▽第23話 過去と今
シエルともキスをして、夜が過ぎた次の日。
ここに来てから四日目の朝。
「んゅ……っ」
カーテンの隙間から差し込む光が私を照らし、目覚めさせる。
目を開いて視界に映る光景。
薄明るい部屋。同じベッドで寝るシエルの姿。
私は起きて早々にシエルを撫でる。
「んんぅ……」
犬耳がピクピクと反応。起こしてしまったか、眠たげに声を出したシエルは体を動かして目を開く。
「おはよう……」
「えへへへ、おはよ!」
目が合っての起床。
早速シエルは尻尾を振り振りして私に抱き付いてきた。
とても甘えたがりな様子。可愛い顔して密着されたら、淑女たるものもう抱きしめて撫でる。それしかないじゃん?
「何時ぃ?」
「朝の七時」
「寝過ごした……」
「まただね」
「怒られる……」
二日連続で寝坊。しかも昨日より一時間遅い。
このまま一時間ずつ遅く寝坊していくんじゃないか。
そんなことを思っていると、ピンポーンとチャイムが鳴り響いてきた。
「来たぁ……」
「とりあえずインターホンに出てくるね」
こんな寝坊してしまっては怒られるだろう。
ここは怒られ慣れている私がインターホンに出よう。
起きたばかりの体を起こし、自室からリビングに移動。自動で起動中のインターホンに出る。
「あ、ようやくか」
インターホンに映るのはキョウコの姿。聞こえてくるのはキョウコの声。
「おはようございます、キョウコさん」
「出るのが遅いな」
「あはは、すいません……今の今まで寝てましてね?」
「はぁ、お前たちは……まぁ今日は休日だから良しとする。それはともかく、玄関を開けてくれ。部屋のチェックをする」
「あ、はい!」
運が良いことに休日だった。
大して怒られることはなく、部屋のチェックとやらが入る。
私は玄関へ向かい、玄関扉のロックを解除して開く。
「休日に悪いな。こういう休日くらいにしか部屋のチェックが出来ないんだ」
「あぁ、いえいえ。ゆっくりしてるだけだったんで大丈夫ですよ」
そうしてキョウコが部屋に入る。
一体なにをチェックするのやら。そう思っていると、キョウコが放置されたシエルの服やゴミを見つけて目つきが鋭くなる。
「ゴミが多いな。脱ぎっぱなしの衣類もある、誰のだ?」
「私は、自分の分はちゃんと片付けているのでシエルのじゃ?」
「はぁ……アンが死んだ今でも最強の一角だというのに、この体たらく……」
部屋を清潔に保てているかとかのチェックだった。
寝坊で怒られる心配がなくなったと思っていたのにまた怒られる要素が増えていく。
「アンの死がそんなにショックだったか。ずっとこんな状態だとはな」
しかし聞いていれば、前のシエルはキョウコが言うほどにだらしなくなかった様子。
私は気になって「前のシエルはどうだったんですか?」と質問してみる。
「前のシエルか。そうだな、アンの良きパートナーという感じだ。とても仲良しで本当の兄妹みたいだったし、部屋だってこんな状態じゃなかった」
「へぇ……」
「今みたいに根暗ではなかったんだ。彼女はもっと明るかったよ」
質問の答えはアンの死がシエルを変えてしまったという話。
そこからキョウコはリビングの閉じられたままのカーテンを開き、薄暗い部屋を太陽の光で照らす。
「まぁなんにせよ、シエルに何度注意しても意味がなかったということだ」
「じゃあ私が……?」
「そうだな。シエルが出来ないなら、お前に部屋の保全を任せた方がいいだろう。新人で覚えることもやることも多いだろうが、お前に頼みたい」
キョウコに部屋の保全を頼まれる。
実は私も部屋の汚さは気になっていたところだ。
この際だから部屋を綺麗にするつもりで「お任せください」とキョウコの頼みを引き受けた。
「そう言ってくれて助かる。それとシエルの世話も頼む、部屋の保全に繋がるだろう」
「はーい、お任せあれ!」
ついでにシエルの世話も頼まれた。どうやらシエルを、部屋を汚くする根源と見ているようだ。
ならばやることは一つ。淑女たるもの美少女の世話をするだけのこと。
「では、私は他の部屋も見に行ってくる。後ほどまた見に来るから、それまでになるべく綺麗に片付けておくように」
「了解であります」
そしてキョウコは去っていく。
次にやることは部屋の片付けと掃除だ。連日の訓練のせいで筋肉痛はあるが、任せてと言った手前、なんとかやってみせよう。
「アルク」
「あ、どうしたの?」
「話は聞いてた。部屋が汚いのは全部アタシのせいだから、手伝う」
これから部屋を綺麗にしようとした時、キョウコが去っていったタイミングでシエルがひょっこりリビングに出てきた。
「じゃあ手伝ってもらおうかな。一緒にやって早く終わらせよ?」
「うん!」
こうして四日目はシエルと共に部屋の片付け、掃除から始まる。
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