オワレル
かもめ7440
第1話
ハァハァ・・・。ハァハァ・・はあはあ――。
追われている、一人ではない、複数だ。
それも、人間ではない。
この世ならざるもの。
コマ送りのストップモーション・・・。
―――嗅覚情報処理――視覚系神経経路の入射――。
上腕筋、橈側手根伸筋、上腕三頭筋、総指伸筋、
尺側手根伸筋、腓腹筋外側頭、長趾伸筋―――。
くすくす、あははは、ぎゃははは、笑い声が聞こえる。
―――背筋が凍る、
ここが繁華街なら、それもあるだろう、
五月蠅いとも言えるだろう。
酒臭い息、陽気な気配。
しかし、真っ暗闇の中で、森に面した旧道で、
その笑い声が聞こえ、
しかもその笑い声が追い掛けてくる。
肺の奥が、時化てくる。
数百メートル先にコンビニがある。
ナビゲーションシステムのように、
ガス・ステーション。
家具を売る店、コンピューターを売る店を連想する。
そこまで行け、ば―――。
そこまで行く、ん、だ・・・・・・。
大丈夫・・・・・・最初だけ・・・。
(声が反響する―――ダアケ、ダケダッテ、、、)
偽装。爆走。大回転・・・!!!
宙に浮く首。火の玉。ラップ音・・・!!!
死ぬと楽しいよ楽しいよ、
虚空を錐のようにえぐる高く澄んだ声。
(声は変奏する―――シネヨ、シネヨ、、、)
苔むした廃墟、蔓が生え、猫がいる、
明るい色の虹彩の真ん中に黒い瞳孔が浮かぶ。
――古い新聞記事。
(怪談を聞き終わった後に、耳栓でもしていたみたいに、
ふっと世界の音が静かに遠くなっていることに気付く・・)
想像してみてくれ・・、くらくらする―――心に、
絡みついて、ありえないぐらい、気持ち悪い・・・。
―――意識と体液とが混交した瞬間、
ねばねばした・・張り詰めた一瞬。
アーサー王、アトランティス、セイレーン、ムー大陸に黄金伝説・・。
気息音のあとの破裂音―――。
「おまえ、あの、しゃしん、みた」
“不気味な皮膚病の予兆”
と、誰かが言った。
「おまえ、あの、ひみつ、しった」
“病人のかさぶた”
と、誰かが言った。
「おまえ、あの、へや、はいった」
“時計にある鍵穴”
と、誰かが言った。
手を振る動作、足を振る動作、首を前後させる動作、
“おまえ、あの、しゃしん、みた”
胸や腹筋を張る動作、太腿や脛を張る動作・・・。
「うぎゃああ”ああ”アァあああァあぁあ・・・・・・・」
『噛』まれた。
“おまえ、あの、ひみつ、しった”
「うぎゃああ”ああ”アァあああァあぁあ・・・・・・・」
『刺』された。
邪な電子パルス・・異常増殖する細胞―――が、
“おまえ、あの、へや、はいった”
「うぎゃああ”ああ”アァあああァあぁあ・・・・・・・」
『千切』れた。
強制的に感覚刺激を励起・・する・・・。
気候変動、自然災害、病気の蔓延、セキュリティー脅威、
貧富格差の拡大、様々な困難に直面している世界において、
善悪も、価値基準も細分化されてしまう。
「知らない知らない知らない!
何故追われているんだ・・・不条理だ!」
浴槽に溜まった水が排水溝に流れ出ていくような時間・・・・・・。
空間ではなく時間に閉じ込められるような恐怖―――。
ドアの隙間から覗く、異世界の景色・・。
違う、日常世界への回帰。
俺はようやくコンビニへ逃げ込む。
ピタッと音が止まり、嘘のように全部消えた、BGMが流れて―――。
・・・・・・くすくす、あははは、ぎゃははは、
笑い声が聞こえる。
スピーカーをミュ ートしていても(を、)音が鳴り・・。
交霊会でも開いているような気がしてくる。
キリコの絵の中の情景のように続く。
白と黒が幾重にも入り交じる瞬間、
一対の眼が、右に、左に、前に、後に、やや高く、やや低く・・。
......Open Eyes
(『夢の中』のように遠くなる―――、)
ゆっくり、かろやかに、スローに、アダージョに・・・・・・。
スロ/ロ/モウション/
・・・・・・・わすれて・・・・・・。
空を飛ぶ鳥が、一瞬図鑑のように静止する―――プログラム・・。
ターゲットカーソルを視線移動で指定していき・・。
玉手箱を開けてしまった―――らしい・・。
そこは・・・・・・。
そこは・・・・・・。
廃墟の部屋だった・・・・・・・。
物がだぶって見えたり、ゆがんで見えたりする。
ゲオルクバゼリッツの逆さの森。
生きる世界の落差を浮き彫りに―――。
周囲には誰もいない。
天使使の凍る言葉、明日の暗号、
人生に逆上せる機関の音。
声もしない。
ふわふわしたサスペンション・・。
全身に微弱な電流が走ったまま、
身動き一つできない。
足元は彼岸花が咲き誇っている。
宙吊りの胎内、鉄骨を見上げるような眼、
横顔、透明な音楽の層・・。
白い扉と黒い扉が見えている。
しぶきをあげるミシンが移動し―――。
プチン、と頭の中で何かがねじけ飛ぶ音が、
確かに一度、聞こえた・・・・・・・。
けれど本当にそんなことがあったのかは、
誰にもわからない、それが物語のよいところであり、
もっとも根本的に問題を抱えているところでもある・・・・・・。
「っていう噂話があってさ、一度行ってみない?」
と、君が言う。
オワレル かもめ7440 @kamome7440
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