しゅらららば26/部室とお弁当2/3
さて、どのお弁当から食べるべきかとカケルが悩んだ時。
妙に気になる事がひとつ、リラのお弁当の横にある空のグラスと真っ赤なリンゴだ。
リンゴは切り分けられておらずまん丸のまま、まさかこのまま食べろと言うのか、外国のお弁当でもあるまいしと彼が首を傾げると。
「ふっふっふっ、ボクがリンゴをそのまま持ってきたのを疑問に思ってるみたいだね!」
「お、おう、普通はそう思うが」
「外国のお弁当はリンゴがまんまって話はあるけどさ、日本の品種と違って小さめのなんだよ、そしてコレは日本のやつだ、つまり……」
「……おい、なんでコップの上でリンゴ握りしめる? まさか――」
「そのまさかさっ! どりゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「こ、こいつッッッ、やりやがった!?」
リラは片手に握ったリンゴを握りしめると、じわじわと握りつぶしていく。
ぽたり、ぽたり、滴がコップに注がれていって。
つまりこれは。
「果汁100パーセントのリンゴ生搾りジュースだとッッッ!?」
「競うな持ち味を生かせ……、ボクの握力は料理でも通用するッ! そしてリンゴは当然高級品! 青森から取り寄せた一個5000円のすげー美味いやつだぁッッッ!!!」
「くっ、敵ながら天晴れですけど卑怯ですよ(ゴ)リラ先輩!」
「なんとでも言うがいい庶民よ! 握力も財力もないヤツは大人しく順番待ちしとくがいいさ!!」
「きゃーっ、物語中盤でフられる悪役サブヒロインムーブが素敵だよリラちゃん!」
「ちょっとキョミぃ!? それ褒めてんの!?」
ともあれ新鮮すぎる高級リンゴジュースは完成、問題はお弁当の中身であるが。
手を拭きつつ、リラはまたも不敵な笑みを浮かべ。
「ボクはお嬢様故に料理が得意じゃあない、――そしてそれはボクの努力を以てしても一朝一夕で上がるモノでもない、ならどうする? 火は使えない、包丁は遠ざけられる。……いいやある、まだあるんだよカケル、ボクが使える調理法が!!!」
「な、何っ!? あるのかそんなもの!?」
「ボクの自慢の握力、それを発揮させたものが…………これだ! さぁ食べてくれカケル! 他のお弁当も食べると想定してるから少なめに作ってるんだ!」
「こ、これは……サンドイッチ、専用のパンと調味料を用意すれば残る食材を手で千切るだけでいい、……そういうコトか!!」
「さぁ、食べてくれボクの愛を!!!」
「――――いただきます」
キョミの少しばかり羨ましそうな顔と、菫子の呆れた視線を感じながらカケルはサンドイッチを食べた。
(レタスとハム、マヨネーズとマスタードとはちみつを混ぜたソースが入ったシンプルな一品。もぐもぐ、美味い、まずパンそのものが美味い、レタスもシャキシャキで新鮮、ハム……いやこのハム美味すぎない!? どんだけ高級なの使ったのコイツ!? マヨネーズの酸味、マスタードの辛み、それらが一体感を出して旨味を盛り上げているッッッ)
カケルはたった二切れのハムサンドを、精一杯味わって食べた。
美味しい、悔しいが美味しい、リラの調理知識も経験も少ない筈だがこのハムサンドに至っては完璧で。
(旨味を出すには、甘み酸味苦み辛み、それらが必要だと聞く。このサンドイッチにはレタスの苦み、マヨネーズの酸味、マスタードの辛み、はちみつの甘み、全てが揃っていて、高級ハムのおいしさを一層引き立てていて――っっっ!? ジュースも美味しい!!)
これを超える品が出てくるのか、カケルは戦々恐々としながら次のお弁当箱を。
キョミのお弁当箱に手を伸ばす。
彼の顔を見て、好感触だと察したリラは菫子とキョミにガッツポーズをしたが彼に構っている余裕などない、リラのお弁当が思いのほか美味しすぎたのだ。
「…………うん?」
「えへへっ、どう? カケルちゃんが好きなものを入れたんだけど……」
「好きな物っていうかさぁ…………お前さあああああああああああああああああああああああ!!」
「ひゃっ!? か、カケル先輩!?」「どうしたんだよカケル!?」
唐突に叫びだした彼に、菫子もリラもきょとんとして。
然もあらん、カケルとしては叫ぶしか無い、だってそうだ、そうする他ない。
「なぁキョミ? 京美? 白米はいいよ? お米も欲しい所だったからな??」
「そうでしょそうでしょっ!」
「けどな?」
「うんっ!」
「おかずの変わりにリラの下着姿の写真入れてんじゃねええええええええええええええええええええええ!!!」
「ええっ!? カケルちゃん、リラちゃんのえっちな写真でご飯食べれないの!?」
「食えるか!」「キョミ!? マジで何してくれてんのキョミ!? これこないだのお泊まりのやつじゃん!?」「くっ、やってくれましたねキョミ先輩ッッッ!!!」
どう考えてもネタ枠である。
リラが好きな京美としては、腕を奮って作り優勝を狙うよりネタに走ってリラへのアシストをする方がいいと判断したのだろうが。
幼馴染みとしてお互い知り尽くしている間柄だ、好物だらけのお弁当かもしれないと少しばかり期待してしまったのは無理もなく。
「はい失格」
「そ、そんなぁ……!」
「どこが不服なんだよキョミィ! それと写真は没収……う、うん、カケルがよければ貰ってくれても…………」
「あ、それはあたしが捨てておきますねカケっさん先輩!」
「おう任せた」
「待てや在賀ァ! カケルも任せるんじゃなーーい! ボクのセクシー写真のどこが不満なんだ!」
「おっぱい」
「畜生ッッッ!!! どうしてっ、どうしてボクはAカップなんだ!!! これが試合に勝って勝負に敗れる、そういうコトかッッッ!」
「まだ試合も決まってないですけどねー、じゃあ次はあたしのを!」
という事で、カケルは次のお弁当に手を伸ばすのであった。
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