暗闇の中で花は舞う。
星影瑠華
サラセニア
退屈で仕方がない数学。
目の前の黒髪から目が離せない。
彼女は私の友達。…多分。
彼女の容姿について、十人に聞いたら九人は可愛いと答えるだろう。
残りの1人は、多分嫉妬をしていると思う。
彼女は可愛い。
女の私でも惚れてしまいそうだ。
女の私でも。
恋愛、というのは現代でさえもやはり男と女によるものが多い。
まあ、生物的に言ってしまえば、子孫を残すための恋愛というものなんだろう。当たり前だ。
でも、時折それがどうも切なくなる。寂しくなる。
はなから意識なんてされていないんだろうな、ということが何よりも辛い。
抱きしめても、顔を近づけても、きっと彼女は頬を染めることはしない。
私がもし彼女のことを話すときに「彼女がさ〜」と言ったところで、少し気取ったやつにしかならない。
ここで、「彼氏が」といえば明確な恋人なのに。
変なの。と昔から思っていた。
重く、だるい暖房が頭の動きをとめる。
ぼんやりとした視界で艶やかな黒髪が揺れる。
キーンコーンカーンコーン
音の荒い金の音。
彼女は頬を赤らめて私を振り返る。
「数学難しかった〜!」
んーっ、と伸びをして目を細める。
何をしても綺麗だ。可愛いと思う。
別に可愛いからすきなわけじゃない。
そんな薄っぺらくなんてない。
でも、言葉では言い表せないものだ。
語彙力とやらをつけろと先生は口酸っぱくいうが、こういう時にその大切さを理解する。
「ねえ、数学わかる?私ぜ〜んぜんわかんなくてさ〜」
伸ばし棒の多い話し方も、好きだな。
「難しいよね。私何言ってんのかわかんないよ。」
「だよねぇ。放課後聞きに行ってみようかな…。」
誰とでも仲良くできるところが好き。
「あっ。」
彼女は廊下の方に目をやって、頬を赤らめた。
真っ黒なつぶらな瞳に星が宿る。
それ以外に何も目に入らないと言いたげに、食い入るように。
綺麗な本当に綺麗な横顔だった。
好きだな。
「好きだなぁ…。
ねえ、ちょーかっこよくない!?顔面国宝!いいなぁ。彼女いるのかなぁ。」
「それだけかっこいいならいるんじゃない?」
失恋してほしい、わけじゃない。
昔何かの本で読んだ「失恋直後の人は優しくしてくれた人に好意を抱きやすい。」という文章がフラッシュバックする。
あーあ、私きもいなぁ。
彼女が失恋したとして私は彼女に選ばれることはないんだろう。
席がただ前と後ろでしかない関係性なんだから。
「ねーねー。」
「ん?どーしたの?」
ほら、彼女はどこかに行ってしまう。
行かないで、っていえない。
いう権利もない。
彼女はどんな人とも仲良くできる。
だからこそ、私と話してくれるんだろう。
だからこそ、私だけを見てくれるようなことはないんだろう。
寂しい…のかな。
最近、自分の感情がよくわからない。
なんだろう、何にも当てはまらない気がする。
寂しい。
悲しい。
苦しい。
なんか、違う。
これが思春期とかいうやつなんだろうか。
反抗期、だとか思春期だとか、大人たちはそういう言葉にまとめたがる。
なんとなくいやだと思っていたけど、なるほど、他に表しようもないのか、と自分が当事者になって初めて分かったような気がする。
ケラケラと笑う彼女が友達と共に教室を出ていく。
他の友達に声をかける気分でもなくて、眠くもないのに机に突っ伏す。目を瞑る。
真っ暗な視界の中で微かに木の匂いがした。
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