第4話 コバフ(2)



堰を切ったように激しく鳴咽していた瀬戸先生は、これまでの緊張が解けたせいなのかつい眠ってしまった。そのまま瀬戸先生を私の代わりにベッドに寝かせた。


「体も動くし、痛みもないんだからね。とりあえず少し歩き回ってみよう。この世界に勝手に呼び出されたけど、帰り道は自分たちで探すしかないからな。」


瀬藤先生の眠ってる部屋のドアを閉めながら沙耶を安心させるためにわざと明るい声で話した。その様子が、私たちを興味深く見守っていたオルソンには前向きに見えたようだ。


「よし。いいね、少年。そのくらいの気概があってこそ男なんだ。俺らも正確な理由は分からないけどさ、君たちがここに定住するまで手伝おうよ。 しばらくはこの公民館を自由に使ってくれ。村に適当な空き家が出来たら、使わせてあげるからね。」


オルソンは満面の笑みを浮かべ、親指を立てた。このようなジェスチャーは地球とあまり変わらないようだった。幸いなことだ。この世界の住人と些細なことで誤解が発生すれば、疲れるだけだ。

ただでさえ今ストレスを受けることだらけなのに。


“ワアアアア”


公民館の前には学校のグラウンドほどの小さな広場がおり、町内の子供たちが楽しく遊び回っていた。そしてその向こうに見える家々と街の風景はまるでRPGの世界に入ってきたような気がした。


「煙突から煙が出るの初めて見た…」


「ほら、向こうには鍛冶屋もあるよ。」


大通りに沿って歩いた。 舗装されていない土の道を歩くのはとても不慣れに感じられた。

居酒屋や食堂に見える店ーこういう所をパブと言うのだろうーの前で掃除をしていたお嬢さんは私たちの姿が見慣れないのかちらりと見つめていた。そのうちに目が合ったらにっこり笑ってくれるのが、何だかかわいい。向かい合って笑いながら手を振ると、沙也がわき腹をつついてきた。

痛い!


「あっ!」


「気がついたばかりなのに、もうへらへらしちゃう!」


「誰がだよ! 異世界に来たんだから、現地の人たちと仲良くしなきゃいけないでしょうが。」


「おい、そこの少年!」。


私を呼ぶような声に首を回してみた。 新鮮な果物をあれこれ並べている店から、主人と見える人がこちらに向かって手を振っていた。背は低いががっちりした体のおじさんだった。彼の言葉もオルソンと同じようにはっきりとした日本語で聞こえたが、口の動きは彼の言葉と全く違った。


「もう気がついたのかい? 俺はマーティだ。 よろしく。 裏山でオルソンたちと一緒にあんたたちを見つけたんだ。」


「そうですか、マーティさん。ありがとうございます。」


「大したことじゃないよ。あんたはなかなか背が高いから、町まで連れて来るのに少々手間がかかったがね。でも、人として当然のことさ。」


背が高い?クラスでもそこそこだった私が?

そういえば、マーティさんや他の人たちを見ても思ったより体は大きくなかった。オルソンがひときわ大きかったんだ。


「今気がついたばかりだとまだ食欲はないだろう。これでも一口食べてみて。」


マーティは微笑みながら、並べていた果物を一つずつ私と沙也に渡して、町をもう少し見て回ろうとする私たちを送ってくれた。


「これ美味しいよ。」


「ああ、本当にそうだね。」


拳ほどの大きさで、噛みつくと桃のようでもあり、スモモのようでもある香りがする。口の中に広がる甘酸っぱい味に、さすがマーティさんの言葉通り食欲がわくようだった。


「適当に回って、何か食べに行こうか。」


「うん、宝地。」


そうして私たちは異世界の初日を平和で穏やかに過ごした。胸の片隅を重く押さえつける不安からは、眼を反らそうとしながら。もう一度かじった果物の味もまた甘くて酸っぱかったが、今回はほんの少しだけ苦い後味がした。

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暁と黄昏のアライアンス:異次元日韓コラボレーション 恵一 津王 @invincible_rain

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