第37話 初任務 (2)


「…もう一度、お名前が何ですと?」


「だから、『うずくまる鷹』である。」


私は頭を抱えた。

逮捕されるのかと思って逃げ出そうとする男をやっと止めて、加入申請書の記入を手伝うと説得したまでは良かった。


私たちはギルドの片隅にあるテーブルに座り,一緒に申請書を書き込み始めた。ところが、「お名前は何ですか」からこのありさまだ。


「ですから…… 苗字が『うずくまる』で…名前が『鷹』…というわけじゃないですよね?」


男、自称「うずくまる鷹」さんは眉をひそめた。おぉ、迫力が半端じゃない。


「今、うちの元族長が自ら名付けてくださった名前を侮辱するつもりでは?」


「いや。ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったんです。 でも、今こう見えても公文書の書き込み中ですよ。 本当に正式な名前が『うずくまる鷹』なんですか? あだ名とかそういうのじゃなくて?」


うずくまる鷹はしばらく私の顔をじっと見つめた。


「ひょっとして、渓谷連邦を···… ジョルボンヌ族をことがご存じないと?”


「ええ, 知りません。」


そういえば、昨日チョ・チョルヒョン総官が連邦民がどうとか言ってたような気がするけど… 確かに【毎日のように押し寄せる流民や無身分者、そして連邦民のような厄介な連中】という風に話していた記憶がある。


「わがジョルボンヌ族には苗字という概念が存在しない。部族は皆が一体に他ならないから、王国や帝国のように家族だとか家門だとか細かくお互いを分ける必要も有らない。


私の名前は亡くなった元族長がつけてくださった名前である。 今は時を待ちながらうずくまって伏せているが、時が来れば風に乗って舞い上がる鷹のような戦士になれという意味で。」


「ああ、そうなんですか。」


私は一応『名前』の欄に『ウズクマルタカ』と書き込んだ。


「実は知ってはおる。私たちの名前が王国人たちにはおかしく聞こえてるってことくらいはな。

しかし、そういう君たちの名前にもそれぞれ意味があるではないか? 君は…」


「あ、私は法次です。 意味は...... '法律を次ぐ’ということです。」


「そう、ホウジさんよ。君もホウジと呼ばれず代わりに「ほうりつをつぐ」さんとかで名乗ったら変に聞こえるだろう? 同じ理屈である。

ただ、君たちは発音で名前を呼ぶし、私たちは意味で呼ぶという違いがあるだけである。」


ウズクマルタカは少し前までギルド職員を怒鳴りつけていた男だとは思えないほど物静かに自分の名前について説明してくれた。


「とにかくありがたい、ホウジさんよ。このウズクマルタカ、君に借りができたな。」


「別に大したことでもないんですもの。 ところでさっきはどうしてそんなに腹が立っていたんですか?」


ふぅ、とウズクマルタカは深いため息をついた。


「誇り高きジョルボンヌの戦士たる者、非武装の女性を怖がらせるなんて、ご先祖様に会う顔がない…」


「いや、それはど…」


『どうでもいい』と言うところだったが、どうしても口には出さなかった。 やはりウズクマルタカにとって戦士としての誇りなどは非常に重要なのではないかと思う。


侍の武士道のみたいなものだろうか。とにかくそこを傷つけると、私にとても良くないことが起こるという確信に近い感がした。


「渓谷から、ここまで三日三晩歩いて来たである。城の外で身分を確認してもらうのに2日かかったし。持っている食料もお金も全部なくなったのがその頃であった。


早くここのギルドに加入して、仕事をしなければならないと、その考えしかなかったみたい。だらか焦っていたようである。」


「そうだったんですね。じゃぁ、ここ、所属欄に、ジョーボン? ジョルボン? 族と書けばいいんですか?」


「ただ渓谷連邦と書けば良かろう。 どうせこの書類を見る人たちにとっても、私がどの部族かどうかなんて大事なことではないであろうし。」


その次の項目、所持金は先ほどゼロだと言われたし、所持武器は… 聞かなくてもすぐ分かりそうよね。


牛も一刀のもとに真っ二つにできそうな巨大な武器、おそらくあのような形をファルシオンって言ったっけ?とにかく、そんなものを背中に担いでいるから、目に立つしかない。

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