第11話 二重記帳

「消えた…?」


 最後の骸骨を倒したからなのか、途端、黒川さんが文字通り消失しましたね。なんかこう、デジタルっぽくドットな感じでキラキラと。


「ええ…」


 笑顔になってくれて良かったんですけど、置いて行かないで欲しいんですけど。

 一応このパーティーは終わったのか、穴からは脅威がなくなりましたけどね。


「しかし、なんだここ」


 冥界下りとかかな。

 今更流行らないと思うんですけど。

 とりあえず壁の穴にずりずりと進んだらどっか出れるかな。

 そう思って壁に近づこうとすると、後ろから人が来ました。

 初めてここに来た時と同じような壁すり抜けみたい。

 

「あれ? なんだよ、ブッキングとかあるのか」

「レ、レイドが始まったからじゃないですか?」

「ちっ、いらん事を…」


「…」


 それは高校生くらいの男女二人組。

 くらいの、というのは二人ともピッタピタの黒のボディスーツが卑猥過ぎて困惑するんですが。

 違和感バリバリなんですが。

 あとそれダブルブッキングじゃないかな。


 男子はややというか太っちょ。お腹とか股間とかもっこりしてるとか恥ずかしくないんですかね。

 女の子は推定Cって感じで大きめのお尻共にナイス。

 というかその格好で彷徨いていたらさすがに世間も防犯カメラも黙ってないし庇えないと思うけど。

 いや、さっきの黒川さんの時と同じで、誰も見てなかったんですかね。

 天使店主様グッジョブ。


「その制服…聖セイラム学園か。見ない顔だな。セカンドか?」

「…それがよくわからないんですよね」


 話しかけられたんで素直に答えたんですけど、ファーストとかセカンドとかなんなんでしょうか。巻き込まれた順だとは思うけど。


「ああ、そうか。セカンドから神託はランダムだったか。紙装甲でまぁ、ははは」

「神託…? ランダム? かみそうこう…?」


 神が付く悪口は大体網羅してますが、初耳ですね。


「はは、まあ自分で調べろよ。おっ、来たぜ。明日菜、ボス戦だ」

「は、はい!」


 また骸骨が出て来たんですけど。

 おそらくこの言い様からまた戦いが始まると思うけど、これ、もしかして僕ってこのままここから出られ無い感じ?

 超迷惑なんですけど。


「インベントリ、[大鬼黒槌オーガハンマー]。ほらよ。使え」

「は、はい!」


 なんか黒くて馬鹿みたいにデカいトゲトゲしたハンマーが出てきましたね。

 流石にもう驚かないですよ。

 あれは無限収納ボックスなんでしょう。

 

「…」


 そういえば、インベントリってあの天使店主様の店に繋がっていたような。

 めっちゃ骸骨捨てましたけど、彼女、怒ってないですかね。

 こわ。


「怖くない。俺が付いてる。行け」

「はい…!」


 ハンマーを恐る恐る受け取った女の子が意を決して駆けて行きました。

 どうやらこの男子が女の子のご主人様っぽい。

 しかし、神託にしろランダムにしろ調べろか。

 そんなの知らないんですけど。

 黒川さんに聞けばわかるのかな。


「や、やぁぁっ!」


 そんな黒川さんほどじゃ無いけど、黒ボディスーツの女の子、それなりに動けてますね。

 バカンバカンぶん殴っています。

 ぽいんぽいんぷるんぷるんもしてますが。


「いいだろ、あのスーツ」

「…ええ」


 あ、同志がいた。


「はは、ちょっとしたレアなんだぜ。あれなら骸骨に触れられても痛くない。防御力も今のところ最上位だ」

「へぇ…」


 それでも絶対着たくないんですが。

 変態にしか見えないんですが。

 まあ、そうも言ってられないんでしょうね。


「下には何にも着てないからな。後で楽なんだぜ」

「…そうでしょうね」


 何が楽なのか知りませんけど。

 ビジュ的にはあざーす。

 食い込みもあざーす。


 でもいい加減ここから出たいんですけど。

 そんなことを思って戦っている女の子を見ていたらスピードが落ちてきました。

 黒川さんとは違う緩やかな感じ。

 

「はぁ、はぁ、け、健太郎様…!」

「おう、下がって休んでろ」


「…」


 名前を様呼ばわりさせるとか王様ですかね。

 堕落した王様みたいな体系ですけど。

 ご主人様よりある意味イジメに感じてしまうのは僕の苗字のせいですが。


「オラオラオラァァァ!!」


 その健太郎様なんですけど、疲れた女の子から受け取ったあのハンマーを片手で振り回して骸骨を次々とぶん殴ってますね。

 土の地面も抉れてますし、まるで豚王って感じでボコボコに蹂躙してます。

 まさにオラオラ系。

 そうか、これが語源か。

 正直周りにオラオラ言ってる人居ないですし。

 でも、やっぱり普通の人類の力じゃないですね。

 あの体格であの動き、明らかにおかしい。

 何らかの加護…?

