第14話 魔女の力

 今日も午前六時に起床。

 欠伸をしながら脱衣所へ行き、色々と済ませる。


 今日はスウェットのまま朝食。

 なんとなく和食の気分なので、とん汁のみを注文。百ウィッチ。

 定食類を考えると少し高い気もしていたが、届いたとん汁を見て納得。想像していたよりも大きい。

 塩おにぎりを召喚して「いただきます」をする。

 とん汁が多めなので、おにぎりは二つにした。


 ちょっと朝から食べ過ぎた感。

 流し台に汁椀を返し、ついでに黒猫のカップも洗って干しておく。

 掃除前に、厨房で干し網の中身を確認して変更する。

 部屋に戻り、いつもの流れで掃除をして着替え、しばしのだらだらタイム。

 塩おにぎりを召喚して「行くとしますかね」と言いつつ、時計を見て立ち上がる。

 

 厨房では、保存中の塩おにぎりの確認。全て予想の範疇なので、販売スペースの方へ移動。

 時計を見ると、午前七時半。

 少し早いが、特にやることもないので開店することに。

 日に日に少しずつ早くなっていると感じながら、オーニングを開き始める。


 開き切ると、子供がやって来た。


「おはよう。待ったか?」


 首を横にふっている。丁度来たところなのかな。

 差し出された葉っぱを受け取り、こちらからは塩おにぎりを一つ渡す。


「まいど。今朝はおまけ無しな」


 子供は受け取りながら軽く頷いて、去って行った。

 この後、トリスさんが来るまで約一時間ほど空く。だからといって、空き時間に出来る事もないので、今日も目の前の道を眺めるお仕事。


 通勤時間みたいなものなのか、少しだけ通行人が多い気がする。

 あまり朝早くから営業したくないけれど、もう少し早くから開ければ客が来る可能性はありそう。と言っても、チラ見程度で通過する人ばかり。

 やや忙しない通行人を見ていると、もしも朝に販売するならあらかじめ用意しておいて、お金とすぐ交換できる形にしておく方が良いだろうと思い浮かんだ。コンビニや、駅のキヨスクみたいなものだな。


 考え事をしていると、どうやら客のようだ。

 見覚えのある顔。たしか、一昨日来店した『ジョー』という名の冒険者っぽい男性。


「やったぜ! やってんじゃーん!」

「おはようございます」

「おっすおっす。一昨日買ったコレ売ってくれや。えーっと、一人二つだから……八つな!」

「今だと開店直後でして、温かいのと冷たいのが混ざってしまうけどよろしいですか?」

「ああいいぜ。かまわねえよ」

「わかりました。では、少々お待ちください」


 よし!

 少し早くから開店していて良かった。

 八つも売れた上に、リピーター。

 今後のためにも、どこが気に入ったのか聞いてみたい。

 用意しつつ、質問の内容を考える。


「お待たせしました。八つで二千ウィッチです。こっちの包み二つが温かい物で、こちら側が冷たい物になります」

「あいよ。じゃあ、これ。釜二枚な」


 商品を差し出し、お金を受け取りながら質問をする。


「ありがとうございます。確かに。ところで、どうしてまた来てくれたんですか?」

「ん? ん-、実はな。昨日狩りに行ったらオレとユーリだけ調子良くてよ。なんでかって考えたら、前の日にここでコレ買って食ってたわけ。魔女のおかげかもってことで、縁起担ぎみたいな感じだよ。味も悪くねーしな」

「なるほど」

「で、この後狩りに行くから『買ってこい!』ってユーリに言われちまってな。また今日も効果あったら買いに来ることになるぜ! 期待して待ってな! はははっ! じゃあ仲間待たしてっから行くわ」

「はい。ありがとうございました。お気をつけて!」


 不思議なこともあるもんだ。さすが魔女の力。

 本当ならだけど!


