▽第3話 新しい人生の出発点

「あ、どうだった? ちゃんと名前もらった?」

「うん、アルファ671だって。さっさと違う呼び名にしたいなぁ」

「じゃあ呼び名を考えながらでも、案内を続けるね」

「オッケー!」


 管理部を出て、廊下で待っていたシエルと合流。

 私自身の新しい呼び名を考え始めながらシエルの案内は続いた。

 案内に従って来た道を戻り、建物から出る。


「アルファ671、歩組、うーん」

「安直過ぎるのはあれだけど、だからって捻り過ぎは考えものかもね」

「丁度その中間を射抜ける名前……か」


 一緒に私の名前を考えて歩いていき、先ほどの大きな建物から離れる。

 案内の先にあるのはまた別の建物。いくつも建ち並ぶ建物群にとことこ歩いていく。


「あ、そういえば今向かってるところは?」

「兵舎。アタシたちが寝泊まりしているところ、今の家」

「それって割り当てられる部屋は個人の?」

「いや、基本は集団で共有してる。アタシの部屋は今のところアタシ一人だけど」

「じゃあ私の部屋、シエルと一緒がいいなぁ……シエルはどう?」


 聞けば集団生活をすることになる。

 どうせ集団生活をするなら見知った顔の人と生活するのが良い。その方が緊張しないで済むし、心を平穏に保てる。


「うん。アタシもそのつもりだった。今日から一緒に生活しよう」

「えへへ、プロポーズみたいだね」

「……もう」


 私が冗談を言ったのに対してシエルは顔を赤くした。冗談を真に受けて恥ずかしがる姿もなんと可愛いんでしょ。

 そのまま「こっち」と案内は続いて第七兵舎と書かれた建物の中へと入っていく。

 第七兵舎の中は民間の集合住宅と大して変わらない。

 空調はよく効いていて、清潔感があるようにちゃんと管理されている。


「お部屋はどこかな?」

「一番上の階にある」

「外から見た感じだと五階だね」

「そう、そこそこ。その階の一番奥。付いてきて」

「あーい」


 案内するシエルの後ろを歩いて付いていく。

 今日はよく歩く。しかも裸足で。ペタペタとひたすらに歩いて足が痛い。


「ここ」


 そうして足の痛みに耐えながら五階の一番奥の部屋に到着。

 シエルは変なイントネーションで自分の部屋を指差し、生体認証装置に手を置いて玄関扉のロックを解除。


「入って、どうぞ」

「はぇー」


 文字通りシエルの手によって開かれる玄関。

 見えてくる室内の様子は普通。いくつかの置きっぱなしのゴミや衣服、完全に閉じ切られたカーテンなどゴミ屋敷とまではならない陰の生活感がある。


「お邪魔しまーす」

「少し汚いけど気にしないで」


 シエルと一緒に部屋の中へと入って玄関の扉が閉じられる。

 足元に気を付けて進み、部屋のリビングへと。


「ここで共同生活かぁ、楽しみだなぁ!」

「使われてない部屋はあっち、付いてきて」


 シエルと共同生活出来ることにワクワクしていると、次に私の自室となる部屋に案内された。


「へぇーベッドから机まで、もう色々用意してあるんだね」

「まぁね。あの人のだけど」

「あの人?」


 案内された先にある部屋には既に物が色々と用意されている。と思えば、元々この部屋には誰か住んでいたようである。

 じゃあ、元々の住人はどこに行ったのだろうか?


「その人はどうしたの?」

「死んだよ、戦闘で」

「え……」


 ワクワクから一転して、いきなりの重い話。


「まぁ気にしないで。死んだ人は戻ってこないから、この部屋を使ってあげて」

「あ、あぁー……うん」

「不満?」

「大丈夫。シエルと一緒なら」


 先人が生前使っていた部屋。いい気分で住める訳ではないけど、仲良しとなったシエルと一緒に住めるなら余裕で我慢出来る。


「あ、そういえば足は大丈夫? 長く歩いて痛そうにしてたけど」

「それはまぁ、そろそろ限界かも。もうメチャクチャ痛い」

「それなら先に休んでて。アタシはまだやることあるから」

「はーい」


 そう言ってシエルは今日から私のものとなった自室から出ていった。

 話し相手がいなくなると疲れが出てくる。ずっと歩いていて体力の限界。

 私はベッドの側面から横になり、自分の汚い足は乗せずにぷらんぷらんと垂らす。


「あ、名前……どうしよう」


 途端に眠たくなる意識。ぼんやりと独り言が口から出る。


「たくさん歩いたし、階級が歩組だし……歩む、歩く、アルク?」


 アルク。いいかもしれない。


「すぅ……」


 それ以上はなにも考えられずに、私の意識は落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る