第7話

金木犀の香りを嗅いで

忘れて居た思い出の幾つかを思い出した

皆んな、どうして居るだろう

震える程の懐かしさ

ああ、そうか

会いに来て、とはそういう事だったのですね

「そうかも知れませんね」


でも明日、仕事に行ったら、

きっとまた私は皆んなの事を忘れて生きていくんです。

「そうかも知れませんね。でも来年も金木犀は咲きますから。

私は今年で最後ですが、街中に金木犀は有りますから。

また思い出したら良いんですよ。いつかきっと会いにいけますよ。

今日私に会いに来たように。

それから来年からは

私の事も思い出して下さいね。」


金木犀の香りに包まれて

思い出した記憶を忘れない様に

今日の記憶を忘れない様に

この香りを覚えておこう


秋晴れの少し冷たい風の中

私は目を閉じ

ゆっくりと息を吸い込んだ


金木犀の香りがする

金木犀の香りだけがする


(完)

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