賢者の石と愚者の黄金
つじひでゆき
1. プロローグ:愚者の黄金
1665年、プラハ郊外。冬の終わりを告げるように、白い息が暖かな日差しの中で舞い上がっている。少年エリアスは、工房の片隅で木の端材をいじりながら、父の仕事が終わるのをじっと待っていました。
「エリアス、こっちに来なさい。」
父の低く温かな声が工房に響く。少年は木屑を手にしたまま跳ねるように駆け寄った。父の手は固く、作業で荒れているが、その手が差し出すものは、どこか異様な輝きを放っています。
「これが何か分かるか?」
父の手のひらには、小さな黄鉄鉱の結晶が乗っていた。金のような光沢を持つその結晶は、太陽の光を受けて煌めき、まるで魔法のような輝きを放っている…
エリアスは目を見開き、小さな手で慎重にそれを掴みました。
「金?」彼は期待に満ちた声で尋ねます。
父は穏やかに笑いながら首を振る。「いや、これは『愚者の黄金』だ。本物の金じゃない。でも美しいだろう?」
エリアスは結晶をじっと見つめ、指でそっと撫でた。ごつごつした表面と冷たい感触が、彼にとっては何か神秘的なものに感じられたのです。
「愚者の黄金……?」
「そうだ。世の中には、これを金だと思い込む人もいる。だが、本物の金でないからと言って、価値がないわけじゃない。この石は、鉱山からやっとの思いで見つけ出される。そして、そこにはまだ知られていない秘密が隠れているかもしれない。」
少年の瞳は、結晶の輝きと同じように光を帯び始めました。
「秘密……?」
「そうだ。いつか、お前が大きくなったら、この石が何のためにあるのか、自分の力で見つけてみるといい。」
エリアスは嬉しそうに笑い、結晶を胸に抱きしめました。「分かった!この石を大事にするよ!」
父はその姿を見て、少しだけ感慨深い表情を浮かべます。職人として世の中の現実を知る彼は、この結晶を通じて、息子に「知ること」の喜びと、「探求すること」の重要性を伝えたかったのです。
その瞬間、少年エリアスの心に、初めて「何かを見つけ出したい」という小さな種が蒔かれました。それは、彼が後に歩む道の始まりであり、光と影の入り混じる旅路への第一歩でした。
結晶を握りしめながら、エリアスは外の光へ駆け出していく。その背中を見送る父の瞳には、一抹の希望と微かな不安が宿っていました。彼が進む未来が、父の想像を超えるものであることを、今はまだ誰も知りません。
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こうして、愚者の黄金が少年エリアスの手に渡り、彼の探究心と未来への希望を宿すきっかけとなった。この小さな出来事が、彼の物語の扉をそっと開けることになるのです。
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