第16話 あと一つ!

「おはようトーヤ。調子はどうだ?」

「おはようございます。おかげさまで少しずつですが、売れるようになってきています」

「そりゃ良かった。今朝は二つにしとくかな。残りすくねーんだろ?」


 トリスさんは、チラッとホットショーケースを覗いた後、そう言った。

 上段の商品が、いつも動いてないのも気づいているようだ。


「朝はそうですね。先日買ってくれた方が言っていたんですが、これ食べると鬼系と戦う時調子が良いとかで、ここ二日縁起担ぎでまとめて買っていってくれてるんですよ」

「そりゃ、間違いなく魔女の力だな。すげえじゃねーか。噂になりゃ、今後もっと売れるようになるな。そうすりゃ、うちも儲かりそうだ。はははっ」

「そうだといいんですけどね。数を確保するのが大変かもしれません。とりあえず、色々考えてるところです。で、二つですね」


 ちょっとした会話というか、報告を行ってから商品の準備を開始。

 受け渡しの際に、一言付け加えておく。


「お待たせしました。トリスさんのところ隣ですし、出来たら声掛けるとかも可能なので、すぐでなくて良いなら数は気にせず注文して下さい」

「ありがとよ。日に日に売るのが上手くなりやがるな! うちの売り上げなんてすぐ超えていきそうだぜ」

「いやいや。一緒に儲けましょうよ。そうだ! 閉店頃に串焼きが欲しいので交換をお願いしたいのですがいいですか? もちろん購入でも大丈夫です」

「あぁ。いいぜ。手が空いてる時に来るわ。そいじゃ、またその頃にな」


 たまには恩返しをしないとな。あと、純粋に串焼きを食べたいのもある。肉々しい物を豪快に口に放り込むのって、野性味があって元気になるし。



 五日目の今日は、昼頃に三名、その後二名で計十個売ることが出来た。

 いくらおにぎりが鬼に効果があるといっても、一般人には関係ないわけで、急に売り上げが伸びるわけもない。今までと変わらぬ結果。


 午後四時過ぎに「ちょっと早いけど」と言いながら、約束通りトリスさんが串焼きを持ってきてくれたので、二本と交換。

 少し陰になった場所でモグモグと食べながら外を見ていると、やって来た子供と目が合ってしまった。まあ、元々おまけでこの子に一本渡すつもりでトリスさんと交換したので、困る必要はないわけだがなんとなく気まずい。


 急いで咀嚼していた肉を飲み込んで、子供に対応する。


「ひー、ふー、みー、よ……うん、ちゃんとあるな。ところで、お前肉好きか?」


 今回も二回頷いた。

 さっき俺を見てた時、少し口が動いてたから好きそうなのはわかってたけど、一応聞いてみた。


「それじゃ今日は、隣のトリスさんが串焼きをうちの商品と交換してくれたのでおまけで付けてやるよ」


 塩おにぎり一つと串焼きを、それぞれ葉っぱに包んで渡してやる。

 受け取った子供は、帰りがけにトリスさんの店を眺めながら去って行った。

 焼きたての方が美味しそうとか、思ってるのかもしれない。



 残りの肉を咥えながら閉店作業。

 朝にホットショーケースからだした塩おにぎりは、冷えて多少表面が硬くなってきているが、変色は見られない。

 このことから、明日の朝にもう一度確認して変色していなければ、ホットショーケース内での劣化はほぼ無いと思っても良いだろう。

 あと塩おにぎりを販売してから一日以内であれば、多少表面の硬質化は進むが食べることは問題ないと言える。

 

 この結果と考察を、メモ用紙に記入。

 ハムカツと書いた用紙とは別にしておいた。わけわからなくなると困るからね。


 その後、片づけの続きをして、夕食を食べ、風呂に入り、少しダラダラしてから眠った。



 六日目の朝。

 起きてすぐに、塩おにぎりを召喚。多少でも増やす努力。

 後は、いつも通りの流れで用意したり、朝食を食べたり。


 今日は休憩を挟まずに厨房へ行き、放置塩おにぎりを確認。想定通りの結果。

 この結果から、ここは思い切って初日からホットショーケースに置いている塩おにぎりを食べてみることにする。

 一つ取り出し、目を瞑りパクリと上の方を齧る。

 口の中に広がる香りと、舌の感じた味が問題なさそうなので、そのまま噛んでみる。

 味の劣化もなく、大丈夫そうな感じ。

 あとは二日目のように、腹痛に備えるだけ。

 トイレ前に向かいながら、早起きしなかったことを少しだけ後悔する。


 三十分経っても、腹痛は来ず「ヨシ!」と言いながら軽くガッツポーズ。


 ジョーさんか、子供が待ってるかもしれないので少し急ぎつつ開店作業を行う。

 待っていたのは、子供のみでジョーさんはいなかった。

 朝の挨拶をしながら、葉っぱとおにぎりの交換。

 一瞬、古いおにぎりをおまけしてやろうかと思ったけどやめた。まだ、絶対大丈夫とは言い切れないから。


 子供の背中を見送りながら、ジョーさんが来なかった理由を考える。

 二日続けて朝から来てくれていたので、少々期待していた。

 今日は狩りが休みなのだろうか?

 というか、狩りを毎日やるのかも知らない。

 そういえば、地球の職業でも名前を知っていても詳しい仕事内容や、休みを知らないことも多い。

 異世界だからというわけでもないのだなと思いつつ、怪我してなければいいなとも考える。


 トリスさんは今日も来てくれて、六つも買ってくれた。今日も、気を使ってくれたようで申し訳なく思う。


 

 昼過ぎに、トリスさんを除き今日三人目の客が来店して、二つ売れた。

 これで累計販売個数が、九十九個。あと一つで百。

 そわそわしながら外を眺めて待っているが、こういう時に限って客が来ない。


 今日はもう無理かと思っているところに、ジョーさんが来た!


「いらっしゃいませ!」


 気持ちが高ぶって、フライング気味に声をかけてしまった。


「おーっす。ちょっと相談なんだけど、明日の朝一に二十個用意することって出来る?」

「二十個ですか。ちょっと待って下さいね」


 予想と違う内容に少し焦りながらも考える。

 現状一時間で回復するメシポイントが六。

 朝一が満タンの十だとして、余裕を持たせてそれプラス二時間必要。

 五時起きなら、いける。

 明日一度だけならいいが、今後もとなると少々厳しい。

 毎回五時起きしたくない!


「えーっと。この数って明日だけですか? 今後もあり得ます?」

「ん-。時々、多めに買いに来ると思う」

「そうですか……」


 商売人としてはダメなのだろうが、一度だけと言って今後は断ろうと思ったところで、あと一つ売れればレベルが上がる可能性があることを思い出した。


「あの。あと一つ売れると魔女から預かってる能力が上がる可能性がありまして……一つでいいので、今試しに買ってみてくれません?」

「は? あぁ。まあ一つならいいけどよ」

「ありがとうございます。明日の二十個は必ず用意しますので、よろしくお願いします」


 ついに累計売上個数が百に到達する。

 ドキドキしながら、塩おにぎりを包みジョーさんへ手渡した。

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