第31話 うちは唐揚げ屋じゃねーよ!
メニューの位置については、子供でも見やすいようにカウンターの下側に設置することにした。
スタンド無しなので、三種類各二千ウィッチで六千の出費。
ポップについては、とりの唐揚げだけに付けた。セットは、おにぎりのを見せながら説明できるし。
新しく設置したメニューの効果は絶大で、以前の倍くらい人が見ていってくれる。
もしかするとメニュースタンドの場合、こっちと視線が合ったりするし近寄り難い感じになっていたのかも。
確かに目が合ってしまうと、何か言わないといけない気になるもんな。
それにしても、とりの肉と説明された唐揚げの人気は予想以上で、すでに単品が八つも売れている。こっちの人達はお肉大好きのようだ。
昼になっても、とりの唐揚げの勢いは止まらない。
唐揚げで、容器や袋代を稼ごうと思っていたが、思っていたのはこうじゃない!
唐揚げばかり売れる。
嬉しいんだけど「違うそうじゃない!」と叫びたい。
袋を持つ。隙間にトングを差し込み広げる。唐揚げを入れ、袋の上を折る。
これの繰り返し。
昼の時間が終わるまでに、朝と合わせて唐揚げ単品だけで二十個も売れた。初めて昼のピークってのを経験したかもしれない。
まだ余裕があるとはいえ、このまま人気になるとメシポイントの配分を調整する必要がありそう。唐揚げを多めにして、おにぎりは少し減らす感じか。
あとクレームに発展しなくて良かったが、その場で食べようとして「火傷した」とかいう人もいたので、対策を考えないといけない。日本でのことを思い出すと、爪楊枝とかを付けるべきだろうか。
端末で店舗を開くと、新着がある。「ですよねー」と言いつつ見てみると、やっぱり爪楊枝。業務用だからなのか物凄く安い。千本入りで五百ウィッチ。迷わず購入。
箱入りなので開けてみると、一般的な物より若干長くて太い。
早速お試しで、ホットショーケース内の唐揚げを一つ見繕い刺す。そのまま口に入れようとして、唇に熱を感じ思いとどまる。
フーフーしてから、今度こそと口に入れ噛むと、油と共に肉汁が出てきて火傷した。
うん。爪楊枝も注文したし、やれることはやった。諦めよう。
あとは、渡すときに「熱いので火傷にお気を付けください」と伝えるくらいしかできることが残ってない。
昼のピークも過ぎ、収支を確認すると累計の売り上げが十万ウィッチを超えていた。「ウィッチーズ!」という例の音声も聞こえてこなかったので、十万ウィッチではレベルアップしなかったようだ。
次に変化がありそうな節目は、塩おにぎりの売り上げが二百を超えた時。鮭が百でもおにぎりの種類が増えなかったことを考えると、塩が一定数売れた場合に種類が増えるのだと予想できる。残り三十弱。
俺が勝手に名付けた「お茶漬け兄さん」が、定期的に買ってくれるので近いうちには達成できそうかな。あの人には、みそ汁がメニューに追加されたら是非ともオススメしたい。味が好みじゃないかもしれないけどさ。
閉店を意識し始める頃、午前中に唐揚げを買った人がまたやって来た。
初日からリピーターゲットとか、唐揚げ恐ろしい子……。
夕食にするのか、家族へのお土産なのかわからないが一人で三袋買っていった。やせ型の男性なので、お土産用かな?
午後の五時を過ぎ、少し待ってみたが子供が交換に訪れないので閉店する。たぶん明日の朝に、百枚持って来るつもりなのだろう。
今日の売り上げは、当然新記録で二万ウィッチを超えた。
この調子なら、数日で設備や備品の費用も回収できる。
ただちょっと気になることがある。鮭おにぎりのセットは多少売れたが、塩おにぎりのセットは全然売れなかった。
鮭おにぎり単体だと色で避けられていたのに、セットとして箱に入っていると平気らしい。俺にはよくわからないが、売れてくれるならそれでいいけど。
問題は、塩おにぎりセットの方。
売れないことはしょうがないとしても、こちらの売り上げ個数が何か新しいメニューの解放条件だった場合困ることとなる。だがすぐには、解決方法が浮かばない。
二つに増えたトングを洗い、両手に持ってパチパチと異星人ぽい動作をし、脳の疲れを癒す。たまにバカなことをすると、頭がリセットされて良い。
トングを干し「フォッフォッフォッ」と言いながら部屋へと戻る。
そういえば、こっちの世界には怪人のような生物はいるのだろうか?
客として来たときに、驚かないようにしなければと思いながら、端末で夕飯のメニューを開いた。
十九日目。
開店すると、すぐに子供がやって来た。
葉っぱをこちらに渡し、唐揚げを指さしている。こいつも唐揚げの虜になった一人のようだ。
百枚なので、唐揚げ一袋を交換。
渡すときに、爪楊枝が刺さっているので怪我しないことと、火傷についても注意しておいた。
頷きながら受け取ると、すぐに帰って行った。ちゃんと理解してるといいけど。
続いてトリスさん。
「おはようトーヤ。昨日はずいぶんと忙しそうだったな」
「おはようございます。これまでに比べるとですけどね」
「はははっ! まあそうだな。それにしても、とりの唐揚げはいいな。うちの串焼きも油で揚げるとこんな感じになんのか?」
「うーん。それだと素揚げっぽくなっちゃうのかな。オススメは、またちょっと違ったものになりますね。串揚げといって、衣を付けて揚げるとサクッとした食感になります。味は、調味料やソース次第なので美味しくなるかはわかりません」
「そっか。そうなると、油含めて金がかかるな」
「そういえば、こちらの調味料ってどんなものがありますか?」
以前から聞こうと思っていたけれど、やっと聞く機会が訪れた。
「そうだなあ。塩に香辛料、あとは汁系。店ごとにタレなんかがあるな。それがどうかしたか?」
「以前トリスさんが塩おにぎり焼くと風味が変わるって話をしていたじゃないですか。俺の故郷の方だと醤油ってのがあるんですけど、それを塗って焼くと美味しいので、あればオススメしようかと思いまして」
「なるほどな。それは聞いたことねえけど、明日にでもいくつか試してみるぜ。さて、今日はとりあえず昨日と同じ鮭セットにすっかな。これだと食いながら仕事できるしよ」
良い感じの調味料が見つかれば、朝の注文が塩セットになるかもしれない。
トリスさんには是非当たり調味料を見つけて欲しいものだ。
今日も唐揚げ効果で売り上げは順調。
昼過ぎまでに、一万ウィッチ以上の売り上げとなっている。
耐油袋に店のロゴが入っているので、それを見て買いに来てくれる人に期待したい。
そんなことを考えていたら、眼鏡のイケオジがやって来た。
この人いつもタイミングいいよな。メニューが増えると翌日に来ている気がする。
あと、毎回やって来るのは昼過ぎのこの時間。時計を確認すると午後一時半前。
こちらの世界でも、休憩時間が交代制だったりするのだろうか? だとするとこの人は、いつも後半の休憩組ということになる。
イケオジは、カウンターの下に設置してあるメニューを見ていたが、決まったのかこちらへと視線を向けた。
さて、今回はセット含めて三つの選択肢がある。どれを選ぶのか楽しみだ。
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