第5話

 好きになった先生に、他の生徒より構ってもらいたい。

 どうしたら、構ってもらえるんだろうなんてことを考えていた。


【花妻先生に好きになってもらうには】

 先生が好きになる生徒とは。

 黒板の板書もせずに、ノートに、思いつくまま書いていた。


 勉強が良く出来る。

 できない。

 ノートにバツを書いた。


 顔がいい。可愛い。

(可愛い顔っていうか、丸いって言われた、かな)

 多分、並。

 ノートにバツを書いた。


 手がかからない生徒。

 初日から、大変手がかかる生徒だった。


(本当、先生って、キレイだよなぁ)

 花妻と比べたら、自分なんてミジンコだろう。身長は平均、顔が丸くて、幼く見える。今まで外見の良し悪しなんて考えたことがなかったのに、先生に言われた日から「丸い顔」がコンプレックスになってしまった。


 家庭科の先生なんだから、料理好きなのかな?

 料理とか出来たらいいかな。

 家庭科の教科書をパラパラめくって、料理のレシピが書いているページを見た。

 出来る気がしなかった。パンは焼ける。お湯は沸かせる。それから……。


(……あと、米くらいしか炊けない)

 最初はカレーとか作りたいなぁ。


「おい、熱心に遊んでるところ邪魔して悪いな、千秋」

 突然、名前を呼ばれて顔を上げた。すると机の横に花妻が立っている。本当に、キレイな顔だなぁって思った。

 うっとりした顔のまま、口を開いていた。


「先生は、料理できる人って好きですか?」

「あ?」


 刺々しい、花妻の声が帰ってくる。


「あ……。えっと」

「授業中に楽しい妄想も結構だが、ちゃんとノート書いておけよ。……先生は甘いカレーが食べたい」


 トントン、と千秋のノートを人差し指で叩かれる。

 そこには「カレーを作る!」と書いていた。

 教室に、どっと笑いがおこる。

 授業そっちのけで、ノートにひたすら妄想を書き綴っていた。それを冷たい目で花妻が見下ろしていた。

 タイミングがいいのか悪いのか、そこで授業が終わりのチャイムが鳴った。


「はい、終わり。授業聞いていなかった千秋は全員分のノート集めて、放課後持って来るように。以上」

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