 でも下がった女の子はなんか引いてますね。

 そこはわー!スゴィィィ!かっこぃぃ!じゃないでしょうか。

 そそりますね。


「ははっ! オラオラァァ!!」

「え? きゃぁァァッ!?」


「あっ」


 勢い余ったのか、骸骨をその女の子の方にやってしまいましたね。

 

「け、健太郎様ぁッ!! いっ!? いやぁぁあああッッ!!」


 めっちゃ噛みつかれてますけど、助けないんでしょうか。


「ははっ、ちょっとだけ待ってろよっ!」


 いや、明らかに助けれそうなのに、行かないんですよね。何か回復する手段でもあるんでしょうか。

 左手とかバリバリに喰われて失ってますけど。


 僕? 助けないのか? ですか?

 いや、どう見ても僕がイレギュラーでしょうし、戦闘プランとかあるでしょうし。

 明らかにお邪魔虫でしょうし。

 それにどう見てもわざとやってるって感じの悪意が見えますし。

 意味がわからないんですよね。

 触らぬ神に祟りは…ありましたよね。

 あっちから触られるとかマジ迷惑。


「ぎぅッ…! あがぁぁぁぁッ!」

「はは、すまんすまん」


 あ、ようやく助けましたね。

 でも女の子、完全にレイプ目してます。

 そそらないですね。


「ふーっ、あと10ってとこか。インベントリ[聖なる宿木]。よっと」


 そう言った健太郎様は淡く光る玉串みたいな木の枝を取り出して、地面にブッ刺しましたね。


「おいセカンド。心配すんな。これは一定時間侵攻が止まるレアアイテムだ。だからちょっとこっち来いよ」

「…」

 

「なんだ? こいつの有様にびびってんのか? はは、大丈夫だって。ここで死んでも手足も戻るし実生活には支障がない」

「そうなんですか」


「はは、やっぱりまだ夢だと思ってる系か。最初もいたよな。そんな奴」


 いや、夢だと全力で願いたい系です。

 さすがに僕の夢の実力はこんなにはないんですよね。


「はぁ、はぁ、け、健太郎、様…! はぁ、は、早く、回復薬ポーションを──」

「おう、そら。くれてやるぜ」


「え…? ぎぃやぁぁぁぁ──────ッ!!」


「…」


 嘘でしょ。

 健太郎様、残ったもう右手をハンマーで潰したんですけど。

 まさに暴君。

 いや、ただのサイコパスかな。

 こわ。


「はは、おいセカンド。これ知ってるか? インベントリ[小鬼淫液ラブポーション]」

「ぎっ、あ、あ、け、健太郎、さ、様ッ、まさか…うぐっ!?」

「よしよし、全部飲めよ。痛みが無くなるからな」


「…」


 なんか無理やり飲まされましたけど、女の子の両手は回復はしてませんね。

 放心はしてますけど。


「ははは、後で死ぬまでハメ犯してやるからじっと待ってろ。それより…なぁ、セカンド。ただでボス攻略なんて許せねーよなぁぁっ!!」

「ッ!?」


 突然ぶん殴ってきましたね。

 大ぶり過ぎてヨハネが仕事するまでもなく躱しましたけど。

 けど、まあまあ速いっすね。

 これ僕ピンチなのかも。


「おっ、フツメンなのにやるじゃん」

「…」


 なんですか、その顔面評価主義社会みたいな謎認識は。

 顔って関係ないと思うんですけど。

 それにまあまあイケメンですー。

 時代が追いついてないだけですー。

 世界に僕だけしか男がいない時代なら、ですが。

 まあ、だいたいの人って自分は平均より上って認識してしまうらしいですけど。


 つまりみんなフツメンなんですよ。


 しかし、やるって言うならやりますけど、だんだん腹立ってきたんですけど。


 いや、これはおそらく紳士ムッシュムラムラってやつですかね。

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