時に放電する。


 斬られたアルクーダはそのまま倒れ死亡した。このくらいじゃ普通は死なないが、放電で死んだんだろう。原理は説明されたがよく分からない。なんか震電と雷電の放電は落雷が直撃したようなものらしい。毎回思うが、魔法とは不思議なものだな。


「遅かったじゃない」


「すまん」


 俺が斬ったアルクーダが最後だったようで、他の侵食体は真っ二つになって死んでいる。

 それに、サラの双頭槍の刃が赤く赤熱化している。殲滅が早いわけだな。魔力消費を少しセーブさせるか。


「シリルは?」


「周辺の警戒と援護だ」


──『次が来ます。北西方向からアルクーダ系1、ガータ系3。南方向からアルクーダ系3、スキロス系2、人型2。マップに反映します』


 両方そこそこ距離がある。南を2人でやった方が早いか。


「了解。シリル、北西の足止めに行けるか」


──『任せてよ、サクッとやっておく』


「サラ、俺達は南だ。行くぞ」


「了解」


 ニーナが更新してくれたマップを頼りに走り、侵食体の群れを目指す。


「また私が突っ込めばいい?」


「…… いや、さっきより数が多い。俺が行って動きを止める。赤熱化は無しだ」


 サラの魔法は火。自身の発火や発熱などが出来る。本人の素質としてはかなり高く、発火と発熱は共に4500℃まで上昇が可能。発熱はともかく、火の方は周囲への影響が大きすぎるので戦闘時でも使用は禁止されている。火だけでなく魔法全般に言える事だが、何故か本人に影響はない。科学的な証明はされていないが、推測だと取り込んだME細胞がどうのこうのと言っていた。

 

 ちなみにサラの使用するスターファイアは3000℃まで耐えられるが、それはそれで魔力消費が激しいようで長時間の使用は不可能。これはまぁこれからのサラの成長に掛かってる感じだな。

 さっき赤熱化を使ったみたいだし、魔力は出来るだけ温存しておきたい。今は訓練だが実戦だといつ終わるか分からない。魔力量的に余裕のある俺が働いた方がいい。


「わかったわ。巻き込まないでよね」


──『シリルさんが接敵。戦闘を開始しました。アランさんとサラさんはそのまま直進10秒程で接敵になります』


「了解」


 森の中を走り、一直線に目指す。


「震電、抜刀」


 こちらに向かってくる侵食体が見え震電を抜き、電圧と電流を高めていく。


── ガァァアァアアッ


 先頭にいたアルクーダが俺に気が付き吠えてくる。


「…… 放電」


 俺はそれを無視して横を通り、群れの真ん中で空中放電し感電させる。


「サラ」


「分かってるわよっ」


 侵食体が感電し動きが鈍っている間に、俺とサラで殲滅する。魔力を温存する時にたまに使う手だ。

 相手の数に限界はあるし、場合によっては使えない時もある為万能ではないが便利ではある。


「ったく。放電するなら殺せばいいじゃない。アランなら出来るでしょ?」


「出来るが、さっきカール特務少尉に気を付けろと言われたばかりだ。それに魔力は温存するに限る」


 サラの言う通りやろうと思えば出来る。だがさっきの数を全て殺そうと思うとかなりの魔力を使う。


「あんた私の倍以上あるじゃないの」


「その分使う量も多い。トントンだろう。それよりシリル、そっちはどうだ」


──『残り1体、いや今丁度終わったよ』


 シリルの方も問題なし。合計30体だから、これで訓練自体が終了か。


──『侵食体の全滅を確認。周囲の反応もありません。訓練終了。モードを解除し、通常の訓練所に戻します』


 森林だった景色がブレ、死んだ侵食体も全て無くなり無機質な広い訓練所に戻る。なんだったか、ME細胞の自らで生命体を作る特性に似た細胞をつくり、それを人為的に操作する事でどうこうって感じだった気がする。


