鬼人の子

牡羊座の山羊

鬼人の赤子

 ふと肌寒さに目が覚める。なにやら全身に風を感じるが、俺は窓を開けたまま眠ってしまったのだろうか?そう疑問に思いながら周囲を見回すと、なんと野外である。


「……ンガ?」


 外で寝た記憶はない。ついでに辺りの景色にも見覚えはない。家もあるが……正直田舎ですら早々見ないような、何時の時代だよって感じの貧相な造りである。

 あと近くに寝転がっているこの薄緑色をした

 人型の妙な生物達にも、当然見覚えはない。見た感じ子供っぽいが、なんだこいつら?


「ヌムゥ?」


 とりあえず起こさないよう距離でもとろうかと立ち上がりかけた時、妙なものが目に入る。それは俺の体だった。

 なんだか目の前の奴らとよく似た色合いをしているし、サイズもずいぶん縮んだような……。


「ギ……?ギァッ⁉」


 ま、まさか俺もこいつらと同じ生物なのか⁉

 そういえば何故かうまく喋れてないし、記憶もかなり曖昧な気がする!しかも全裸だ!どうりで寒い訳だよ!

 ななななんてこった、これはもしや異世界転生的なサムシングだったりするのでは?

 妄想の一度や二度、いやさ百や二百じゃ利かない程に妄想はしていたが、いざ実際に我が身に起こってみると動揺が凄いもんだねこれは。

 む?というか転生したってことは俺死んだのか。全く記憶にないな。それどころか自分の名前すら思い出せない。悲しいことに、容姿はうっすら人並み以下だったと憶えているのに……。


「……!」


 酷な記憶に打ちひしがれていると、足音が聞こえてきた。音のする方を眺めていると、家の影から足音の主の姿が見えた。


「⁉」


 な、中々のイケメンじゃねーかこんチクショウ。もげろ!何とは言わんが取り敢えずもげてしまえ!

 そんな俺の念が届いたのか、そいつはこちらに振り向いた。起きている俺を眺めて面倒そうに顔をしかめると、あくびをして去っていった。かと思えばすぐに何か籠のような物を抱えて戻ってきた。


「@$^#_&^$**」


 うん、なに喋ってるかさっぱりですね。籠の中身をこちらに投げ入れている仕草から想像するに、餌の時間だ的なことを言ってそうだな。

 それで気が付いたんだが……ここ、柵で囲われているじゃないか。雑な造り過ぎてスルーしてたわ。

 飯の気配を感じたのか、他の奴らも起きはじめた。起きると我先にと投げ入れられた物を貪っている。腹はそんなに減ってないが、せっかくだし無くなる前に俺も食べるか……。


「……ン?」


 掴み上げた物がモゾモゾ動いている。虫さんコンニチワ。えっ、これ、そのまま食べるんです?嘘っすよね⁉

 戸惑っていると横から手が延びてきて貴重なタンパク源さんが奪われる。いやー、盗られちゃったんだから仕方ないね。食べ物無くなっちゃって悲しいなー(棒)。

 好き嫌いは駄目だって言うけどさ、余裕がある状況で一発目に持ってこられると流石に躊躇うって。食べる時がいつか訪れるとしても、限界まで先延ばしにしたい。

 飯を食い終わって暇なのかキャイキャイ騒がしいお友達をいなしながら、柵の外を眺め続ける。さっき飯を持って来た奴もそうだが、時折姿が見える連中の全員が見た目がいい。額に角が生えているので、鬼……はワイルド過ぎるので鬼人って所だろうか?

 柵の中の俺達にも小さな角が生えているし、大人になるとああなるのか。このブッサイのからどうすればそんな成長をするのか少々疑問だが、人間の赤ちゃんだって産まれたては猿みたいなもんだしな。肌の色が変わるのも、きっと生命の神秘って事なのだろう。約束されたイケメン人生、最高だね。

 できればもうちょっと文化的な暮らしがしたいんだが、どれくらい育てば家で暮らせるようになるのかな?雑草で腹を満たしつつ、そんな事を考えながら眠りについた。

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