2-7
発車ベルと同時にスマホが鳴った。
古館は慌てて新幹線に飛び乗った。明神はもう間に合わない。電話は明神からだった。
「古館さん? すいません、急な仕事で今日一緒に行けなくなってしまいました」
「いいさ。こっちは俺が一人で調べる。任せておけ」
「よろしくお願いします」
「『土産』を楽しみにしているんだな」
静岡県の土産といえば何だと考えながら古館は電話を切った。
転落事故で死亡した人物は二野宮達也だと判明した。明神が仕入れてきた情報だ。死んだ人間が2hillであれば2hillの本名であり、別人だとしても2hillに近しい人物の名だ。
とりあえず二野宮達也を追ってみよう。今日は明神と二人で死体検案書に記されてあった二野宮達也の住所を訪れる予定だったが、明神は都合がつかずに古館一人での取材となってしまった。
ひとりの方が気楽だ。
これまでもひとりで動いてきたのだ。これからもそうだ。
東京出発から約2時間、新幹線は静岡県XXに到着した。目指す二野宮達也の住所へは在来線を乗り継いでいく。駅からはさらにバスで山の奥へと進んでいく。
バスの乗客は古館一人きりだった。どこで降りる客だろうかと探っているのか、バスはゆっくりと走る。
山は冬枯れの季節をむかえて車窓越しの空気も寒々しい。
バス停を降りてすぐ、帰りのバスの時刻を確認した。次のバスは午後3時、それが駅行きのバスの最終だった。
不便だなと思いつつ、ここいらの住人は車を利用するだろうから逆にバスをあまり利用しないのだろう。途中で乗り降りした客は腰のまがった年寄りで乗った距離もわずかにバス停2つ程度だった。
目指す住所まではスマホに頼る。電波が届いていて助かった。周囲を山に囲まれた田舎だが、確実に文明の波が押し寄せている。田舎暮らしをしたがる若い人が多いと聞くが、確かにネット環境さえ整っていれば快適に生活できそうだ。
見渡す限り農地が広がる中に、民家が点在している。そのうちのひとつが二野宮家のはずだ。
「すいません」と、畑仕事をしていた老婆に声をかけ、二野宮の家を尋ねる。すると、ここいらはみな二野宮だという返事だった。
「二野宮達也という人の家を探しているんですが」
「達也なら私の孫だよ。あんた、孫に会いにきたのかね」
老婆が畑仕事の手をとめ、立ち上がった。立ち上がっても腰は少し曲がったままだ。
「孫なら死んだよ。3年くらい経つかな」
「そうでしたか」
知らぬふりの芝居を打った。と同時に、二野宮達也なる人物が死亡しているとの確認を得る。
「せっかくここまで来たので、お線香をあげさせてもらってもいいでしょうか」
「そりゃあ、かまわんけど……」
古館と達也の年の差からどういう知り合いなのか、と老婆は怪しんでいるようだった。
古館は懐をさぐって名刺を取り出した。
「私、こういう者で……」
老婆にむかって差し出した名刺は明神のそれだった。初対面の時にもらった名刺をそのままジャケットのポケットに入れっぱなしで間違えて出してしまった。
「毎朝新聞の人かね」
名刺をのぞきこんだ老婆の緊張がゆるんだ。
全国紙である毎朝新聞の記者という肩書は絶大な力を持つ。古館は明神のふりをすることにした。
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