しゅらららば21/助け船と更なる
ぼいんぼいん、ぺたんぺたん、カケルの目の前で二人の女の戦いは苛烈を極めた。
方や大、方や小、胸部戦力の差は歴然であったが、どちらも彼に見せつけるようにお互いの胸をぶつけ合う。
リラより菫子の方が背が高いので、ぶつかり合うと言ってもリラが菫子の巨乳に顔を埋めるコトとなり。
(…………もしや、これはこれで眼福では?)
「ほらほら~~、あたしの柔らかーいおっぱいじゃないとカケル先輩は満足しないんですよ~~っ」
「くぅ~~~っ、この駄肉めぇ! マジで柔らかいのが悔しい! けど小さくてもボクのは美しいんだよ! 触って確かめてみろ!」
「えっ、いいんですか! それなら遠慮無く……、おお、これは結構――」
果たして彼女たちは何を争っているのだろうか、とても目に優しい光景なので何時までも見ていたいが。
逃げるなら今、と理性が叫んでいる、本能は動きたくないと叫んでいる。
しかし目先の欲に囚われ童貞を喪う訳にはいかない、カケルはそろりそろりと静かにゆっくりと後退を開始。
「――んっ、や、ぁ、おっ、おい在賀……! いつまで揉んでんだよっ! そんなにボクのおっぱいの感触がいいのか!? そっちの気でもあんのかよ!!」
「いやいや小さくとも中々にお楽しみなモノをお持ちで、時に相談なんですけど……どうせならあたし達二人でカケっさん先輩とシませんか? こっちも初めてですけど二人なら恐くありませんし――今みたいにカケル先輩逃げだそうとしても捕まえられるっすよねぇッッッ!!!」
「ゲェ、ばれてる!? お前偽恋人の役割どうしたァァァァァァ!! せめて逃げさせてくれよおおおおおおお!!!」
「ちっ、逃がしたッ!!」
「うわマジだっ!? いくぞ在賀捕まえろオオオオオオ!!!」
「やなこった! つーかなんでリラも受け入れてんだよありえねーだろーよおおおおおおおお!!!」
捕まったらヤバイ、小と大のサンドイッチで桃源郷に誘われてしまうこと間違いなし。
二人とも美少女なのだ、男としては本望であるが学生として爛れすぎであるし、なにより。
(童貞とかヘタレとか幾らでも罵れッッッ!! 俺の気持ちが追いついてないのに誰かを抱けるかってんだ!!!)
ラブホの入り口から出れば、オフィスや塾が入っているビル、コンビニなどが見える大通りがすぐ見える。
だが、そちらに逃げてもリラの速度に、持久力に勝てない可能性がある。
同時に、こんないかがわしい場所に二人を長々と置いておく訳にもいかないので。
(ガンバレ俺ェ!!! 心臓が張り裂けてもスピードを維持しろぉ! せめてこの方面から抜け出すまでだッッッ!!! 背中とケツをチラつかせて追いかけさせる、二人を撒くのは駅に近くなってからだ!!)
カケルが疾走するは大通り。
その後をリラが、少し遅れて菫子が追いかけている。
駅方面への鬼ごっこに道行くサラリーマンや、偶然居合わせたクラスメイトは興味深そうに眺め。
(くそっ、ちょっとした筋トレだけじゃなくて持久力アップの何かをすればよかったッ、一分全力で走っただけで息が上がって来てやがるッッッ、俺はもう限界だぞおおおおおおお!!!)
然もあらん、彼は陸上部に入っている訳でもなく真逆の卓上ゲーム部の所属だ。
毎晩少しばかり筋トレをし、誰に見られても問題ない体にしてはいるが、良くも悪くもそこ止まり。
もう一分間全力で走ると、足が縺れて転げてしまうかもしれない。
「待てえええええええええええええええっ! ボクの何が不満なんだあああああああああああ!!! 今なら在賀の巨乳もついてくるんだぞおおおおおおおおおおお!!!」
「まっ、待ってくださ、いっ、せんぱーーい! あ、あたしっ、そこまで体力なくて――」
(まずは菫子が脱落ぅ! ラブホからは遠ざかったからヨシッ!)
だが問題はリラだ、ゴリラの渾名は伊達じゃない、握力腕力体力おまけに速度も持久力も抜群。
どこかで曲がって店に入って隠れるしかないが、しかし駅裏の、こちらの方面はあまり明るくなく。
ならば一か八かで件の花畑に行ってみて、隠れる場所があるか祈るしか無い。
――――一方、カケルの窮地を見ていた者が一人。
(うわーーっ!? ど、どーしようっ!! え、どうやって助ける!? 車で来たけど今この場で中に入れたらリラちゃんにバレちゃうし……)
そう八千代風花その人である。
菫子からの連絡を受け車で先回りしたはいいものの、生徒の自由恋愛を校外で止めるなんて……と我に返ってしまい。
その所為でカケル達の姿を見失っていた訳であるが、こうも騒がしく追いかけっこが始まったのなら流石に気づく。
とはいえ。
(教師、保険医としての身分を盾に止めることは容易いんですけど……なるべく、遺恨は残したくない、――嗚呼)
ダメな大人だ、と彼女は自嘲した。
カケルを助けなければいけないのに、助けた後のリスクを考えて躊躇してしまう。
生徒の恋愛に口を出すだけでも問題になり得るのに、それも校外で、ラブホの近くだなんて。
(下手したらクビ……、っ、ぁ、~~~~オンナは度胸ォ! 何とかなる! でもなるべくリスクは避けて――)
風花は意を決して助手席に置いたピンク色の鞄からスマホを取り出すと、カケルにメッセージを送る。
返事を待たずにスマホを助手席へ投げるように乱暴に置くと、ハンドルを握りアクセルを踏み込んだ。
移動するは信号二つ先を右に、線路沿いの狭い道。
(お願い気づいて――)
そして五分後。
「ありがと助かった! サンキューやっちー愛してる!」
「早く閉めて! 床に伏せて隠れて!」
「もうやってる!!」
バタンと勢いよく後部座席のドアが開かれカケルが飛び込んできた、そしてドアが閉じられてから十秒後。
「どこ行ったカケルううううううううううううううううう!!!」
「……………………はぁ、はぁ、はぁ、ま、まって、待ってって言ってるでしょ(ゴ)リラ先輩! ――っ!? あ、ああっ! 反対っ、反対に今人影が見えましたっ!」
「オッケー行くぞ在賀ああああああああああああああああ!!! 待ってろよカケルっ、今ボクらの処女を捧げてやるからなァ!!」
(リラお前っ!? それ叫ぶ!? 今ここで叫ぶの!? やっちーが聞いてるんだぞ!? つーか菫子も助かるけど助けてくれるならもっと早いタイミングでいっぱいあったよなぁ!?)
二人の走り去る音が消えて十秒後、体を起こし座席へ座った彼が見たものは。
バックミラーに映る、恐ろしく柔やかな風花の笑顔で。
「――――説明、してくれるよね?」
「あっ、はい」
カケルは頷くしかできなかった。
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