 さて、八つも売れて嬉しいけれど、残りの塩おにぎりの数が心許ない。

 急いで召喚する。焦ったところで、出来る早さに違いはないわけだが……。

 朝八時で残りが七つ。

 トリスさんが来る頃には、十は確保出来そうだ。良かった。



 九時前になり、今日もトリスさんがやって来た。


「トーヤおはよう」

「トリスさんおはようございます」

「メニューのこれ、良くなったな」

「あっ! ありがとうございます。変えたの忘れてました」

「はははっ。んじゃ今日は、四つくれや」

「はい。まいど。少々お待ちを」


 受け取った木の皿に、温かい方を四つのせる。

 温冷確認してないけど、トリスさんなら冷たい方がいい場合言いそうだし。

 ダメなら交換すれば良い。


「お待たせしました。温かいの四つで千ウィッチです」

「おう。ありがとな。釜一枚置いとくぜ」

「ありがとうございます。あ、トリスさん。今日少し早めに開けたんですけど、割と通行人多い感じがしたんです。いつもそうなんですかね?」

「あー、それなりにいるな。急いでる奴ばかりだから、あまり客にはならねーぞ。だからうちは、この時間からだな」

「そうなんですね。参考になりました」

「ササっと売れるならいいんじゃねぇか? ま、色々試してみるのも悪かねえさ」

「はい。そうしてみます」

「んじゃ。またな」

「ありがとうございました」


 やっぱり朝の通行人は、急いでいる人が多いようだ。

 売れる保証も無いのに、早くから開けても疲れるだけだろうし難しい。

 ジョーさんの結果待ちかな。

 もしまた調子が良いとなると、ジョーさんの同業者が来てくれる可能性もあるので、早朝から開けるメリットも出て来る。

 

 トリスさんの後は、新規の客が一名のみ。

 この人も温冷一つずつ。やっぱり、二種類あるとどちらも試したくなるようだ。



 十二時の鐘が聞こえてきた。

 節目の時間になると、不思議と身体を動かしたくなる。

 腕を上にし、軽く上半身の運動を行う。

 そんなことをしていると、客が来た。

 見てすぐにわかった。初日に買ってくれた眼鏡のイケオジだ。

 近づいて来て商品説明用ポップを眺めているので、こちらから話しかける。


「こんにちは。先日は、ご購入頂きありがとうございました」

「ん? ああ。この絵が前より分かり易くなった。ところで、これ以外の物は売らんのか?」


 この質問、いつか言われるだろうと思ってはいたが、未だに返答内容に迷っていたりする。スキルについて語って大丈夫なのかが、現在までの異世界生活でわかっていない。ただ、『魔女の力』ってのは、客の反応を見てると受け入れられている。


「すみません。私が預かっておりますスキルがまだ成長途中でして、今のところこの塩おにぎりしか用意することができません」


 咄嗟にまとめた返答内容がこれだった。

 少し不安になりながら、イケオジの表情を確認すると至って普通。

 良かった。


「ふむ。そうか。ならば次回は、少し空けるか」

「申し訳ありません」

「いやいや。そういうものだろう。かまわんよ。折角来たのだし、買って帰るか。今回は、一つずつ頼む」

「ありがとうございます。少々お待ちください」


 そのまま何事もなく取引を終え「また来るよ」と言う、イケオジを見送った。


 こうやって他人に言われると、いつになったら次の召喚が可能になるのか気になって来る。あと、店舗についてもそう。レベルアップはいつなのか。

 召喚の方は、合計召喚数なのであればもう上がっていても良さそうな気がする。今までので、百個は超えている。だが端末を見ても変化なし。

 もしかすると、召喚の成長は店舗レベルに依存しているのかもしれない。


 店舗の方は、予想では売上合計額か売上個数と睨んでいる。

 交換という行為があるのを考えると、個数ではなく累計販売額が本命か。もうすぐ一万五千ウィッチになるので、そろそろ変化を期待したい。


 様々な条件を考えてみたが、答えは出ない。何かが変わればまた考察できるだろうと思い、一度この内容を考えるのをやめる。


「次は、おにぎりに海苔が付いてるといいな」なんて呟きながら、流れる影を見守っていた。

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