第28話 鮭おにぎりの秘密

 ジョーさん達が来たのは、閉店より少し前。

 すでに子供は夕方分をしっかりと百枚揃えて、鮭おにぎりを手に入れて帰って行った。朝の方が集めやすいとか、そういうのはないらしい。


「おーっす。報告にきたぜ。と言っても、やんのはユーリだけど!」

「お帰りなさい。ご無事で何より。で、どうでしたか?」


 結果を聞こうとユーリさんの方を見ると「お帰りなさい……いいわね」って小さい声で呟いてるのに気付いてしまった。

 目が合ったけれど、とりあえず微笑んでおこう。


「コホン。結果としては、白い方。塩おにぎりと同じように鬼に対して有効であるとわかりました。黒い方が効果は少し高い気もしますけど、今回が初ですし一度だけですから気のせいかもしれません」

「なるほど。では、また次回鬼を相手にされる時に試して貰えませんか? 条件は今回と同じ感じで」

「構いませんよ。出発前日、日暮れ前の鐘が鳴る頃取りに来ます」


 ユーリさんの発言が「次回も用意して」という感じに聞こえたので、それに応えてみた。実際、一度ではわからないだろうし。

 でも、受け渡しが日暮れ前の鐘か。

 また、営業時間延ばさないとダメになるんだけど!


 時間の交渉をしようとしたら、ジョーさんが語り始めた。


「あのさ。これも気のせいかもしれねーんだけどよ。黒いの食ってたら、攻撃避けるのが上手くいった気がすんだよ。なんていうか、こうスッと避けられるみたいな。身体の反応がいいんだよ」

「へえ。それは新しい効果かもしれませんね」

「だろ? なんてったって前のやつの二倍の値段だもんな! 魔女の店だし味だけじゃねーと思うんだよ!」


 思っていた通り、鮭おにぎりにはまた違った効果もあるようだ。

 ただ、これについても数値として表れたものではなく、体感なので引き続き検証してもらった方がいい。


「ジョーさん、そっちも引き続き調べて欲しいです。ってこれユーリさんに言うべきだったかな?」

「オレでいいぜ。まるでオレが何も任せらんねーやつみたいじゃねーか」


 ハハハと笑いながらユーリさんの方を見ると、首を横に振っている。基本的には、任せちゃダメなタイプの人ってことかな。

 予定の確認くらいなら大丈夫だろうと、引き続きジョーさん相手に話をする。


「では、ジョーさん次回もお願いします。次っていつ頃の予定ですかね?」

「おう! 任せろや! 次回は、二日後に出る予定だ」

「明後日ですか。だとすると、明日の日暮れ前に用意しておけばよさそうですね。あ、普段閉店が日暮れの鐘より少し早いのですが、前回よりちょっとだけ早く来ることは可能ですか?」

「あー。えっと。ユーリどう?」

「前回と同じような包みを使うのでしたら、少し早めでも構いません」

「はい。同じ包みの予定なので、それでお願いします」

「わかりました。では、明日ということで。ジョー行きましょう」

「おう! じゃあな」


 ジョーさん達を見送り、軽くガッツポーズ。

 鮭おにぎりに別の効果があるみたいで良かった。

 鬼にしか効果がありませんってことになると、売り方が難しかったからな。

 次回の報告で確認がとれたら、セールスポイントとして表示しよう。


 それにしても、鬼への効果の次は『回避』か。

「鮭おにぎり……避け鬼切り? ベタだなぁ」

 少し呆れながらも、分かり易くて良いとも思えた。

 今後おにぎりの種類を選ぶ前に、多少は想像できるし。


 めんたいおにぎりなんかは「めんたいで、メンタル耐性」とかだろう。どこで使うのか不明だけど。面接や試験とか?

 昆布は「こんぶで、ちからこんぶ、ちからこぶで力を強化」とかかね。

 他だと……たらこやおかかはすぐに浮かんでこない。たらこ唇になっても意味ないし。

 それにシーチキンなんてどうすんのって話。鶏なのか臆病って方なのかで大きく変わってきそう。

 本当、最初に選んだのが『鮭おにぎり』で良かった。ある意味タツルに感謝だ。

 これなら鬼以外でも使えるし、日常生活でもいけるかな? 俺はここから出れないから関係ないけど、スリとかいそうだし。それが回避できるようになるなら五百ウィッチとか激安じゃないかな。


 にやにやして「いっぱい売れちゃうと、メシポイントが足りなくなるな」と独り言を呟きながら時計をみて、少し焦る。もういつもの閉店時間を過ぎていた。

 急いで片づけをし、営業を終わる。



 翌日。十三日目。

 これといった出来事はなかった。塩おにぎり愛好家が出て来たことくらいか。

 そのお兄さん曰く「スープの中に入れて食べると腹が膨れる」とか言って、猫まんまやお茶漬けみたいな感じにして食べるのに良いのだとか。

 たしかにみそ汁とかと混ぜて食べるのは美味しい。家でしか出来ないけど。あと、ラーメンの残り汁に入れて食べるって人もみたことはある。それと似た感じかな?

 売れてくれるなら、食べ方は自由だよな。うん。



 そして十四日目。

 今日の予定は、ジョーさん達への二回目の依頼。

 いつものように営業を開始し、昼までにトリスさんの分を含めて三千ほど稼ぐことが出来た。ここのところ出費を抑えているのもあって、所持金が三万ウィッチをこえた。


 昼からの客は、四名。

 単価が高いのでやっていけてるけど、酷いものだ。普通の店なら一か月くらいで潰れそう。

 早く別の目玉商品が欲しいところだが、大量買いの客でも来ない限り塩も鮭もキリの良い累計売り上げになるのは数日先。


 暇つぶしに始めた通行人調査をしていると、ジョーさんが来る時間になっていたみたい。今回は一人。ちゃんと早めに来てくれて助かった。


「おーっす」

「お待ちしてました」


 今回の依頼は、前回と同じ内容。報告も二日後。

 おにぎりがちゃんと必要数揃ってることを確認してもらって、渡すだけ。

 だからジョーさん一人なんだろう。


「では、今回もこちらの袋に入れておきます」

「あんがとよ」

「あとちょっと聞きたいんですが、鬼っていっぱいいるんですか?」

「ん? 小鬼ならいくらでも出てくるぞ。ちょっと離れた所まで行けば、一日で二十は狩ることになるな。しかもさ、穴の中の巣なんかを潰してもすぐってわけじゃねーけど、また出来てんのよ。魔女様もなんでこんなの作ったんだって言われてるけど、角や牙なんかが役に立ってるしいなくなっても困るみたいなんだよな。まあ、オレには難しいことはわかんねぇ」

「へえ。素材なんかになるんですね」

「そそ。粉にして畑に混ぜたりするといいらしいぜ。あとは、薬とかにもなるんだとよ。だから、集めてくりゃ金になるってわけ。へへっこれ食ってまた稼ぐからよ! さて、遅くなるとユーリがうるせえし帰るわ。またな」

「はい。よろしくお願いします」


 話を聞いてると、余程の事が無い限り小鬼がいなくなるってことは無さそうかな。


 ジョーさんが帰ってすぐに子供が来た。今日も待ってたみたいだ。

 少しジョーさんの方を見つめていたような気がしたけど、このくらいの年齢だとああいった冒険者っぽい人に憧れるものなのかも。俺も子供の頃なら、憧れてたような気がする。

 子供らしい部分が見えた気がして、ほんの少しほっこりとした。

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