第47話 挑発(1)




「やあ、ホウジ。元気だった? 3日? 4日ぶりかな?」



イマエールは自信に満ちた顔でこちらを見下ろしんがら笑った。彼が自信満々な理由は明らかだった。 この前よりはるかに多い数のやからが彼の背後からこちらを乱暴な目で睨んでいたからだった。



その上、浮浪者や酔っぱらいのような連中も混じっていた路地裏の時とは違い、今回はかなり喧嘩ができそうな大柄たちが、それぞれの手に様々な武器を構えていた。



「いやあー。いくら考えても、逃したのが悔しくてさ。そのなかなか可愛かった子が、ね。名前が何だっけ? シャシャ?シャアだっけ?とにかく、どうにも忘れられないんでね。」 



「てめぇ、このクソ…」



気持ち悪い笑みを浮かべるイマエールに向かって飛びかかってしまうところだったが、ウズクマルタカが私を止めた。



「挑発だ、のるな。」



「私も今は腹が立つけど、飛び掛かっても無駄だわ、ホウジ。あっちから来るまで待って。そして、時間を稼いでちょうだい。」



ミルは私とウズクマルタカを先頭に出し、自分は少し後ろに下がってメイの前を遮った。アーチャーとして適切な位置を取ろうとするのだ。



路地裏で戦った時は完全に掩蔽された建物の上から狙いを定めて撃ちやすかったが、今は完全に露出されている状態だ。ミルに狙い撃ちやすくしてもらうためには,私のような前衛が間隔と時間を稼いであげる必要があった。



「だから、そうでなくても近いうちに一度会いに行こうかなと思ったんだ。」



「ふざけるな!イマエール、メイはなぜ狙った! 彼女は何の関係もないじゃない!」



「くすくす、相変わらず頭が悪いな、ホウジ。」



「何?」



「あの小娘がておめぇらと俺のつながりだからに、決まってるじゃない? 」



「つながり…?」



「今もほら、みろよ。おめぇらがどうやって私の尻尾を捕らえた? あの女の子について来たんじゃない。だからもっと早く処理すべきだったのに…ちぇ。



さっそく静かに殺して埋めればよかったのに、お小遣いでも稼ごうと『あれ』を売ろうとしたら… やっぱり欲張ると問題が生じる、っと。おかげで良い勉強になったよ。」



「ヒイッ......」



埋めるとか何とかの話を聞いて怯えたメイが息を飲み込む音がした。 



「そういえば、このバカが後を追われたんだな。この役立たずが。」



「ち、違います。兄貴!あのしつこい奴らが…… クッ!」



ラフは慌ててイマエールに振り返って何か言い訳をしようとしたが,彼の言葉はうめき声で終わってしまった。



「そ、そんな!」



イマエールは躊躇なくラフのみぞおちに突き刺した左手をゆっくりと引っ張った。いつの間に取り出されたのか、彼の手にはナイフが握られていた。すでに真っ赤な血に濡れたナイフを抜くと、ラフの体が力を失って倒れ落ちた。ころころ丘を転がり落ちる姿を見て、私たちは眉をひそめた。



「このあくどい……」



「どうせ長くいける奴じゃなかったんだ。  そうだ! ホウジ!」



イマエールは何ともなく明るく笑ってこちらを見た。 鳥肌が立った。



「その代わりにお前がこっちに来い、ホウジ。」



「何?」



「お前程度の根性を持った奴はそうそういない。ラフみたいなクズども十人よりも、お前一人の方がずっとましだ。 来て私の所にいれば、そのろくでない警備隊よりもっと面白いぞ。


ちょうどいいプレゼントも持ってきたじゃん。 お前の後ろを見てよ。」



私ももう奴の言っている「プレゼント」が何なのか分かるようになったんだから。



「パブの小娘も顔は使えそうだし…あの警備隊の女は、ひゅー、一級品だね? 売り渡すのももったいない。俺が飼うか?どう思う、ホウジ?」



「この、貴様…それが人の口で言えるもんかよ!」



イマエールの話にもならない戯言を聞いていると、頭の中で真っ白になった。今すぐにでも奴をぶん殴りたい気持ちで地面を蹴って飛びだそうとしていた私の前を柱のように厚い腕が遮った。 。ウズクマルタカだった。



「落ち着け、ホウジ。」



低くて落ち着いた声で私を止めたが、誰よりもウズクマルタカの目は怒りで燃え上がっていた。



「イマエールと言ったな。 ここにいるホウジは誇りの高い男だ。彼を邪悪な言葉で侮辱し、挑発するな。戦うなら、さっさと掛かってこい。」



「はあ?」



イマエールの「はあ?」には濃い軽蔑が宿っていた。





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