「やぁアラン、サラ。お疲れ様」


「あぁ…… シリル、くらったのか?」


 離れた位置に居たシリルが俺達の元に来たが、少し魔装が凹んでいる。今更中型相手にシリルがヘマをしたのか?調子が悪いのだろうか。


「いや、撃ち殺した死体を投げられてね。まさかそんなプログラムがされてるとは…… 油断したよ」


「訓練だからって油断してるあんたが悪いわね。てか、それくらい避けなさいよ」


「いやほんと、気を付けるよ」


 まぁこういう経験をするための訓練だからな。新しくプログラムされたって事は、実際に投げてきた侵食体が居たのだろう。聞いたこともないが、何も無く変更はしない筈だ。


──『皆さん、お疲れ様でした。本日予定されていた訓練は全て終了となります。一応次の第6部隊の訓練まで2時間ほどありますが、追加で行いますか?』


 今の時間は14時か。昼飯もまだだし、無理をしても良くない。


「いや、魔力も減ってる。やめておこう」


「私はまだ行けるんだけど?」


「無理をすればいい訳じゃない」


「そうだね。それに、流石にお腹が空いたよ」


──『では、訓練をこれにて終了にします。お疲れ様でした。魔装はリフトに固定して下さい。私が整備に回しておきますね』


 上がってきたリフトに装着し、身体から魔装を外して固定する。


「いつも悪いな」


──『いえ、私が出来ることはこのくらいなので』


 ニーナはいつもこうやって整備の申請をしてくれる。まぁ俺らがやる仕事では無く、オペレーターの仕事ではあるんだがな。やはり自分が使ったのをやってくれるのはありがたい事だ。

  

「取り敢えず飯にしましょ。ニーナ、申請が終わったら一緒に食べない?」


──『はい。是非ともよろしくお願いします』


「僕もいいかな?」


「は?なんで一緒に食わなきゃいけないのよ。アンタの女だと思われたくないから、やめて」


「はい…… ごめんなさい」


 シリルはサラにストレートに言われて凹んでいる。毎回こうなるんだから、いい加減学んだらどうなのだろうか。

 サラもシリルに対して当たりが強い。朝の事故もあるんだろうが、女癖の悪い所が嫌いなようだ。それ以外は特に問題無いし、仲良さげに話しているところは偶に見る。


「アランはどうするんだい?久しぶりに一緒にどうかな」


「…… わかった」


「よし、ちょっと待っててくれ。着替えてくる」


 シリルは一気に明るくなって更衣室に向かって行った。流石にここで断ったらシリルが可哀想だからな。別に嫌なわけじゃないがいつも断っているし、偶には良いだろう。





 

 飯は俺の部屋で食う事になり、訓練所から自室に戻りテレビをつけながら寛いでいる。


「どこのニュースも、昨日のパリ奪還で持ちきりだね」


「それだけ大きな事なんだろう。なんでニュースになってるかは分からないがな」


 台所で料理をしているシリルにも音声が聞こえていたようで、テレビのニュースについて言及してくる。


「ほんとね。昨日の夜に少し作戦概要を読んだけど、バッテリー8つに活性剤10個。7時間に及んでの殲滅作戦だったらしい」


 バッテリーは魔装を動かすための外付けの電力。活性剤は魔力を回復させるための薬だ。バッテリー1つで約3時間の活動が出来る。活性剤は魔法の使用頻度によるが、平均2時間分の回復が出来る。


「それで今日はベース27に投入か……」


「殆ど寝てないんじゃないかな?奪還作戦は3日前だったけど、その後も討伐任務に行ってたみたいだからね。体力お化けだよねぇ」


 第1部隊は最強の部隊。そう俺たちの中では言われている。理由としては、この魔兵部隊が設立されてから、唯一メンバーの変わっていない部隊が第1部隊だけだからだ。他の部隊は少なくとも1回は全滅している。俺たち第4部隊も、元々全滅して空白だった枠に入ったのだ。

 設立当時最年少の龍夜さんたちは、どんな戦場でも必ず生き残って帰って来た。しかも目標を必ず殺してだ。誰一人欠けることなく、確実に仕事をする。だから最強の部隊。


「そんな人達と合同作戦か。不安でしかない」


「ま、なんとかなるんじゃ無いかな。僕としては、アランが原因でサラが突っかからないと良いなぁって思ってるよ」


「俺が原因でサラが?なんで」


「なんでって、そりゃアランが愛華さんに気に入られてるからでしょ。面白く無いんだと思うよ」


「あぁ。確かにいつもからかって来るな」


 あの人は毎回俺を発見すると構ってくる。基本人との距離感が近い人で、一度気に入ると良くからかったり飲みに誘ってきたりする。俺も何故か気に入られたようで偶に誘われたり変な冗談を言われたりするが、基本はサラがいる時が多い。だから俺というより、サラの反応で楽しんでるんだろう。


 まぁ本当に飲みに付き合わされたりするし、何故か部屋に泊まろうとしてくる事はあるがな。酒を飲むだけならまだしも泊まりは無理だ。何故なら怖いから。嫌いでも苦手でも無いが、何をしてくるか分からないから普通に怖い。


「朝も思ったけど、相変わらずだねぇ。結婚とか考えないの?」


 結婚?なんで今の流れでそうなるんだ?


