第3話 お外へのお散歩
「エリアス、いい? 遠くに行っちゃダメよ? それとお外にいる人に魔法を向けるのはダメだからね?」
「わかってるよ、母さん」
「あと夕方までには絶対帰ってきてね?」
「大丈夫! 早く帰ってくるよ!」
レイナは心配そうに眉をひそめ、いくつかの注意事項を言い並べてくる。
大丈夫さ、なんたって俺の精神年齢はおじさんなんだから。
その辺の常識は一応身についているつもりだ。
それにもう外へのお散歩も今日で5回目、毎回こんな感じに母さんが心配するのでなんか申し訳ない気持ちになる。
「あと、いつも言うようだけど『亡者の森』には行っちゃダメだからね?」
「うん、わかっているよ。危ないんだよね?」
「そうよ。あそこには、モンスターはもちろん、お化けだっているんだから!」
オバケとはなんと子供だましな。
子供が近づかないようにするための、作り話という感じだろうか。
しかし一方のモンスター、それはこの世界において、たしかに存在する生物らしい。
どういったものかは分からないが、ちょっと興味本位で見てみたい気もする。
まぁ母さんが心配するから行かないけど。
「うん。僕、怖いから近づかないよ」
いつもこうやって、子供らしい口調で母さんを安心させるのだ。
いらぬ心配はかけたくないからな。
「じゃあ、気をつけてね」
そう寂しそうな瞳で見送る母に、わずかながらに罪悪感を抱きつつも俺は背を向けてアールグレイ家を後にした。
さて今から外をお散歩するぞ、と意気込んで外に出たものの、いつも行く場所は決まっている。
家から少し離れた場所に丘があるのだ。
それこそこの村を一望できるくらいには、小高くそびえ立っている。
広さもそれなりで景色がいいということもあり、ここは魔法の練習するのに、気分も高まって最適。
「よし、いつも通り魔法のおさらいからだ!」
まずは掌の上に魔法を具現化させる。
半年前は5センチほどの立ち昇り方だったが、今では3メートル以上の高さにまで成長した。
そして3段階目の『性質変化』
っとその間に、この高く立ち昇った魔力を掌に小さく凝縮させる。
イメージとしては野球のボールくらいに。
そうしないと魔力が分散してしまって、上手く3段階目に進めない。
実際この半年、性質変化させるよりも凝縮させる技術を会得するのに時間を消費したと言っても過言ではないのだ。
そしてようやくここに属性を加える。
それがこの性質変化という段階。
「まずは炎だな」
俺は掌に凝縮した魔力に炎のイメージを付け足した。
すると、青いその球体は赤く染まり、メラメラと燃え始める。
これで小さな火の玉が完成だ。
本当はこれを色んな形に変えて戦闘やら生活やらで活用するらしいが、それはまだ練習中。
この性質変化に大事なのはイメージ力。
その属性のイメージが正確なだけ魔法の質は高くなり、魔力消費効率も良くなるらしい。
ちなみに性質変化に関して、俺が初めて会得した属性は炎になるのだが、その理由としてまず母さんが得意としているため教えを乞いやすいというのが1つ。
そしてもう1つ挙げるとすれば、前世の経験である。
俺がアルベールの時1番多く対峙した魔法、それが炎魔法だったのだ。
もちろん最終的にぶった斬るわけだから直撃することはほとんどなかったが、斬る直前の迫り来る炎は熱いのなんの。
え、氣を全身に巡らせても熱いのかって?
あぁ、熱いね。
もう茹でられるカニの気持ちがよく分かったよ。
もちろん氣を纏えば、外傷は防げる。
しかし不便なことに温痛覚には全く作用しないのだ。
だから火の魔法は死ぬほど熱いし、雷なんて体が裂けて死ぬほど痛かった気がする。
……いや、雷に関しては実際死んだんだけどね。
つまり俺は炎による熱さや焼かれる痛みが、雷に体を裂かれる激痛が、皮肉にも性質変化に必要なイメージとして役立っているのだ。
「属性のイメージは正確であるほど習得しやすいし、発動時間は速く威力も高くなる」
父さんはこう言っていた。
だからもしかすると炎だけでなく、これから雷や他の魔法だって覚えられるかもしれない。
とりあえず炎の性質変化は習得できたので、これを魔法として発動することができてから他の属性も試してみるつもりだ。
「なぁ、お前『亡者の森』に家があるってほんとなのか?」
「ええ。ほんとだから今案内してるんでしょ?」
すると丘の下から話し声が聞こえてきた。
気になって下を覗くとそこには4人の子供達がいる。
ちょうど俺と同い年くらいだろうか。
男女比もちょうどバランスよく半々みたいだ。
今、亡者の森がどーとか言ったのは、中でも一番ガタイのいい見るからにガキ大将って感じの男の子。
そしてそれに答えたのはあまり健康そうではないような血色をした細身の女の子で、その長い黒髪で目元がハッキリ見えないことからも少し不気味な雰囲気を漂わせている。
残りの男の子は、あのガキ大将とは対極の細く弱々しそうな見た目。
ガリガリ君、とでも名付けようか。
そしてもう1人の女の子。
稀に見ない綺麗な銀髪、遠くからだが将来有望そうな美貌を兼ね備えている美女予備軍といった感じがみてとれる。
「やっぱり止めようよ〜」
「そ、そうだよ。お母さんに行っちゃいけないって言われてるしさ」
見た目通り、弱音を吐くガリガリ君。
それに続く銀髪の女の子。
「大丈夫だよ、私の家まで行ける安全な道知ってるんだ」
「じゃあ、ちょっとだけ行こうかなぁ……」
ガリガリ君は不気味な見た目の女の子に、簡単に説得されている。
判断能力も年相応か。
こんなん絶対危ないに決まってるのに。
銀髪の子は最後まで渋っていたが、あのガキ大将に「大丈夫、俺が守ってやるからさ」とか言われて背中を押されている。
こりゃ完全にいく流れだな。
そう思っていると案の定、一行は森へ向かい始めた。
さてどうする。
念のため付いていくか?
しかし俺も母さんに止められているからな。
ま、夕方までに帰れば大丈夫か。
あの子達に危険が及ぶと分かっていながら見過ごすってのも具合が悪いし。
俺は彼らの後を追うことにした。
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