しゅらららば25/部室とお弁当1/3



 お弁当大会を提案したその夜、カケルはスマホで菫子にメッセージを送っていた。

 彼女ならば、きっと聞き届けてくれるだろうと願いを込めた賭け。


『明後日のお弁当の件、例の俺が忘れてる恋人のお弁当も食べたい。もし三人の中に居るならそれでいい、そうじゃないなら菫子が頼んで作って貰って来てくれ。お弁当を出す時は匿名でいい、作ってくれないのだったら飲み物にアイスコーヒーを添えてくれ』


 直接誰かは教えてくれなくとも、これならばとカケルは祈った。

 メッセージに既読の印が付き、数秒経過して返事は無い。

 イエスでもノーでも、絵文字でもスタンプでも、どんな簡素な返事でも構わない、けど出来るならば。


「…………はい、って言ってくれ菫子」


 祈りながらスマホ見つめること数分、ポコンという音と共にOKと書かれたスタンプが表れる。


「ありがとう菫子……ふぅ、これで多少はっきりするな」


 リラ、京美、菫子、この中に恋人だった者が居るのか、それともそれ以外の人物であったのか。


(京美の可能性も捨てきれないのがなぁ……薄い線だとは思うけど)


 これまで、証拠を見知らぬ品とリラ証言に頼っていたが。

 もし見知らぬ品が恋人と無関係であったら、京美と菫子の可能性が浮上してしまう、その場合は恋人であった事を隠している理由を再度探さなければならないが。

 一番最悪なのがアイスコーヒーの場合で、二番目が誰のモノとも知らぬお弁当があった場合だ、それはつまり、どちらもリラが嘘をついている可能性が高まったという事で。


「…………疑うなんてしたくないけど、でもさ、なぁなぁで済ませちゃいけないよな。――――あ、俺も何か作った方がいいのか? お礼というか優勝賞品があると嬉しいもんな」


 忘れてしまった恋人のことだけを考えている場合ではない、特にリラには探っている事を悟られてはいけないのだ。

 ある意味で、偽のお弁当大会とも言えてしまうから、少しでも真実味を持たせるために。

 もしかしたら、本当に恋人だった誰かに少しでも己が会いたいという気持ちを伝える為にも。


「さーて、何を作ろうかな!」


 ――そして時は少しだけ流れ、お弁当大会当日である。

 お昼休みの部室、その机にはお弁当が勢揃いしていた。

 部員であるリラと菫子とキョミが勢揃い、お弁当は四個、そう四個だ。


(もしやこれ……そういうコトなのか菫子!? リラ以外に俺に恋人が居て、そのヒトが作って来てくれたと!?)


 カケルの視線にリラとキョミもお弁当が一つ多い事に気づき、怪訝そうな顔をして。

 そんな中、菫子が素知らぬ顔で爆弾を投下した。


「そうそう、今回は代理であたしがもう一つ持ってきてまーすっ! ――この意味が……わかるかなぁ?」


「ッ!? そ、それは……まさかお料理上手の腕自慢が優勝をかっさらおうとッ!? ボクの優勝を阻む為に刺客が送られて来た!?」


「リラちゃんリラちゃん、どっちかっていうとカケルちゃんに手作りお弁当を食べさせたい恋敵がいるってコトじゃない?」


「ああっ、そうだそうだよ!! ライバルが増えたってコト!? カケルの心を奪う為に胃袋から掴みに来た…………くっ、姿を見せないなんて卑しいやつめッ! 負けてなるものかーーーーッッッ!!!」


 リラが拳を握り闘志を燃やす一方、カケルは胸にジンとした熱い何かを感じながら。


「そっか……俺、モテモテなんだなぁ。美味しかったらその子とデートしたい」


「カケルぅ!? それ裏切りぃ!! ボクに対しての裏切りだよ! くっそーッッッ、すっごい美味しいお弁当持ってきたから食べてメロメロしてやんよ!」


「がんばれリラちゃん! ワタシは幼馴染みだから好きな物も嫌いな物を把握しきって手強いと思うけど頑張れ!」


「キョミぃ!? 何で今言った!? 何でそれ今言ったのボク好きな物は聞いてるけど嫌いな物聞いてないよ!? NGがあったらどうしよう……ううっ、――――ま、でもボクが優勝でしょ。今日は惜しげも無く高級食材使って来てやったぜ! これぞ持てる者の力! お嬢様パワー! もう、あ、リラってそういえばお嬢様なんだっけ、みたいな台詞は金輪際言わせないッッッ!!! 」


「きゃー、かっこいいリラちゃん!」


 ぱちぱちと拍手する京美に気分を良くしたのか、リラは無い胸をえへんと張って。

 その瞬間であった、カケルはとある事を思い出す。

 リラはお嬢様育ちであり、家庭課の調理実習では散々な評価だったという事実を――。


(――ッッッ!? し、しまった!! どうして……どうして俺は見落としていたんだ!!! アイツが料理上手かったなんて聞いたことない、むしろ調理実習ではキョミに任せっきりというかお皿に盛るぐらいしかさせてもらえないってっ!)


 頼む、どうか家の人が作ってくれたと、或いは高級な弁当を買ってきたと言ってくれ、とカケルは密かに祈った。

 同時に。


(…………もしや、菫子が持ってきた追加の、俺の恋人だったヒトが作ったお弁当。――――メシマズだったらどうしよう!? 俺は……愛せるのか、食べた後に会おうって思えるのか。嗚呼……根性無しだとかヘタレとか蔑みたければ蔑めばいい、最低野郎と呼ばれても構わない、だから…………ご飯は美味しい方が良いッッッ!!!)


 カケルの精神状態は、戦に望む武者のごとく奮い立っていた。

 そんな彼の前に、リラが恥ずかしそうに絆創膏だらけの手でピンク色の風呂敷に包まれたお弁当を。

 キョミは何も考えていない笑顔で楽しそうに、青色の布袋に入れられたお弁当を。

 菫子は黒のランチボックスと、見覚えのある白いランチジャーを差し出したのであった。 


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