▽第28話 戦場へ向かう新兵たち

 001管理者から獣兵計画を聞いてから後日。

 実戦の日。

 私は目を覚まし、カーテンの隙間から差し込む太陽の光を浴びる。


「おはよぉ、アルク」


 シエルが隣で目を覚ました。

 犬耳を動かし、寝ぼけながら抱き付いてくる。


「おはよう、シエル」


 そんな愛らしく、私を求めてくるシエルを撫でる。

 柔らかい髪とふわふわな犬耳。触り心地は最高。


「今日が実戦だよね?」

「まぁね」

「アタシも行きたい」

「新兵が中心って聞いているけど、シエルも来るの?」

「アタシは行けない、管理者から今回は新兵だけの実戦と聞いているから……」


 撫でていると、シエルは体を密着させて私の谷間に顔を埋めてくる。抱き付く力も強くなる。

 まるで子供のように離れたくない、行かせまいとしているようだ。


「大丈夫だよ。シエルも通ってきた道でしょ? 私だってやれるよ」

「違う、アタシの時は新兵と熟練兵混合だった……新兵だけの実戦は聞いたことがない。なにがあるか分からないよ」


 話を聞けば今回は特別らしく、シエルがこんなに心配しているのはそのためのようだ。


「大丈夫、信じて」

「……うん」


 それでも実戦へ行くことに変わりはない。

 だから絶対に生き残る。アンみたいにシエルを置いて死ぬ訳にはいかない。


「じゃあ準備するね」

「待って、まだこのままで……」

「甘えん坊さんねぇ。ほら、シエルが納得するまでぎゅってしてあげるよ」

「んぅぅ……♡」


 時刻は朝の五時。集合時間までまだ時間がある。

 私は許される時間の範囲内でシエルを抱いて、撫でる。

 これが最後に触れる温もりとしないために絶対に生きて帰らなきゃ。


  ※


 数時間後。

 シエルを思い切り安心させてから支度して、管理部に移動。

 管理部に入ると、今回実戦に参加する新兵たちが集まっていた。


「あ、来た! 噂のスーパールーキー!」

「あらあら、あの人が噂の……意外と可愛い子じゃない?」


 猫耳の元気な女の子とキツネ耳でお姉さんの雰囲気がある女性のおねロリペア。

 その二人が声を上げて私が来たことを告げると、周りの新兵は私に注目する。


「こんな学生服着た人がスーパールーキー? アニメじゃないんですよ、もっと現実的に戦闘に有利な服を着た人がスーパールーキーなんじゃないですか?」


 そう言ってくるのは古い世代の迷彩服を着たメガネ男子。ブタ耳だ。

 男の子だけど可愛い顔をしている。しかし言葉、言い方には中々に棘がある。


「この人がスーパールーキーだよ。ホトバ教官と一緒に戦闘訓練室から出てきたの、ウチが見てるから」

「ほ、本当にこの人なんだ! す、すっごー……」


 強気な犬耳と弱気な猫耳の女の子二人。

 学生くらいの年齢に見え、服装もまた学生服だ。


「これで全員なの? 001管理者」

「そう、これで全員」

「相手の規模は?」

「こっちと同じで六人。分隊規模同士の実戦になるわ」


 私も含めて猫型が三人。後は犬型、ブタ型、キツネ型がそれぞれ一人ずつ。

 計六人のメンバー。


「今回はよろしく、みんな! アルクって呼んでね!」


 初めての顔合わせだ。

 まずは第一印象を良くするためにも、キリッとポーズを付けて自己紹介をする。


「あら、意外と痛い人だわぁ。それにしても噂通り本当に名前を付けているのね」

「こっちも名前を付けようよ!」

「うふ、じゃあ私はミッケにしようかしら。敵を見つけるのは得意だから」

「ミッケ……じゃあ一文字変えてミック! 今日からミックはミックだよ!」


 私が名付けをすることもなく、二人は自分たちでミッケとミックと名前を付けた。

 途中さらっと酷いこと言われたような気がしたが、まぁそれは聞かなかったことにしよう。


「みんな名前付けるってんなら、ウチらも名前付けよ?」

「う、うん! 私は――」

「ヨワナシ」

「ふぇ!?」

「弱いところなしってこと。あんたにはピッタリだと思うよ」

「え、えへへ! じゃあそっちはキョウカ。強い花という意味なんだけど、どう?」

「いいじゃんね。今日からキョウカって名前にするわ」


 ヨワナシとキョウカ。

 ミッケとミックに続いて、強気弱気女の子ペアも自ら名を付けた。

 残るは迷彩服のメガネ男子だけ。

 自然とメガネ男子に視線が集まる。


「な、なんですか? 名前なんて、別に今の管理名で十分ですよ」


 などと本人は言っている。

 この状態で名付けしたら嫌がるかもしれない、そう考えていたら「お前はメガネ!」とミックが勝手に名付けをしてしまった。


「メガネ!?」

「うふ、シンプルで特徴的だから良いと思うわ」

「いやいや! こんなの悪口じゃないですか!」

「だったら自分で名前付けろよ。ウチ、管理名で呼ぶのだるいんだわ」

「うぅ……それならメガネでいいですよ、もう!」


 これでなんやかんや管理者以外の全員の名前が決まった。


「本当に面白い。自分たちで名を付けちゃってさ」

「管理者も名付けする?」

「いや、名前は既にあるんだ」

「どんな?」

「ヒ・ミ・ツ」


 そして001管理者には既に名前がある様子。名付けは必要ないようだ。


「さて、みんな……実戦に出よう。それぞれ武器を持って各兵舎の誘導員に従い、実戦に出て、必ず帰って来て」


 初の実戦。

 私たちは管理者に従い、それぞれの兵舎に戻り、武器庫から自らの武器を持参。

 誘導員に誘導されて、私たちは実戦の戦場に向かう。

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