「なんで結婚になるんだ?」


「いや、流石にねぇ。3人までならOKなんだし、悩む必要あるのかなぁと」


 俺達魔兵は3人までなら結婚が認められている。と言うのも、魔兵になれるだけのME細胞との適合率を出す人間が少なすぎるのだ。現状侵食体を減らすには核のような環境を破壊する程威力のある兵器か、俺達のような魔法の使える魔兵しか対抗策が無い。だから魔兵が必要なんだが、先に言ったように少なすぎるのだ。しかも魔兵になったとしても、生き残れるだけ強くなるかは別問題。


 だから俺達はなるべく子孫を残すようにと言われている。それはME細胞の適合率が子供に遺伝するからだ。実際龍夜さんは1人子供がいるが、幼少の段階で既に魔兵になれるだけの数値を出しているらしい。普通に考えたら一夫多妻制はやめた方がいいと思うんだが、推測だけでなく実際に遺伝してしまった。だから少しでも侵食体と戦える人間を増やすために魔兵のみ重婚にしたんだろう。だが強制ではない。兵器だが人権があるので、強制的に結婚と言うのは問題になるらしい。


 まぁそれはともかく。


「俺は結婚するつもりは無いぞ」


「あらま、悩んですら無かったか」


「そうだな。少なくとも、シリルが結婚するまではしない」


「僕より先に幸せにはならないって?気にしなくていいのに…… はい、ご飯できたよ」


 台所から戻ってきたシリルは、美味そうなハンバーガーを持ってきた。こんなのも作れるのか、初めて知ったな。料理が上手なのも、モテる理由の一つか。


「美味そうだな」


「偶にはこういうのも良いでしょ?まぁ肉も野菜も人造だから、地上に居た時みたいに美味しくは無いけどね」


「十分だ。ありがとう」


 ヴェルトに来てからはこういう料理を食べる機会は殆どない。普通に高いのだ。しかも基地内では食えないため外まで行かないとならない。そこまでして食いたいとは思わないのだ。だが、目の前にあるなら話は別だ。こういうジャンクなものは久しぶりに食べると美味いからな。


「それで話を戻すけど、本当に僕が結婚するまでアランはしないつもりなの?」


「…… そうだな。そのつもりだ」


 俺はシリルとシリルの両親のお陰で今生きている。俺の所為でシリルの両親は死んだ。本当ならシリルは、父親か母親のどちらかと暮らせた筈なんだ。それをぶち壊した俺は、シリルより先に幸せになる訳には行かない。


「気にしなくて良いんだけどなぁ。この結果は父さんと母さんが求めたことだ。アランは何も悪くないよ」


「だが、俺の所為で死んだのは事実だ。俺はシリルの両親に変わって、見届ける責任がある」


「…… そっか。じゃ、幼馴染の幸せのためにも早く結婚しなきゃだね。明日にでもしようかな」


「そんな適当に決めるもんじゃない」 


「だって僕が結婚しないとアランは幸せになれないんでしょ?なら早めに結婚するさ。僕としては特にこだわりは無いからね」 


「お前はモテるからな。実際どうなんだ?結婚したいと思える相手はいるのか?」


 シリルが真面目に結婚を考えているなら応援するが、流石に俺の為にとか言って結婚するなら反対だ。そんな事のために結婚しては、シリルは後悔するだろうし、相手も可哀想だ。


「そうだね。しようと思えば何時でも出来るかな」


「そうなのか?適当に言ってるなら怒るぞ」


「い、いや、真面目だよ。今付き合ってる子は凄くいい子でね。僕らの仕事にも理解してくれてるんだ」


「そうか」


「うん。だからアラン、僕の事は気にしなくていい。僕の両親もアランの両親も、アランが幸せになって欲しいと願ってる筈だよ」


「そうか。そうだな…… まぁでも、まだ結婚するつもりは無いぞ」


 シリルの言いたい事は分かったし、納得もした。だが根本的に俺が結婚したいとは思ってない。


「ないんだ…… そうだね。アランはそうだよね。まぁ、したくなったら言ってよ。手伝うからさ」


「あぁ、助かる」


「両親と言えばだけど、明日久しぶりに会いに行こうと思ってね。アランの両親にも挨拶したいし、一緒に行かないかい?」


「…… わかった」


「よし、じゃあ明日はお出かけだね」

 

 墓か。そう言えば、俺も最近行けてないな。今月は行こうと思っていたし掃除もしたい。丁度いいだろう。別に形だけで何が埋まってるわけでも無いんだがな。  






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