17. 金メッキの非難

ルキウスの怒り

グレゴリウスの健康悪化が深刻さを増す中、アウグストゥス家の屋敷内は不安と緊張に包まれていました。呼吸の苦しさを訴えるグレゴリウスを目の当たりにしたルキウスは、辰砂――そしてそれを処方したレオナルド――への不信感を募らせていきます。

ある日、レオナルドがグレゴリウスの容態を確認するため屋敷を訪れます。彼が玄関ホールに姿を現したとき、待ち構えていたかのようにルキウスが近寄り、刺すような視線を向けました。

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非難の言葉

ルキウスの怒りは抑えきれず、彼は鋭い声で言い放ったのです。

「おい、レオナルド。これが君の言う『賢者の石』の成果か?」

その場の空気が一気に凍りついた。親族や使用人たちは動きを止め、二人のやり取りに目を向けました。レオナルドは冷静を装いながらも、眉をわずかに動かしてルキウスを見ました。

「ルキウス、私はグレゴリウス様のために最善を尽くしています。これ以上の侮辱を受ける筋合いはありません。」

しかし、ルキウスの怒りは止まりませんでした。彼は一歩前に踏み出し、さらに声を強めました。

「侮辱だと?君が詐欺師でないと言えるのか?この辰砂という毒物を『賢者の石』と呼び、兄さんに飲ませた結果がこれだ!」

彼の声が響き渡る中、ルキウスは皮肉を込めて言葉を続けます。

「錬金術だなんて高尚なことを語っているが、金メッキ職人の方がよほど正直だ。金メッキなら少なくとも表面は本物の金だからな!君のやり方はただの偽装だ!」

その言葉に、ホール全体が凍りつきます。親族たちは息を呑み、使用人たちは顔を見合わせながらも口を開けずにいました。

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レオナルドの反応

レオナルドは静かにルキウスを見つめました。その顔には怒りや狼狽の色はなく、むしろ冷たい無表情が広がっていました。彼はあえて何も言い返しませんでした。

「この状況に動揺しているのだろう。」

彼は心の中でそう考えながら、一礼して周囲に向かい、普段通りの穏やかな声で言いました。

「本日はこれで失礼します。グレゴリウス様の回復を心よりお祈りしています。」

そして、彼はゆっくりと玄関を出て行きました。ルキウスはまだ怒りで震えていましが、周囲の静けさはそれ以上の非難を許さなかったのです。

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後に残る不安と疑念

レオナルドが去った後、親族たちの間に重い沈黙が広がりました。ルキウスは苛立ちを隠さず、腕を組んでその場に立ち尽くしていました。

「ルキウス、もう少し冷静になれないのか。」

ユリウスが近づき、抑えた声で話しかけました。

「冷静だと?兄さんの命が危ないというのに、冷静でいられるものか!」

ルキウスは振り返らずに答えます。

一方で、クラウディアは険しい顔でルキウスを見つめていた。彼女にとってレオナルドは敬愛する錬金術師であり、叔父に対する治療に尽力している人物だったからです。でも、今回の非難に一切反論しなかった彼の姿が、彼女の心にわずかな疑念を植え付けていました。

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レオナルドの内心

屋敷を出たレオナルドは、冷たい夜風を受けながら静かに歩いていました。ルキウスの言葉が頭の中で繰り返されます。

「金メッキのほうが正直だ、か……」

彼の胸には、自分の研究と信念が揺らぎ始める不安が芽生え始めていました。しかし、それを認めるわけにはいかなかったのです。

「私は正しい……賢者の石が本物であることを証明するのは、時間の問題だ……」

彼は自らに言い聞かせるようにそう呟き、夜の闇に消えていきました。

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